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17話【真紅のドレス/シュレーゼ視点】

本日7本目です

【執事/シュレーゼ視点】



 あの男を、必ず殺す。


 腹の底にこれほど怒りが渦巻いているのは初めてのことだ。

 フェンラルド……。フェンラルド・エメルディオ。あの男だけは、許しがたい。


「シュレーゼでもそんな顔をするのね」


 あの男が帰国して、開戦の準備をする最中、姫様が笑う。


「あの男の姫様への仕打ちの全てが許しがたく。大変失礼を致しました」


 執事はいかなる時も冷静であらねばならない。怒りに身を焦がすなど、ましてやそれを悟られるなどとあっては恥であるというのに。


 やはりあの男は殺さねば。


「クレイデュオの方が凄まじい顔をしていたものだけどね」


 姫様はあの祭祀の夜のクレイデュオを思い返して笑う。

 クレイデュオは顔に全部出る男だ。

 執事には向かないが、戦闘能力は高い。


 昔、祭祀での試しの儀式で王に辛くも一撃を浴びせた小さな少年でもあった。

 それも今や大型の犬かくたるや、上背を抜かれはしたが、執事の座を奪われるには至らない。


 そもそも彼は執事としてより、騎士として姫に仕えることを選んだ男で、私の友人でもある。


「クレイデュオですからね。今も開戦前にもっと力をつけると言って、森で魔物と戯れております。ドラゴンへの挑戦権を得に行ったようです」


 森の恵みを享受した後も、森での修行は可能だ。レストライアの森には無数の魔物が居り、戦えば経験値と財貨が手に入る。


 とはいえ、森の恵みで押し寄せる程の強敵には中々出会うことない。

 どうしても短期で力を得たい者は、王の許可を得て、森の中にある祭壇に向かう。


 レストライアの民にのみ許された挑戦。


 森の四方を治めるドラゴン一族。祭壇にて試練を受け、ドラゴンへの挑戦権を得た者だけが次代の鎮守竜と戦うことができる。


「クレイデュオならば得てくるでしょう。私の為に」


 ドラゴンへの挑戦権を得た者は3人1組で挑むことが許される。


 今回の場合は、姫様、私、クレイデュオで組むことになり、打倒ができればかなりの力を得ることが出来るだろう。


 森は多くの恵みをレストライアの民に与えてくれる。

 だが、外の者にとっては脅威だ。

 

 故にレストライアの森の近くの街道街には、レストライア貴族の住む邸宅が在る。

 レストライアの領地ではないが、森を通りレストライアとの外交を望む者への窓口が主な仕事だ。


 森の中に道はない。人の力では森林ダンジョンの形を変えることはできないのだ。

 その森を抜けるには、魔物に対する武力と正確な方向感覚が必須となる。


 フェンラルド一行は、レストライアの案内なしにあの森を抜けた。


 王に一撃を与える武力を持ち、レストライアの今期の王城まで自力で踏破することができるだけの能力がある。


 破滅的なまでの姫様への妄執がなければ、姫様の伴侶として仕えることをしてもいい実力を持つというのに。

 余りにあの男は、度を越している。


 必ずやあの男の首を姫様に捧げなければならない。


 我々とて、姫様のお側に仕え、愛を享受するためにこれまで努力の限りを尽くしてきたのだ。

 その何もかもを奪い取ろうというのであれぱ、殺されても文句は言えまい。


 姫様と共に、ドレスを見てまわる。

 開戦時のもの、そして戦争の最中、姫様の美貌を彩るドレスと装飾品。

 レストライアでは魔物の素材が無数に手に入るた。これもまた森の恵みである。


 それらの素材で作られたドレスや装飾品の数々は、まず王へ献上され、王族、貴族が位の順にそれぞれ選定し借り受ける。


 これらの物品は、位を持たぬ庶民への褒賞ともなるし、外国へ売りに出されもする。


 すべての衣類は期毎に、その地域の庶民貴族問わず、王城に集められる。

 補修の必要な物が出てくるためだ。そして入れ替えが行われる。最も気に入っている一着を着て、貴族も庶民も衣類を新しく借り受ける。


 褒賞の衣類のみが装備として個人所有されるため、それを着ることで尊敬を集めもする。

 ドレスのために戦い、貴族位まで得てしまう婦人ですらいる。


 そのためエメルディオでの生活には驚いた。庶民から貴族まで、すべての者が殆どのものを個人所有しているのだから。

 王子から贈られる姫への贈呈品もすべて姫の個人所有として贈られる。


 文化がそもそも全く違う国。


 あの男も、姫様がそこで努力をされてきたことを、側で見ていたはずだ。

 姫様が自身をその国の王妃にふさわしく在るためにと、されてきたそのすべてをあの男は打ち壊し、破り捨てたのだ。


 許しがたい、暴挙である。


 やはりあの男、生かしてはおけない。


 そう腹の中を怒りで黒く染めながら、私は姫様に小さく微笑む。

 真紅のドレスを選び差し出せば、姫様は微笑み言う。


「それにするわ。シュレーゼ程私の好みを把握している男はいなくてよ」


「光栄の極みにございます、姫様」

 その微笑みとお言葉を噛み締め、一礼して、栄誉を受ける。


 この栄誉も、姫様のすべても、奪わせはしない。

 そう誓いながら、クレイデュオの帰りを待つ。



 あの男の首を、確実に獲る武力を手にするためであれば、鎮守竜をも狩り殺してみせよう。

読者の皆様へ


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あとがきまでお読み頂き有難うございます。拙作を何卒宜しくお願いします。

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