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15話【妄言の証明】

本日5話目です

 当然、レストライア最強を誇るお爺様の優勢のまま、フェンラルドは防戦を重ねていた。


 試しの儀式ではないので5分を過ぎても終了とはならず、戦いは続いている。


 そう、()()()()()()()()のだ。


 お爺様もヒヨッコ相手に戦うのとは違い、孫娘の名誉を傷つけた男を相手にしているのである。殺してもよい、程度には本気だ。


 だというのに、防戦といえど、彼はいまだ倒れずにいる。


 リングは死亡事故防止のため、円卓のリング同様身代わり石が設置されている。


 だが防げるのは明確な死のみで、怪我はそのまま怪我として存在する。リングは毎回浄化魔術で綺麗になっているが、もうすでにフェンラルドの血であちこち濡れている。


「どうした、反撃をせねば勝てぬぞ小僧!」


 お爺様の渇と共に、重い一撃がフェンラルドに入る。気絶してもおかしくはない打撃による衝撃にフェンラルドが吹き飛ぶ。


 あばら骨が砕ける音と、吐き出される血。

 それでも彼はまた立ち上がる。お爺様のトドメの一撃をかわして。


 存外、やるものだ。


 私は純粋に驚いていた。

 最初はフェンラルドに対するブーイングしか聞こえなかった民衆の声も、色を変えた。


 お爺様の軽い一撃を貰っても、立ち上がれる者は、少ない。


 それほどまでに強いのだ。無手であろうと、剣を扱おうと、弓を使おうと、魔術ですら、誰一人お爺様に勝てる者はいない。


 故に王座に変わらず、君臨し続ける。

 

 お父様と同じくらい、打たれ強いのかしら。


 父も王位戦でお爺様相手に粘りに粘るのだ。魔術戦で始まり、遠距離武器、そして槍、剣、最後は拳。親子の戦いはそれぞれの力量を測りあうのを楽しむように繰り広げられ、民衆を楽しませる。


 今回、お爺様とフェンラルドは互いに無手、拳と魔術のみで戦っている。


 魔術は互いに耐性が高いとみるや否や、ふたりは格闘術に切り替えて、フェンラルドは泥臭く足掻いている。


 それでも最早詰みだ。


 お爺様の最後の一撃が彼を捕らえた。避けられはしない。心臓への致命の一撃。


 それを食らいながら、彼は、一撃を返した。

 フェンラルドの肘が、お爺様の鎖骨を叩き折る。



「一撃だ。書状、受け取って貰うぞ!」



 フェンラルドは血を吐きながら自身の心臓を貫くお爺様の腕を掴み、笑んで吼えた。


「二言はない」


 お爺様が笑い、言う。

 これは、気にいった者を見つけた時の顔だ。


「勝負あり!」


 私の声に、お爺様の腕が引き抜かれると、フェンラルドの身代わり石が砕け、落ちる。

 同時にリングに回復魔術と浄化魔術が飛んだ。



 観衆が沸く。素晴らしい戦いと、戦争が始まる喜びに。



 フェンラルドが私を見て、微笑む。

 どんな顔をしていいのか、わからない。

 

 喜べばいいのか、困惑をすればいいのか、怒ればいいのかすらわからなくて戸惑う。

 能ある鷹が爪を隠す程度にしか、考えていなかった。

 お爺様の拳であっさり沈むと思っていた。


 これではまるで別人だ。今まで王宮で見てきた男とは、全く別の人間を見ているようだった。


「ルティージア、少しは惚れてくれたか?」


 それでも見せた表情は、王宮でみせた笑みと変わらず、一番近い感情は呆れかもしれないと思った。


「少しでよろしいの?」


「いいや、足りない。戦場で、俺以外を見えなくしよう」


 隠していたのは戦力だけでなくその欲の深さ。

 強欲な男だ。ただの役割での婚姻の相手の全てを欲して、全てを巻き込む。

 見たことがないほどに傲慢で強欲。


「私を倒せたら、その妄言を許して差し上げますわ」


「そうか。ああ、妄言で思い出した。書状をここに、ティアナ」


 婚約破棄の時、隣にいた聖女を呼び寄せる。

 あの時の言葉は一言一句、違わずに覚えている。


「あの日の俺の言葉こそが妄言でな。怒りに任せて執事と騎士が斬りかかってくれないものかと思ったが、甘かったな」


 フェンラルドはティアナから書状を受け取ると、それを読み上げ、そしてお爺様へと渡した。

 堂々たる宣戦布告。最後の一兵までも戦うと明示した書状。


 そして、それが終わるとまた私へと向き直った。


「妄言の証拠だ」


 フェンラルドがティアナを呼ぶと、彼女は、服を脱ぎ、胸をさらす。


 それはどう見ても、男の、胸だった。


「聖女スキルは持っているが、俺は男でね。あまり喋らなかったのも、この声を隠すためだ。裏声での会話は疲れるからな」


 そういって、脱いだ服を着直していく。

 声は太く低い、どう聞いても女が出せる声ではない。


「エメルディオでは、王妃とは別に聖女を妊娠させるのも王の仕事でな。それが嫌で男を聖女に据えた」


 さらりととんでもないことを言う。

 エメルディオ王国の伝統ですらもこの男の前には無価値になる、らしい。


「聖女様は、それでよろしいの?」


「構わないから俺はここにいる」


 あっさりと言い捨てて、着衣を綺麗に戻せば、聖女らしい聖女の顔をしている。

 声さえ、出さなければ絶世の美少女の微笑で。


「なるほどなあ、狂王か。それも悪くはない」


 お爺様がにやりと笑い言う。


 どう考えても悪い男ではあると思うが、祖父は満足そうにしている。


 私を困惑させたまま、こうして森の恵み、祭祀が終わりを告げた。

 調印のためにフェンラルド、その従者とティアナが王城に招かれ、祭りの宵がふけていく。

読者の皆様へ


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あとがきまでお読み頂き有難うございます。毎日更新+執筆を楽しんでして参りますので、拙作を何卒宜しくお願いします。

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