22話【高揚/シュレーゼ視点】
本日3本目です
【執事/シュレーゼ視点】
途中から、姫様の手が菓子に手が伸びなくなった。
壮絶な戦いぶりに、私自身も血が沸く。同様に姫様の持つ鉄扇を持つ手に力が篭る。
クレイデュオもまた、表情を変えている。
彼が執事を目指さなかったのは、顔や動作に感情が出るのを抑えきれないという性質によるものが大きい。
ひとり、またひとりとレストライアの戦士が戦闘不能になっていく。
戦い方もさることながら、左手の紋章持ちは殺さず、戦闘続行を不可にしている点だ。
死者をださないつもりか。
従者はあらゆる武器を使い、相手の武器さえ利用している。
武器獲りスキルを併用して、戦力を削りながら捕縛系スキルを駆使している。
聖女は回復魔術を適度に使いながら、デバフスキルを打ち戦力を削る。
錫杖を武器に相手を近寄らせない。
フェンラルドの武器は己の肉体。拳と脚技を武術系スキルと自己強化系スキルで底上げをして相手を圧倒する。
素早さも威力も、王と渡り合っただけはある。
連携も噛み合っていて、多勢でかかったレストライアの戦士は個人として戦っているのであしらわれてしまっている。
こんな光景は見たことがない。
レストライアの民、それも戦士級の者たちが、他国の人間に圧倒されている。
ひとりで他国の軍をも相手取れる、レストライアの戦士が。
束になってかかっているというのに、フェンラルドたちは負傷はするがすぐに回復し、隙を見せない。
正直、舐めていた。
認識を改めなければならない。
いくら頭が回ろうと、武力でレストライアと相対して勝てる、などというのは思いあがりで侮辱だとすら考えていた。
だがこの戦い方を見れば、それに賭けたのも納得が行く。
ただ姫様を独占したいがための、戦争。
それを起こすためだけに、自らをそして側付きの者を鍛え上げる。
ここまで、練り上げた。
初めて焦燥を感じた。姫様を、この男に奪われるかもしれない。
そんな想像にゾッとする。
すべての戦士をこの男とその従者は倒すだろう。
我々も連携しなければ、ならない。
連携の訓練も、クレイデュオの癖もすでに体に染み付いている。
私達は、強い。
だからこそわかる。
彼らもまた、強い。
好敵手を見つけた気分だった。
高揚感が焦燥感を凌駕した。
全力で戦い、全力で殺していい相手。
姫様の従者として執事として、唯一得られなかったものが目の前に、在る。
知らぬうちに口角が上がっていた。
私もクレイデュオのことは言えない。
すっかり煽られてしまっているではないか。
無理もない、目の前で繰り広げられる攻防が余りに魅力的だった。
すでに姫様とクレイデュオの間では連携や、どのように首級を獲るかの作戦は何通りも話し合っている。無論新たに得た力の慣らしも終えている。
頭の中で、目の前の彼らの動きを見ながら戦術を組み立てる。
職務である、姫様のすべてのお世話に匹敵する高揚を覚える。
彼らと戦うことも褒美なれば、首を勝ち取れば、姫様の伴侶にすらなれる。
クレイデュオも同じように考えているだろう。
毒、麻痺、呪術は聖女によって無効化されている。
搦め手暗殺は聖女の顔をしたあの男を倒さねば通らない。
まずはヒーラーから、と狙われることも加味して連携して立ち回っている。
脚さばきもいい。
最後の戦士が、倒された。
フェンラルドが姫様へと向き直り、礼をとる。
「ルティージア・レストライア姫、どうか私と踊って下さいますね?」
男の私にも見て取れる、壮絶な色香と艶をもった微笑み。
姫様が椅子から立ち上がり、微笑む。
「死の舞闘でよろしければお相手いたします。フェンラルド・エメルディオ王」
美麗なカーテシーと共に、姫が答える。
数多のドレスから、私が選び抜いた真紅のドレスを着た、我が主。
最高の美姫による、死の。
我らは、地獄までお供する。
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