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29話【キスと戦場】

 結婚式。


 私と、フェンラルドの結婚式である。婚約破棄をされた時には、こんなこと想像もしていなかった。

 隣には、初恋の人。隣で私の腕をとって、赤い絨毯の上をエスコートする笑顔のフェンラルド。


 式はエメルディオでとり行われ、大祭の後、凱旋でレストライアへとおもむくこととなる。


 貴賓席の兄様も先日の戦争でちゃっかりと結婚相手を見つけていたようだ。

 エメルディオの男爵家の令嬢。魔術師の家系でありながら、剣術を磨いた女性。


 凱旋の翌日は兄様の結婚式だ。


 私たちの結婚式の後は大祭となり、その間に戦争により婚姻を約束したカップルたちも婚姻を結ぶという。


 古来より結婚は、契約儀式である。

 特に王侯貴族のそれは、政治的にも意味を持つもの。


 私にとっては、7つで告白をして振られた相手であり、婚約を破られた相手。

 結婚できるなんて、思いもしなかった。


 夢ではないかしら?


 あの7歳の頃の私が見た、夢。鮮やかな婚姻の儀式、笑顔の愛しい人。

 祝福に満ちた空間。天地の神もお喜びであるようで、空は雲ひとつなく。


 ステンドグラスが光り輝くように煌いている。


 地上に置いて神の代行たる聖職者の前で、私達は、この命と魂ある限りの愛を誓う。


 結婚後は、私はエメルディオの王妃となる。

 フェンラルドは私を女王にすると言っていたが、それは固辞した。

 彼の成そうとしていることの方に興味がある。武力の向上を目的とした稽古に私も参加することになっている。


 戦うことを美徳とするレストライアの教えを叩き込んで欲しいと。そう、言われている。


 自らの心身を鍛え上げ、平定のため、他者の人生に公平をもたらすために戦う。我が天秤。

 レストライアの役割。それをエメルディオでも協定を組んで行い、よりよき世界に。


 誓いの言葉と、キスを。


 未来を今を、決して諦められなかった恋を、目の前の伴侶を。


 私は魂朽ちても、永遠に愛し続けるだろう。


*

*

*


「ねえおばあさま、それで騎士と聖女はどうなったの?」

「それより執事のふたりは?」



 数十年が過ぎ、私の周りには孫娘たちがいる。

 私達の恋物語は絵本になり、エメルディオでもレストライアでも人気となっている。

 若い頃の話を、今でも小さき人が喜んで聞いてくれている。


「直接訊いたらいいわ。ねえ、シュレーゼ、クレイデュオ」


 私の側に控えるふたりも、年をとった。

 フェンラルドも、すでに王座にはいない。


 後身に譲り、今も私の隣にいて


「なんだ爺様には何も聞いてくれんのか」


 と笑う。全く、とんでもない騙され方をしたものだったけれど。

 この人の治世は、とても多くの人を幸福にした。


 武力を最上とするレストライアの姫たる私が、何故この人に一目で心奪われたのか、結婚してからよくわかった。

 知力を武力とするのが上手く、人の幸福を見る眼があり、与えることに躊躇がない。


 たったひとつ、他人の恋心ににぶい、という欠点を除けば、これ以上の男は他にいない。


「お爺様はお婆様と結婚したの知ってるもの!」


「そうでなければお前たちは生まれていないからなあ」


 笑うフェンラルドと手を繋ぎ、庭園で日向ぼっこをしながら、長年仕えてくれている臣下にまとわりつく孫たちを眺める。


「私はとても幸せ者ね」

「それをいったら俺もだとも」


「俺と共に生きる戦場は、どうだいルティージア」


「ええとても、素晴らしい人生(戦場)ですわ。こんなにもにぎやかで、華々しい」


 血もなく、落ちる命もない。

 それでも美しい、私の戦場。


 どうか、あの娘たちにもよき人生(戦場)を与えてくれる伴侶がありますように。


 願いながら、微笑んで、キスをする。


 私の天秤を捧げた、愛しい戦場のような、この男と。

 元気の有り余る孫たち、そして今でも若人につける稽古。

 充実したまま老いて、貴方の隣で死ぬまでは


「何しろ、毎日が戦争ですものね」



Fin

読者の皆様へ


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あとがきまでお読み頂き有難うございます。拙作を楽しんでくださってありがとうございました!

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