真相の深層
「俺だけでツララと戦り合う覚悟だったのに、結局また皆の世話になっちまった。すまん。不甲斐ねぇ」
「気にする必要はない、奴とて頭数を増やしておるではないか」
「神楽夜の言う通り。それに本当に仲間を召喚することも実力だと思っているなら、最初から頭数を揃えてきたはず。おそらくあれは正攻法で潰そうとしたけど、ツクシ君に互角かそれ以上の力を感じたから、出さざるを得なくなったってとこでしょ」
俺は会話を続けながらも、ツララが吹っ飛んで行った場所から視線を外さない。
しかし変わらず砂煙が見えるだけで、現状動きはないようだ。
それなら今のうちに、こいつらに伝えておきたいことがある。
「なぁ。お前達三人に言っておきたいことがあるんだが」
ずっと方法を考えてはいたけど、親父の帰還によりそれが随分と容易になった。
俺は剣を構えたまま、視線も合わせないまま。
仲間達に問いかける。
「なんじゃ? ついに愛の告白かや?」
また的外れな事を、色ボケ兎が……と言いたいが、今回はあながち完全に的外れなわけでもない。
「似たようなもんだ。三人には今回の件で散々おんぶに抱っこ、助けてもらった。今からも大いに力を借りることになると思う。そんなお前達に、せめてもの恩返しがしたい」
まぁもったいぶって言ったところで、俺に出来る恩返しなんて一つしかないけどな。しかし、それがこいつらにとって一番なのもきっと間違いない。
「親父が帰ってきた。あいつに家は任せられるだろうから、俺が覚醒したら順番にお前達の世界を巡るよ。住みついたら無敵なんだろうけど、ある程度滞在するだけでも恩恵はあるんだろ? だから事が済んだら共鳴を頼む、神楽夜」
「――な!? 主、なぜ童がウェイカーであると知っておる!?」
神楽夜は耳をピンと立て、驚愕の表情を浮かべている。
「シキには言うなと口止めしておいたはずじゃぞ。最後に妾から恰好良く正体を明かす為、色々準備しておったのに!」
「ウェイカーは獣人界から出たと聞いたし、神楽夜は異世界人の中で唯一、前にもこの世界へ来たことがあると言っていただろう? 当時、侵略する優先順位が圧倒的に低いと言われたこの世界にわざわざ来た理由。それは人間界で暮らしている座敷童の覚醒が可能だと、自分だけが知っていたからなんじゃないのか。そのあたりで親父とも繋がったんじゃないかと思ってる」
「くっ、ほぼ正解じゃ。相変わらず変なところだけ頭が回る、つまらん奴じゃの」
「ただ一つだけ分からないのは、何故ずっと隠していたのに、今になってウェイカーが存在しているという事実が各異世界にバレたのかだ」
「バレたのではない。主が座敷童であり人間界に住んでいることと、ウェイカーが同時期に存在していること。どちらもこちらから情報を流したんじゃ。ただ主は名前からなにまでほとんどの情報を流したが、ウェイカーが妾だという情報は流しておらぬ。妾まで的にされてはたまらんからの」
は? 自分から情報を開示したって、一体なぜそんなことをするんだ?
そんなことをすれば俺はもちろん、ウェイカーについて嗅ぎまわる輩も増え、神楽夜にとってもマイナスにしかならないだろう。実際、リュウカもウェイカーが獣人界に居るというところまでは情報を持っていたし。
って、いや。その前になんで俺だけ個人情報付き実名報道なんだよ! お前の分まで的にされまくってんですけど!
「お前と親父だけがその事実を知っている状態なら、この世界と獣人界だけで俺の能力を独占出来たはずだ。それなのにどうしてわざわざ他の異世界に情報を触れ回った? 現に一番厄介な魔界のマギャリオンにまで目を付けられているんだぞ」
神楽夜はなぜか、したり顔でにやりと笑う。
「ふふ。名推理ばかりで驚いたが、そろそろ鼻を明かしてやろう。まず話さなければならないのは、マギャリオンの性質についてかの。魔王である奴には何人もの側室がおり、子を成す度に別世界へと放り込む。目的は二つ。自分に匹敵する可能性のある力を側に置かない事、そして別世界侵略の際に駒を持っておくためじゃ」
「なるほど。それで人間界に送られていたのが、ツララってわけか」
ただ今回はたまたま座敷童の俺が人間界に居ただけで、ツララを送った当時はマギャリオンもその事実を知らないだろう。人間界は本来侵略する優先度が相当低いと言っていた、送り先にはなにか別の基準でもあるのか?
それともあまり想像したくないが、襲う可能性の低い世界に送っても問題がないほど、マギャリオンの子孫は多いのかもしれない。
「五歳程度まで成長するとその子らはもれなく本能で魔族として覚醒し、各世界に脅威として君臨する。しかし多くの場合、各世界の戦闘向き種族に駆逐されてしまう」
なんだそれ、滅茶苦茶だ。たった一人別世界に放り込まれて、孤独に散っていく。
息子や娘がそんな目に遭って平気な親なんて、居ていいはずがない。
マギャリオン。本当に胸糞悪い野郎だぜ。
そして神楽夜の言い方からすると、魔族って奴は覚醒に共鳴を必要とすらしないみたいだ。
でも、それなら。
「ん? もれなくと言ったが、ツララは今日まで一切そんな片鱗を見せていなかったぞ」
「その通り、主等兄妹は全員がイレギュラー。シキとセツは拾ったその時から弟の正体に気付いておった。だから、魔族の力が覚醒しないように制御したんじゃ。主の母セツはセイレーン、その力を持ってすれば不可能なことではない」
――なるほど、そういうことか。
母さんが居たからこそ、ツララは人間で居られた。
ツララがおかしくなっていった時期とも合致するので、説得力がすさまじい。
「って、それじゃあ今後スイカやモミジがツララに力を使ってくれれば、あいつは元に戻るのか!?」
「残念ながらそれは無理じゃ。力が目覚めないよう制御は出来ても、一度目覚めてしまった力をなかったことには出来ぬ。それにおそらく、半分人間であるハーフセイレーンにそこまでの力は出せん」
「なんだよそれ。じゃあ、ツララはもうずっとこのままだってのかよ!」
「そう露骨に落ち込むでない。鼻を明かしてやるといったじゃろう?」
神楽夜は目一杯背伸びして、俺の頭にポンと手を置く。
「妾は奴らの破壊衝動や暴力性について、本能ではなく、のようなもの、と言ったのを覚えておるかや?」
俺はこくりと頷くことで、それに答える。
「実は厳密に言うと、それと魔族であることがイコールではない。これは召喚などとは違い、魔族の中でもマギャリオンのみが持つ能力。同族に対する精神関与、思考の強制、いわゆる支配や洗脳と呼ばれる類じゃ。それも平気で世界の垣根を超えるほど強大な力、子供達がその世界を支配しようとする思考に行き着くのはおそらくこの力が要因。つまりマギャリオンが存在する限り、この二つがイコールになってしまっているということじゃな」
やべぇ、情報量が多過ぎてそろそろついていけなくなってきたぞ。
かなりややこしいが、つまりこういうことか?
「マギャリオンを討てば、ツララの性格は元に戻るということか? ――って、まさか!」
「ふふ。気付きおったな、そのまさかじゃ。情報を流した理由は、こちらにマギャリオンをおびき寄せるため。奴のホーム魔界で戦うよりも、よっぽど勝率が上がるからの。ただし今もマギャリオンが魔王として君臨していることから、その難易度は想像に難しくない。そしてその際、自らの世界の恩恵になり得る主を守るという名目で、こちら側の戦力になってくれるライチやリュウカのような仲間を集めるため。それがシキの提示してきた契約、その後主本人から覚醒を含め許可がとれるのなら、獣人界に恩恵を受けさせてもらうことを報酬にな」
なるほど、やられた。
母さんの死後、親父が異世界を飛び回っていた理由も、俺が突然異世界から狙われ出した理由も。
全ては、マギャリオンを討つため。
ツララの平穏な生活を、いや、巡って俺達兄妹を守るためだったってのか。
神楽夜は最初の誘いや他の世界からの誘いにも、俺が乗るわけがないと分かっていたんだ。加えて山羊頭が襲撃してきた時の神楽夜の言葉、あれもある程度は芝居がかったものだった。
リュウゾウさんは元々親父と知り合いのようだし、興味半分で反応を見てみようとしたってとこか。
たしかに最初からそんなことを話されても、俺が信じるわけがない。
今、この状況だからこそ。今までがあったからこそ、全てに納得がいったんだ。
くそ。結局俺はクソ親父の手のひらの上で踊らされてたってわけかよ。
ただ、収穫もある。
それはツララが塞ぎ込んじまった事にも、いきなり性格が変わったことにも、ちゃんとした理由があったということ。
あいつはただ引きこもっていたわけじゃなく、約一年もの間、たった一人で得体の知れない魔族の血とやらと戦っていたんだ。
「あ! 大事なことを伝え忘れたが、妾の主に対する恋愛感情。これは嘘ではない。影からではあるがお主の成長を見守っているうちに、雄として魅力を感じたのじゃ。ということで今は契約で動いているというより、恋に生きておる!」
いやいや。神楽夜が最初見た当時、俺何歳で神楽夜何歳だよ。
このショタコンババァと言いたいが、今神楽夜の機嫌を損ねるのは得策ではないし、俺も五百歳前後まで生きる一族らしい。二百五歳にババァ呼ばわりは後々自分の首を絞めることになる気がするので、黙っておこう。
「ところでそれって、俺の覚醒を待ってからじゃ遅かった――」
それは突然、俺の話を遮るように砂煙を割って現れた。
「不意打ちで一撃いれたくらいで呑気にお喋りとは、随分余裕だね。有象無象の異世界人が仲間に加わったくらいでさぁ! まぁでもお礼を言うべきかな、おかげでこいつを召喚する余裕が出来たんだから!」
――しまった。
途中からツララに対する注意を完全に怠っていた。
その左角は、さっきよりも数倍大きなおぞましい光を放っている。
もしかして気を失っていたのではなく、こいつの準備をしていたのか?
そしてその先に現れたのは、さっきよりも数倍大きな紫色の魔法陣。
くそ! これは完全にアレだろ!
出てくる速度もさっきまでの小さい奴らの比じゃねぇ!
一瞬で姿を現したのは、やはり巨大山羊頭。
そいつは出てくると同時に巨体を翼で浮かせると、巨大鎌を振りかぶり一直線にリュウカの方へ向かっていった。
「まずい、一対一で適う相手ではない! ライチ、援護するぞ!」
こくりと頷いたライチと神楽夜は、リュウカのフォローへ回る。
あっちは任せるしかねぇ。その間に俺はツララを!
先手必勝の考えで剣を振り上げた俺の目の前の空間が、歪む。
そしてその直後、まるで泡のように弾け爆発した。




