表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

20話【神託】

 レストライアの者を貶め侮辱することは、不正と悪徳を裁く天秤(レストライア)そのものを侮辱することでもある。


 国家間で交わされた約定を一方的に破り捨て、侮辱すること。

 それを何故レストライアの国王であるお爺様が許したのか、わからない。


 あれだけの無礼な振る舞いを許す王を、私は想像ができなかった。


 森の恵みを得た後、挙兵して一気にエメルディオを攻め落とすのだと思っていた。

 フェンラルド自身もエメルディオ王国で我らを迎え撃つ形になると予想していたのに。


 開戦条約。宣戦布告通知。


 自国の王が、自身でそれらをレストライアへ持って来た前例はなく、彼の首を落とせば戦争そのものが起きなくなる。


 彼の持ち出したルールはシンプルで、平和的だった。


 戦いたいものだけが戦い、伴侶を得る。

 これは果たして、戦争だろうか。


 その上まさか、こちらが攻め込まれ、迎撃する形になろうとは。


 何か、お爺様に企みがあるのかしら。


 エメルディオとの約定を交わしたのはお爺様だ。

 侮辱を受けた本人である私には、説明を聞く権利がある。


「お爺様、此度の戦争の件でお話があります」

 王の執務室で直接話を聞こうと訪れると、そこには兄の姿もあった。


「丁度よかった。ルティージア。お前を呼びに行かせるところだったのだ」


 お爺様の言葉に、兄様と顔を見合わせる。

 そういえば、約定を破られたことで影響を受けたのは兄様もだった。


「此度のこと、不思議に思っているのだろうな。端的に説明をしてやろう。あの約定破りこそが、天地神による予言であったのだ」


「予言……ですか」

 お爺様の言葉に、絶句する。


 であるならば、納得がいく。

 約定を結び、エメルディオへ下ったことそのものが準備であった。そういうことか。


「そうだ。レストライア、エメルディオ両国には元々国交があった。先代のエメルディオ王は我が友人でもある。時折行き来もしておった。我らのまだ若き頃、先代エメルディオ王がここへ来たとき、神託が下った」


 お爺様の説明に、私と兄は聞き入る。


 曰く、エメルディオ、レストライア双方に改革を起こすものが生まれるという神託だったという。

 エメルディオにレストライアが下り、孫の代で婚約をすること。

 その代に婚約をした者たちのいずれかが、改革者である。


 その者こそがフェンラルドだったということだ。


 私の元婚約者であり凡愚のふりをし続けた策士。


 その婚約が破られることも改革のための流れであること。

 そりは先代エメルディオ王もまた、承知をしているということ。


 フェンラルドは自らがルティージアを得るための戦争を画策し、身寄りのない子供たちに教育と武術の研鑽を求め、一定基準以上のものを戦地へと連れて行く。


 その戦力を作るために、秘匿されていたエメルディオ王城地下深くにある迷宮(ダンジョン)を使った。


 それに及ばなかったものは、兵となり、冒険者となり、あるいは他の適職を得る。


 基準を満たした者たちは、戦地でレストライアに見初められ、敗者となればレストライアに嫁ぐ。

 レストライアで見初めた者と戦い、勝ちを取れれば爵位付きでエメルディオ王の臣下となることができる。


 そのための教育を徹底して行った。

 彼の従者ベルディナッドにより、彼の部下たちに分散して計画の実行をさせた。


 そして揃うは大国エメルディオで最も何も持たぬ強き若者たちである。


 この戦のために飢える者に食事と教育を施し、力を与え、最も気高く強き血の一族への婚姻活動、そして職や地位までも用意したのである。


「その改革、どのような結末になると?」

 兄が訊く。


 王は笑って答えた「最強を生み、治世は新たな秩序を生む」という神託だったと。


「お前たちは改革者の作る、新たな形の戦場で、望む伴侶を得るとよい。約定は破られたのだ。お前たちは婚姻を己が思うままにせよ」


 お爺様は、そう締めくくった。

 まさか、そんな理由があったとは。


「私が首を落とした、使者のエメルディオ宰相については、お咎めはないのでしょうか」


 そういったことが定まっていたというのなら、宰相たちを処したのはやりすぎだっただろうか。


 とは言えあの宰相とその部下たちは、不正、つまりは国庫からの横領を行っていた。


 レストライアでは極刑だが、エメルディオはそうではない。

 フェンラルドへ報告をしていたが、「じきに沙汰が下る」と言って何もしなかった。


「あれらはエメルディオで不正を働いたものたちだとお前が報告をしたのだろう? 生き残りの男も既に処刑されたという話だぞ。お前の元婚約者はお前をよく知っているな。お前ならば必ず処する、と理解した上で采配をし、自身と聖女の塔への幽閉も反派閥を蹴落とすための策略だったという。大国は統治が難しい。虫がわきやすいからな、だいぶ足元を綺麗に整えたようだぞフェンラルドは。お前を得るためにな」


 あの男の、手のひらの上で踊らされていたことに、腹立たしさを覚えた。

 すべては企みの上のこと

 

「《《これは戦争》》、ですわね? レストライア王」


「如何にも、戦争だ。命のやりとりを楽しむといい」

 その答えを聞き、私は王の執務室を辞す。



 あの男を、どうしてくれようかと考える私の耳には、


「命のやりとりでこそ、自身の本音というのはわかるものよな」


 そう囁く祖父の独り言は、届かなかった。


読者の皆様へ


お読み頂き有難うございます。面白かった、続きが気になると思われた方は、広告下部にある「☆☆☆☆☆」評価、ブックマークへの登録で応援いただけますと幸いです。いいね、感想、誤字報告も大変励みになります。


あとがきまでお読み頂き有難うございます。拙作を何卒宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ