12話【戦の対価】
本日2話目です
城壁側の平原には総勢1千名のレストライアの民が並んでいる。
我々王侯貴族とその門下以外には、選抜戦を勝ち抜いた者たちがいる。毎期、森の恵みを享受するのは何も王侯貴族に限った話ではない。
トーナメント戦を行い、勝ち上がった上位300名の庶民たちもまた、森の恵みを得る権利を有する。
戦績のよい者や、新たな力やスキルを得た者が王侯貴族に召抱えられることもあれば、戦いの中で伴侶や愛人を見出す者もいる。
王侯貴族もまた、ここで力を振るうことで得られるものは多い。が、得られなければ貴族位を追われることもある。
戦場は出世の花道でもあり、没落の始まりでもある。
レストライアにおいて、個人が所有できうるものは、3つ。
己の肉体と魂、武具装備、そして伴侶や愛人。これら3つは権利として全ての者が等しく我が物としてよい。
罪人でない限り、王とて奪うことは許されない権利である。
それ以外の全ては王の物であり、王はそれらを国民全てに貸与する義務がある。
つまり一番強いのだから面倒なことは全て王が采配せよということでもある。
無論王ひとりで何でもするわけではない。適材適所、仕事の振り分けが主たる義務となる。
最強の王と言えど、圧制を行えば首を取られるのは王の方である。臣下に恨まれる暗君を許すほど、レストライアの民は甘くない。
「これより森の恵みを享受する! 祈りと感謝を捧げ前へ!」
王の号令と共に、「祈りと感謝と共に!」と声を揃え、皆が前にでる。
地響きと魔物たちの鳴き声。それらが美しい音色と共に森から飛び出すようにレストライアの戦士たちに殺到する。
森の恵みにより現れる魔物はレア個体を含む2000体程。レア個体は倒せばスキルを得られ、見た目ではそれとわからない。
魔物たちの中には食用になるものもいる。戦いが終われば、捌かれて皆に振舞われる。
感謝祭の準備が城下町では行われているだろう。この日ばかりは王も貴族も庶民もなく『レストライアの民』として皆で祭り騒ぐのである。
当然喧嘩もおきやすいので、喧嘩が始まるとリングへと移動、見世物となる。
祭りの最後は王に庶民の若者が挑む、祭事が行われる。
恵みを最も得てきた者の力を若者が知るよい機会として祭事となり、ここで王自らに見出される若者もいる。
皆、戦いの中に夢を見る。希望を見る。愛を見る。
土煙と共に殺到した魔物と皆喜び勇んで戦う。魔術で、武術で、あるいはその他の方法で。
血が舞い、肉と臓物が跳ねる。怒号と鳴き声。悲鳴と勝どき。
胸を躍らせながら、私も最前線で舞い殺す。
大型の魔物、小型の魔物、獣、人型、虫型、あらゆる魔物はレストライアの糧である。
今期の恵みは、混成型のようだ。とりどりの魔物がいる。
森の恵みにおいて、出てくる魔物のパターンは3つ。
1種族でまとまる期もあれば、2から3種の期、そして今回のようにあらゆる種類が混じった期。
今期は一番歯ごたえのある森の恵みだ。
毎期、森の恵みの時期だけはエメルディオから里帰りをしていたが、久々の混成型に腕が鳴る。
今期もあの夜会の後、元々レストライアへと戻る予定だったのだ。
私と共に、シュレーゼやクレイデュオもまた魔物たちを喜び勇み、屠っていく。
乱戦、混戦の中でも2人は私からつかず離れず、邪魔にならない位置で戦い続ける。
王侯貴族の従者はこれができないと話にならない。
主の邪魔をせず、さりとて己自身も戦いを楽しむ。
従者は主に仕えるが、しかし従者は主のものではない。
主が見出し、従者もまた主を選ぶ権利がある。
強く美しく、そして人心を掴む力があればこその王侯貴族。優秀な従者を得ることは誉れである。
それと同時に、優秀な主を持つのも誉れであるのだ。
レストライアの民として、どうあるべきか。その教育はすべての民に施される。
出自、親のあるなしに関わらず、為政者がそれを満遍なく施す。
その采配を成すのがレストライアの結束。
血統だけで上り詰められるほど甘い治世ではない。
強さとはバランスも備えていなければならず、聞く耳を持たねばならない。
父も治世はできる人だ。ただ、祖父が強すぎて、王位戦で不敗を誇り続けているだけで。
レストライアの王位は森の恵みを得、平時であれば翌年に王位戦が行われる。
上位貴族と王族の代表1名ずつによる王への挑戦権を得るトーナメント、勝者が王と戦う権利を得る。
父様は毎回トーナメントでは圧勝を誇るのだが、お爺様との戦いにはどうしても一歩及ばない。
とてもてとも見ごたえがある戦いではあるものの、王位はこの30年お爺様から変わりがない。
『レベルアップしました』
数体の魔物を屠ると天の御声が耳に届く。久々の肉体と精神の上限の開放。力が増したのを感じる。
魔物を倒す、あるいは人間を倒すことで、得られるのは倒した者の魂の持つ経験による力、所有スキル、財貨の3つ。
ゆえに、レストライアは戦を望む。
魔物でその3つを与える者は少ないが、対人であればその全てが手に入るのだから。
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