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生還の技術 その壱

この話はフィクションです。

実体験とかじゃなくてすみません……

「あのさ……もし僕が

明日何処かに遭難してたら、君はどう思う?」


同期の可児武昶(かに たけひさ)がそんなバカな事を()いだした。

そんな馬鹿げた出来事がある訳ない__

と俺は云ってウィスキーを呑み干した。

すると可児はムキになって反論してきた。


「いや、明日の事なんて誰にも分からない

じゃないか。誘拐とか拉致とかで

急に行方不明になった人だって

この世界には大勢いるんだ。

明日、急に遭難してたっておかしくないよ!」


分かった分かった_と(なだ)めると、

奴は続けて云いだした。


「君は、スズキくんの悲劇を知らないから

そんな事が云えるんだ!全くもう………」


スズキ?誰だソイツ。そんな奴居たっけか?_

と聞き返すと、可児はとても残念な様子で


「ああ……やっぱり忘れ去られたのか。

スズキくん、君の技術は失敗したようだなぁ……」


は?何云ってんだコイツ。

……もしかして、俺をバカにしてんのか?

いい加減にしろよ_と云い返す。すると、


「ご、ごめん……お詫びに会計は僕がするよ。

ただ、″わざと″じゃないんだ!

本当にわざとじゃないんだ……」


俺も少しカッとなってしまった。いかんいかん。

わざとじゃないなら良いのだが、

そのスズキが何なのか気になってしょうがない。

怒鳴ったばかりだが、思い切って聞いてみた。


「え?スズキ君が誰なのかって?

……君なら教えても良いかな……

うん、良いよね、あの、じゃあ教えるね。あのね。


今から僕が話すのは、

1人の青年……つまり、スズキ君がどんな状況でも

必ず生きて帰ってきた武勇伝の事だよ。


ノンフィクションなんだけど

せめて物語っぽくするなら、そうだな……

いわば『生還(せいかん)技術(ぎしゅつ)』とでも名付けようかな。」


その技術を俺は今から聴くわけだ。

ノンフィクションとか云ったがたいした話では

ないのだろう。俺は新しく注がれたウィスキーを

二口ほど呑んで耳を傾ける事にした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




スズキくん。本名、鈴木苞夢(すずきつとむ)くんは

僕らよりも年下、若手なんだよね。

彼は地下室の在庫整理担当。

まぁ、所謂(いわゆる)″幽霊社員″だったんだ。


それに彼、性格暗いし

人付き合いも苦手だったからね。

知らなくても当然だよ。


………そんな彼の武勇伝のキッカケなったのが

5年前の冬。上司の中にさ、

若手社員の団結力を高める為に

雪山ハイキングを企画した人が居たんだ。

雪山と云ってもハイキングに行くわけだから

みんな行きたがらないんだよね。

スキーとかじゃ無いし。


でも可哀想な事に若い子は全員強制なんだ。

ホワイト企業を目指している筈なのに、

こういう事をしているから人気無いんだよなぁ

ウチの会社は。


あ、ごめん。話逸れちゃったね…


気を取り直して、

んで、鈴木くんは新入社員だったから

その企画に強制参加だったわけさ。

実際、凄い愚痴ってたよ。

その企画者の悪口とか、この会社への不満とか……


そしてハイキング当日。

厭々ながらも集められた若い子らは

雪山の下の集落にある民宿から出発したんだ。

因みに、その時の新入社員の数は

鈴木くん含め11人さ。終わってるよね。


そうして、登ってから数時間が経過し

彼らは最初の山小屋に着いた。


あ、云い忘れたけど、

彼らが登る雪山は「1合目」とかの

目印の代わりに山小屋があるんだ。

その山小屋は全部で4箇所あって

最後の場所は山頂にあるから、

そこを目指して登れば良いんだ。


富士山とか有名なら山なら1合目とか2合目とか

あるんだけど、その雪山はあまりにも無名だから

目印が無かったんだよね。


……え、何で知ってるのかだって?

これは鈴木くんが民宿の人から

教えてもらった事だからね。

生還後の鈴木くんが僕に話してくれたのさ。


そうして木造の山小屋には

食糧や寝具、暖炉があった。

だけど足りない物が一個ある。それはスペースさ。

11人居るのにも関わらず、その小屋には

4人程しか入れるスペースが無かったのさ。

最初は言い争いになったけど

女性の人数がちょうど4人だったから、

その小屋は女性陣の寝床となった。


じゃあ後の7人はどうするのか。困るよね。

とりあえず次の小屋を目指す事にしたのさ。


気を取り直して登山を続けようとした

次の瞬間、小さな雪崩が起きたのさ。

木に捕まっていれば大したことないくらい

規模だったらしいんだけど、

雪崩の中に雪の重みで折れたのであろう倒木とか

丸太とかが混じっていて、直で当たると

凄い痛かったんだって。


鈴木くん達は木の裏に隠れてたから無事だけど、

最初の山小屋が雪崩にのまれたのさ。

すると、トドメを刺すかの様に

近くの巨大な木が倒れて

その小屋を思いっきり潰しちゃったんだよね。


女性陣の断末魔に近い悲鳴が聞こえたから

鈴木くん達は慌てて小屋に近づいたんだ。


……みんな死んでたらしい。

ある人は下半身が無くて、

またある人は頭が無かった。

1番可哀想なのは暖炉に居た人だね。

脊髄と片足が木で潰されて、

暖炉の鉄柵が左目を貫通してたから。

んで、髪の毛が全部燃えているんだよね。

雪で鎮火したっぽいけど可哀想だよね……




鈴木くん達は彼女らを

雪の下(土の中)に埋葬した。

所謂、″不慮の事故″として扱ったのさ。


そして、登山を続けた……

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