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19話【不正と悪徳を裁く天秤】

本日9本目です。

 通常、国家間の真っ当な戦争は『宣戦布告通知』を受け取り後すぐに侵攻が始まるものだ。



 けれど今回は話が違った。何せ戦争をしようという国の、国家元首が自らそれを持ち込んだのである。

 その上どんな戦争をするか、の話合いの場まで設けた。


「エメルディオ王国と戦争がしたくなければ俺の首を刎ねればいい。戦争を望むのであれば、少しばかり(おもむ)きのある形を提案する」


 レストライアは敵対した国は全て平ら(・・)に滅ぼしてきた。

 つまりは、平定を行ってきたのだ。


 ある者は王の暴利に耐えかねて、ある者は自らの土地を奪う者への報復に、ある者は犯罪者の巣窟となった国の潰滅を、魔の森を越えて我がレストライアに願うのである。


「どうか我が祖国の平定のための戦争を」と。


 魔の森を抜け、自らの首を差し出す勇気のある者の願いを王は聞く。

 レストライアの戦士たちを連れ、その土地を訪れる。


 初手から戦うのではない。宣戦布告文を持って来た者の言葉の真相を知りに行く。

 故にレストライアの戦士は誰一人として固有の戦装束や鎧を持たない。


 それぞれのお気に入りの服を着て、その土地を訪れる。旅装ですらないこともある。

 街へ村へ入り、話の通りの悪徳があれば全て刈り取る。邪魔するものの首も獲る。


 我々は『不正と悪徳を裁く天秤(レストライア)の民』である。

 ゆえに略奪と盗みを恥とし、戦場戦禍で愛を得る。非力なものへの陵辱は死罪よりも重い罪であり、恥である。


 我ら、不正と悪徳を裁く天秤(レストライア)の民は不正や悪徳を自ら犯すことはできない。


 それをすれば武力を失うのである。


 暴力という原初の力で裁きを下す神の尖兵の民が故に、許される悪徳は暴力のみなのである。

 それがレストライアの森との契約。審判と力と戦車の血の契約に他ならない。


 言葉による侮辱により滅んだ国もある。売られた喧嘩は全て買い上げるのもレストライアの流儀である。

 無論その『売られた喧嘩』というものが(はかりごと)であるかどうか調査もする。


 その場で、相手の言い値での買い物はしない。


 王都に残した臣下たち、エメルディオや各国にいる臣民たちが我らの目であり耳でもある。


 彼らの報告を聞き、あるいは赴いて、裁定を下す。


 すべてを滅ぼすのか。あるいは腐敗を焼き尽くすのか。王の首を刈り取り、悪徳の根切りをするのか。


 そういった形での『不正と悪徳を裁く天秤(レストライア)の民』としての戦働きなのであるが、今回は話が違う。


 単純に、男が女への贈り物として捧げる戦場、なのである。


 つまりは互いの武勇のための戦争である。不正も腐敗も悪徳もなく、ただ戦力をぶつけあう。

 大規模な決闘と言ってもいいかもしれない。


 無論、戦争であるからには勝者には得るものがなければいけない。

 平定の栄誉なき戦争。


 戦場を贈り物とされたのはレストライア始まって以来の珍事でもある。


 お爺様はエメルディオ王となったフェンラルドを悪徳の者として裁くことはない。


 彼の治世は乱れてはおらず、開戦となり、フェンラルドの提案が受け入れられることがないのであれば、戦闘能力がない者たちを保護するという形をとっていた。


 すべてを犠牲にすると大言を吐いていたのも、レストライアをよく知るが故だ。

 レストライアとの戦争では、善き弱者には犠牲が出ない。略奪もなく、陵辱もない。レストライアはそれをやらないが、戦禍の中でそれを行う者は出てくる。


 治世が乱れきった国では、味方が味方を襲う。

 レストライアに攻め込まれた国の者が火事場泥棒を働き、陵辱を行う。

 私はそれを最も哀れに思う。


 フェンラルドはレストライアを信頼している。だからこそのこの暴挙なのである。


 彼の提案は、「こちら(エメルディオ)が、レストライアに侵略戦を仕掛ける」というものだった。


 建国以来、レストライアに攻め込んだ国は少ない。

 魔の森、竜の治める森林ダンジョンの中央に国があり、守護を受けているのがレストライアだ。


 難攻不落。それが建国以来続いているレストライアを攻め落とせるかの勝負をあの男は仕掛ける、と言う。

 フェンラルド一行は、確かに、森を抜けて現れた。

 それだけのことができる兵も育てたと言い、「防衛戦を楽しむ、というのはどうか? したことのない戦争に心躍らないか?」と微笑んだ。


 エメルディオの兵が森を越え侵入、レストライアは森や城で迎え撃ち、王が討たれた方が敗北。

 非常にシンプルなルールだ。


 エメルディオの兵たちには、レストライアの戦場での伴侶探しについても教育が済んでいるという。

 つまりは、魔の森とレストライアへの侵攻は、互いの兵の婚活戦争、と言ってもいいような話である。


 勿論、命を賭けて戦うことになる。


 だがそれは、あまりにも私の知る戦争とはかけ離れていたし、血の匂いはあれど、悪徳なき戦いだった。


 そんな戦争が、あっていいものなのか。


 勝者は一体何を得るというのか。

 私の問いに、フェンラルドが答える。


「俺が伴侶を得に行くのだ。臣下にも、チャンスがあってもいいだろう。レストライアは武力で身分が決まる。外様の男女を伴侶としても、その彼らにも同様に身分が与えられる。身分も伴侶も得られる戦いのために、俺が集め鍛えた者たちだ。得るものはある」


 キッパリと言い放ち、そして


「俺が欲しいのはルティージアだけだ。それを証明するために戦う。だがルティージア、君が本心から欲しいものを得るために欲した戦争だ。君も君で、望むものを得ればいい。これは君のために起こされた、戦争なのだから」


 艶然と微笑んで、そう、囁いた。


 

読者の皆様へ


明日も複数本投稿予定です。

お読み頂き有難うございます。面白かった、続きが気になると思われた方は、広告下部にある「☆☆☆☆☆」評価、ブックマークへの登録で応援いただけますと幸いです。いいね、感想、誤字報告も大変励みになります。


あとがきまでお読み頂き有難うございます。拙作を何卒宜しくお願いします。

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