***ゆきだるまさん、おおきくなったよ***
「まーちゃん。マーちゃん。ゆきだよ!」
あさ、カーテンをあけたママが、ねているマーちゃんにこえをかけました。
「ゆき? ゆきってなぁに?」
「さむくて、あめが、かきごおりみたいに、まっしろにこおったもの」
「へんなの。さむいのはヤダ」
「みて、みて。おそとが、まっしろだよ」
おそとが、まっしろなんてありえないとおもいました。
けれどもママの、たのしそうなこえにつられて、ベッドからおりるマーちゃん。
そして、まだねむいめをこすりながら、カーテンのあいたまどにちかづきます。
マーちゃんは、そとのけしきをみて、おどろきました。
だって、そこには、なにからなにまで、まっしろなけしきがあったからです。
いまは、なにもさいていない、かだんも。
くるまも。
となりのいえのやねまで。
そして、ずーっとずーっと、むこうまで。
「なに、これ? すごい、きれい!」
「ゆきよ」
「ゆき!?」
マーちゃんは、すぐにおそとにでたくなりました。
「マーちゃん、パジャマのままだと、さむいよ!」
ママにいわれて、にがてなきがえも、あっというまにすませせました。
「てぶくろ、てぶくろ」
ジャンバーをきさせてくれたママが、てぶくろをくれました。
ほいくえんにいくとき、つけるピンクのおきにいりの、てぶくろ。
げんかんにいくとママが、あめのひにはくながぐつをよういしてくれました。
「きょうは、あめじゃないよ」
ふしぎにおもったマーちゃんがママにきくと、ママはぬれるからといいました。
どうやら、あのしろいものは、ぬれるものらしい。
げんかんをでると、おにわはまっしろ。
あわててはしりだそうとするマーちゃんを、ママがとめました。
「すべるから、はしらないで」
この、しろいものは、すべるらしい。
マーちゃんは、ちゅういしながら、いっぽまえにあしをだしました。
キュッ。
しろいものが、マーちゃんにふまれて、こえをあげました。
「あっ」
マーちゃんは、おどろいて、あるくのをやめてママのかおをみました。
「だいじょうぶよマーちゃん」
「でも、ふまれて、ないちゃったよ」
「ゆきは、ふまれると、おとをだすものなの」
「ふ~ん」
マーちゃんは、あんしんして、ゆきのなかをあるきました。
キュッ、キュッ、キュッ。
マーちゃんが、あるくたびに、おとがなります。
マーちゃんの、あるくあとを、あしあとがおいかけます。
マーちゃんは、たのしくなって、おにわをあるきつづけました。
いつのまにかマーちゃんのいえのにわには、ちいさくてかわいいマーちゃんのあしあとだらけになりました。
「マーちゃん、ゆきだるまをつくろうよ」
「ゆきだるま?」
マーちゃんはママにおしえてもらい、ちいさなてでなんどもゆきをにぎって。ボールを2つかさねたくらいの、かわいいゆきだるまをつくりました。
「これが、ゆきだるまか。へんなかたち」
「マーちゃん、ちょっとまっていてね」
ママが、いえのなかにもどり、なにかをもってきました。
「それなあに?」
「おめめと、おくち」
ママがてをひろげると、そこにはくろまめと、ちいさくきったゴボウでした。
マーちゃんは、くろまめとゴボウをゆきだるまの、うえのぶぶんにさしこみました。
「カワイイ!」
「ねえママ、ゆきだるまさんをマーちゃんのおへやに、つれていっていい?」
「う~ん。それはちょっとむりね」
「どうして?」
「ゆきだるまさんは、あたたかいところが、にがてなの」
「マーちゃん、ストーブつけないで、がまんする。 それなら、いいでしょう?」
「ゆきだるまさんはねストーブのついていない、いえのなかのおんどでも、とけてしんじゃうの」
「ちぇ~っ」
「クシュンッ!」
まーちゃん、さむくなったから、おへやにもどりましょう」
「はぁ~い」
マーちゃんは、しぶしぶママのいうことをきいて、いえのなかにもどることにしました。
げんかんのドアをしめるときマーちゃんは、ゆきだるまさんにてをふって、いえのなかにはいりました。
そして、そのひマーちゃんは、なんどもゆきだるまさんのところにあそびにいきました。
つぎのひは、くもり。
そのつぎのひは、ポカポカの、いいおてんきでした。
「ママ、たいへん。 はやく、きて!」
おそとにでたマーちゃんが、あわてたこえで、いえのなかにはいってきてママのてをひっぱりました。
「マーちゃん、どうしたの?」
「ゆきだるまさんが、あせでビショビショなの」
「みぎのめも、とれそうなの」
「それに、なにもたべていないから、やせてしまったの」
「げんきもなさそうで、おびょうきかもしれないわ」
マーちゃんにてをひかれてそとにでると、ゆきだるまさんは、たいようのひにてらされてスッカリとけてやせていました。
「ママゆきだるまさんを、びょういんにつれていってあげて!」
いつもは、びょういんのなまえをきいただけで、なきそうになるマーちゃんが、しんけんなかおをしてママをみあげています。
ママはマーちゃんのために、けっしんしました。
おそとにでて、びょうきの、ゆきだるまさんをだきあげたママは、そのままだいどころにいきました。
キッチンのうえに、ゆきだるまさんをおくと、とだなのなかから、かきごおりきをとりだしました。
それから、れいぞうこのなかから、こおりをとりだすと、それをかきごおりきのなかにいれました。
はんどるをまわすと、かきごおりが、たくさんでてきました。
「ママ、どうするの?」
しんぱいそうなかおで、マーちゃんがきくと、ママは「ゆきだるまさんをなおしてあげるからマーちゃんもてつだって」と、いいました。
「うん」
びょうきのゆきだるまさんをみて、なきだしそうだったマーちゃんが、げんきなこえでへんじをしました。
「マーちゃん、できたかきごおりをゆきだるまさんの、おはだにくっつけてちょうだい」
マーちゃんは、ママがつくってくた、かきごおりをさわります。
「つめたい!」
「だいじょうぶ?」
「うん。だいじょうだから、もっとつくって!」
つめたいのをがまんしてマーちゃんは、できあがったこおりをペタペタと、ゆきだるまさんにくっつけていきます。
やせてしまったゆきだるまさんは、みるみるうちに、もとのまるいかたちにもどっていきます。
そして、すこしくろずんでいたおはだも、まっしろになりました。
マーちゃんが、さいごにとれそうだったみぎめをもとのところにつけて、ゆきだるまさんはスッカリげんきになりました。
さいごにママは、なおったゆきだるまさんにラップをかけて、れいとうこにしまおうとします。
「ママ、なんで、ゆきだるまさんをそんなところにいれるの?」
すこししんぱいになったマーちゃんがママにきくと、ママは「にゅういん」だと、こたえました。
「にゅういん?」
「そうよ。おおきなびょうきをしたときは、ねていなくてはダメなの」
「でも、れいとうこのなかだと、さむくないの?」
「だいじょうぶよ。ゆきだるまさんは、こおりのくにからやってきたのだから、さむいのはへいきなの」
「すごく、つよいんだ! でも、あたたかいと、どうなるの?」
「あたたかいと、さっきマーちゃんがしんぱいしていたように、とけるびょうきになっちゃうのよ」
「とけるびょうき。なんだか、こわいわ」
そのひマーちゃんは、なんどもれいとうこをあけて、ゆきだるまさんがげんきになるようにかみさまにおいのりしました。
つぎのひは、あさからくろいくもがかかり、よるにはゆきになりました。
ゆうしょくをたべて、おふろとはみがきをすませたマーちゃんは、ねるまえにれいとうこをあけて、ゆきだるまさんにいいました。
「おそとは、ゆきがふっているから、あしたにはたいいんできるよ」って。
つぎのあさ、いちばんにおきたマーちゃんは、ゆきだるまさんのようすをみるために、れいとうこをあけてビックリしました。
れいとうこのなかで、ねているはずの、ゆきだるまさんがいません!
「ママ‼ ゆきだるまさんが……」
そこまでいうと、マーちゃんはなきだしてしまいました。
マーちゃんのなきごえをきいて、あわててママがやってきていいました。
「マーちゃん、だいじょうぶよ。ゆきだるまさんならホラ」
そういってママがカーテンをあけると、そこにはおおきくなったゆきさるまさんがいました。
マーちゃんは、すぐにきがえて、おにわにでておどろきました。
まっしろなゆきのうえには、たくさんのあしあとがあり、そのさきにゆきだるまさんがあったからです。
そして、おおきくなったゆきだるまさんは、マーちゃんのせよりたかくなっていました。
「ママ、たいへん。ゆきだるまさんが、じぶんであるいて、おそとにでちゃった」
でもマーちゃんは、げんきに、そしておおきくなったゆきだるまさんにだきついてうれしそうでした。
くろまめのめは、おおきなすみのめにかわり、にんじんのおおきなはなまでできていました。
ゆきだるまさんは、とてもげんきそうでした。
「よかったねマーちゃん」
「うん。ママありがとう」
それから、なんにちかたつと、すこしずつあたたかかなひがつづきました。
でも、おおきくなったゆきだるまさんは、げんきそうでした。
ゆきだるまさんは、となりのいえにもありました。
そして、ほいくえんのいきかええりにも、たくさんのゆきだるまさんがありました。
どのゆきだるまさんをみても、マーちゃんのゆきだるまさんが、いちばんかわいいとおもいました。
マーちゃんは、まいにちゆきだるさんとハグしてほいくえんにいき、ほいくえんからかえってきたときもゆきだるまさんとハグしてたのしそうにあそんでいました。
なんにちかたつと、だんだんあたたかかくなりました。
ゆきだるまさんはすこしずつ、とけてちいさくなっていきました。
そして、おにわからスッカリゆきがなくなり、かだんからはなのめがでだすころには、ゆきだるまさんはとうとうはじめてであったころのおおきさまでちいさくなってしまいました。
もうおおきなすみのめも、にんじんのたかいはなもなくて、もとのくろまめのめにかわっています。
そして、あんなにたくさんいた、ほかのいえのゆきだるまさんはもうどこかにいってしまって、いまではマーちゃんのゆきだるまだけになっていました。
「ママ、ゆきだるまさん、またにゅういんさせてあげて!」
マーちゃんは、ママにおねがいするとママは、すこしこまったかおでいいました。
ママはマーちゃんと、おなじたかさになるように、こしをおろしていいました。
「もう、ゆきだるまさんに、にゅういんはいらないのよ」
「えっ……どうしてなの? こんなに、ちいさくなって、かわいそうなのに」
マーちゃんは、おどろきました。
ママは、ぜったいにマーちゃんのゆきだるまさんをなおしてくれると、おもっていたからです。
「マーちゃんいい? よくきいて」
マーちゃんは、ママのことばにへんじをかえすことができずに、じっとかたまっていました。
「ゆきだるまさんが、おおきくなったひのこと、おぼえている?」
「うん」
「あのひ、まちじゅうに、ゆきだるまさんがたくさんあったよね」
「うん」
マーちゃんも、おぼえています。
あのひは、きんじょのいえのにわだけでなく、ほいくえんまでのみちのあちこちに、たくさんゆきだるまさんがあったことを。
「いまも、たくさんあるかな?」
「ない」
あんなにたくさんあった、ゆきだるまさんたち、どうしていまはいないのだろう?
「ゆきだるまさんたち、どこにいっちゃったの?」
「ゆきだるまさんたちは、おそらにもどったのよ」
「しんじゃったの!?」
ママのことばにマーちゃんは、おどろいてききました。
おそらのうえって、てんごくにいったことだとおもったからです。
「ううん、しんでなんかいないよ」
「だったら、なんで!?」
「ゆきだるまさんが、びょうきになったひのことは、おぼえている?」
「うん。あのひは、あたたかくて、とけるびょうきになった。だからママが、かきごおりでなおしてくれて、れいぞうこのなかでにゅういんした」
「マーちゃん、よくおぼえていたわね」
ママが、マーちゃんのあたまをナデナデしました。
「ゆきだるまさんたちは、あたたかいのが、にがてなの。あたたかくなると、とけてしまうから。とけてみずになったゆきだるまさんたちは、おそらにのぼって、くもになったの」
「どうして、くもになるの?」
「またらいねんのふゆに、かえってくるためよ」
「でも、ずーっといっしょにいたい。れいぞうこのなかにいれば、いっしょにいられるでしょう?」
「そうね。くらいれいぞうこのなかにいたら、ずーっといっしょにいられるね。もしマーちゃんが、ゆきだるまさんだったら、どうおもう?」
「どうって?」
「おともだちや、パパやママとはなれて、ずーっとれいぞうこのなかでひとりぼっちですごすのよ」
「そんなの、イヤにきまっているわ」
マーちゃんは、かんがえました。
ママやパパ、それにおともだちのいない、れいぞうこでくらすことを。
「らいねんぜったいに、かえってきてくれる?」
「うん。はじめは、しろいゆきだけど、ちゃんとマーちゃんがゆきだるまさんのことをおぼえていてくれて、そしてつくってくれたら」
「ぜったい、つくるもん‼」
マーちゃんは、なきました。
マーちゃんは、ゆきだるまさんをれいぞうこのなかにいれるのをあきらめてなきました。
マーちゃんは、ゆきだるまさんと、おわかれするのがかなしくて、なきました。
やがて、ゆきだるまさんは、なんにちかのうちにスッカリとけてしまい、おそらのくもになりました。
いちねんごの、ふゆ。
マーちゃんは、まいあさ、はやおきしてカーテンをあけておそとをみていました。
なんにちも、なんにちも。
そして、ようやくゆきがふりました。
「ママー! ゆきだるまさんが、もどってくるよ‼」
おおきなおなかをかかえたママが、マーちゃんによばれてそとをみるころには、もうマーちゃんはスッカリきがえおわっていました。
「ママ、はやくはやく!」
マーちゃんは、さっそくおにわにでて、ゆきだるまさんをつくりました。
きょねんより、すこしおおきな、ゆきだるまさん。
くろまめの、めに、ごぼうの、くち。
それからなんにちかたってママが、あかちゃんをうみました。
きょうからマーちゃんはおねえさんです。
あかちゃんの、なまえはユキちゃん。
マーちゃんは、いもうとのユキちゃんにききました。
「ユキちゃんも、おそらからもどってきたの?」と。
***おしまい***