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06話【人でなしの恋/ティアナ視点】

本日6話目です

【聖女ティアナ視点】



「見たかティアナ、ルティージアのあんな笑顔は初めてだ!」


 喜色満面の笑みで、王子が遠見魔術に映ったルティージアを見る。

 第二段階はこれで成功というわけだ。


「よかったですねフェンラルド王子」

「ああ、そなたのおかげだティアナ」


 全くよい顔で笑うものだ。

 この王子は、ルティージア公爵令嬢に長年恋をしている。


 私を聖女として見出した理由も、ルティージアのため。


 彼の話を聞けば聞くほど、私自身もルティージアに興味を惹かれた。美しいだけではない。気品があるだけではない。滂沱の如き魅惑を振りまく武闘の貴婦人。


 彼女世に憧れない男を見たことがない。

 それほどまでの女性を独占するためとは言え、夜会では肝が冷えた。

 社交の場で演技とは言え、彼女を貶める胆力を持つ王子も相当、イカレている、と私は思う。


 下手をすればあの場で2人揃って首を落とされても文句は言えなかったのだから。


 とはいえ、この王子、ルティージア様の従者2人と倒した後、ルティージア様とも戦えるだけの力を得たと確信したからこそのあの暴挙である。


 賢い暴走バカの努力というのは、血統の才をも凌駕する。


 エメルディオ王国は大国だ。その大国で一番の武力をこの王子はたった10年で得てしまった上、それを隠し通している。


 それを知るのは私と隣の執事だけだ。


 ルティージア様にすら気取られぬよう凡愚を演じる、演技力も持ち合わせている。

 それが演技であったことをほんのりと気付かれていたことにも、王子は喜んでいる。


「中々に好感触だな! では次に移るとしよう。ティアナ、城内の動きはどうだ?」


 私は遠見の鏡に手をかざし、城内の様子を映し出す。


「次」

 

 城内の地図を私は暗記している。王子が覚えろと渡してきた図面は、王族のみが閲覧できる隠し通路までもが記載された地図だった。


 遠見は場所を知っているほど解像度が上がる魔術だ。


 浄化を名目にして、城内の隅から隅まで地図と共に歩き、覚えた。

 事前に決めていた順番通りに様子を見る場所を王子の指示で切り替える。


 遠見は聖女の持つスキルではないが王子が必要だというので覚えた。


 そもそも私は『聖女』とは程遠い。適格の魂を持つとは言え、この身は聖職者の血筋でもない。

 それを無理に継承させたのがこのフェンラルド・エメルディオ第一王子。


 私は彼に恋焦がれているが、通じ合う必要はない。


 この男がルティージア様の狂愛ゆえに見せる愚かさを、私は愛しているからだ。

 それにそもそも、聖女である私に性交渉は生涯のぞむことはできない。



 更に言えば、それ以前に、私は男なのである。



 肉体的にも、精神的にも。

 対外的に、私、などという一人称で思考をするように言いつけられてはいるが、元より男の俺には窮屈で仕方がない。裏声で喋るのもお手の物になった。



 王子はそんな俺を聖女に仕立て上げる男だ。どう考えてもイカレているとしか思えない。


 それでも私はこの男のそういうところに惚れたのだ。我ながら甚だ趣味が悪い。


 王子は、ルティージア様に心底惚れて溺愛することさえなければ、その頭脳も手腕も王国に全て注がれていたかと思うと、惜しくもある。が、ここまでのバカの火力は出せないだろうと思う。それ程に恋というものは、人の力を限界以上に引き出すものだ。


 王子の指示で、遠見の術で確認を終え、次の行動に移る。


「ティアナ、頼りにしているぞ」


 そういわれただけで何でもしてやろうと思ってしまう。

 私は私で余りに愚かでどうかしている。


 王子は私の気持ちにも気付いているだろう。


 理解して尚、側に置いているのだ。婚約破棄の際の演技も、演技であるとわかっていも夢のようだった。

 それをわかっていてこの男はそうしているのだ。全くどこまでも純粋で悪辣な男だ。


 だがそれでも私は、その役割を欲したし、それがよかったのだ。


 絶対的に叶わぬ恋にこそ、恋焦がれている。


 俺の人生も、性的ななにもかもをぶち壊しにして、この男は惚れた女を追いかける。

 国も何もかもを巻き添えにして。


 そうであるならば、わけもわからず巻き込まれるより、この男の側で、巻き込む側に回りたい。


 きっと、私は戦場で死ぬことになる。

 死に向かっていることは理解している。

 それでも、それを望んでいる。



 俺はあのとんでもなく美しく、強いルティージア様を殺したいのだ。

 憎んでいるのではない。見たいのだ。


 最愛の女を殺された、王子の顔が。


 そのために死ぬのであれば、構わない。


 一度たりとも泣かない男の悲嘆の涙を、みたいのだ。

 それは、どれほどの甘美な瞬間だろう。


 そして俺は死ぬだろう。彼の手によって。


 私と王子では欲する物が全く違う。

 それでも欲し方はよく似ている。



 破滅の足音を響かせて、私達は、恋をする。

読者の皆様へ


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あとがきまでお読み頂き有難うございます。拙作を何卒宜しくお願いします。

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