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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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望むのは贅沢な誓約

 美しく手入れされた皇城の庭園には、花を好んだ聖女ネシェリの加護を願うため、常になにかしらの花が咲いている。


 もう数え切れないほどに重ねてきた殿下とのお茶会が、天気の良い日は必ずこのテラスに招かれているのだと気づいたのは、いつだったか。

 優美な仕草でティーカップを下したルベルト殿下は、私が紅茶を嚥下するのを待って口を開く。


「皇帝陛下が、"緑の悪魔"を暴いたミーシャ嬢に褒美を取らせよと」


「っ、陛下が、ですか?」


 驚愕に手を滑らさないよう、ティーカップを慎重に下す。

 私は「ですが」と戸惑いに眉を潜め、


「皇帝陛下ならびに皇后陛下につきましては、どちらの"巫女候補"にも個人的な介入を禁じられていたはずでは」


 帝国が選ばなければならないのは、正しい"聖女の巫女"。

 私情が絡んでは判断を誤る可能性があるからと、皇室と神殿で取り決めがなされていると聞いた。


 だから私も……私が知る範囲ではアメリアも、頻繁に皇城を出入りしているにも関わらず、両陛下にはパーティーでの挨拶でしかお目にかかったことがない。


(これまで徹底されてきたのに、褒美を与える?)


 まさか、既に皇帝か皇后を掌握したアメリアの罠なんてことは――。


「故に、こうして俺が話している」


 愉しげに瞳を細めてみせる殿下に、ああ、と悟る。


「つまり、これはあくまで非公式な"褒美"なのですね」


「父上はたいそう残念がっていた。だが、それでも何かをせずにはいられないとおっしゃってな。……ミーシャ嬢が気付いてくれなければ、あの村はもちろん、いずれ帝国全土で多大なる被害が出ていただろう。この国は、ミーシャ嬢に救われたも同然だ。改めて、礼を言う」


「幸福な偶然が重なっただけですわ。それに……私の仮説を殿下が真剣に受け止めてくださらなければ、ただの戯言で終わっていた話です。私こそ、殿下に感謝を申し上げなくては」


「それは心外だな。俺は普段、ミーシャ嬢の言葉を話半分で聞き流していると思われていたのか」


「いえ、そういう意味では……」


「わかっている。冗談だ」


 殿下はくっと口端を吊り上げ、


「対外的は俺からの感謝と労いの証であるとするため、爵位や領地は渡せないが、陛下は可能な限りあなたの望むものを与えよとおっしゃっている」


(望むもの……)


 実質、皇帝と繋がった"褒美"の品。

 たとえ殿下の名で与えられたとしても、その品が持つ”背景”は変わらない。

 それに、私を”聖女の巫女”だとする噂にも、大きな影響を与えるに違いないわ。


(誰が見てもそうと分かるような、希少で高価な物をねだることもできるのでしょうけれど)


「……ひとつ、頂きたいものがあります」


 背を正し、じっと見据えるルビーレッドの瞳を見つめ返す。


「一度だけ、私が何をしようともお許しいただけるという誓約をいただきたく存じます」


「誓約?」


 殿下は虚を突かれたように瞠目するも、すぐに何やら考え込むようにして、


「何をしようとも、か」


「はい。何をしようとも、です」


(やっぱり、難しいわよね)


 こんなにも曖昧な誓約では、悪用すると言っているようなものだもの。

 ここから少しずつ条件をつけて、結果的に望んだ内容で折り合いがつければ――。


「わかった。父上にも話を通しておこう」


「! よ、よろしいのですか? 禁止事項など、条件もつけておりませんが」


「ああ。"何をしようとも"、があなたの望みなのだろう? なら、その内容で構わない」


「ですが……。私がその誓約を使って、皇位を望みでもしたならどうされるおつもりなのです?」


 焦る私とは反対に、殿下は余裕たっぷりに微笑んで、


「それはそれで面白そうじゃないか。もっとも、あなたが本当に皇位を望むのであれば、俺にも有利だからな」


「有利、ですか?」


 殿下「ああ」と愉しげにティーカップを持ちあげ、


「俺と婚姻を結べば、はからずとも未来の皇后だ。あなたを口説く武器になる」


「な……っ!」


 さらりと言ってみせる殿下に、なぜか頬が熱を帯びるのを感じて視線を落とす。

 殿下がくつくつと喉を鳴らしている気配がするけれど、不快に感じないのが恨めしい。

 そんな私の心境に気が付いているのか、いないのか。

 殿下は宥めるような優しい声色で、


「誓約については内密で願いたい。内容が内容だからな。ミーシャ嬢も、面倒事は御免だろう?」


("何をしようとも"許されるだなんて、知られたら最後、大騒ぎになるものね)


「ええ。お気遣いありがとうございます、殿下」


「では、もう一つ必要だな。希望はあるだろうか?」


「……はい?」


 なにを、と視線を向けた私は、さぞかし呆けた顔をしていたのかしら。

 殿下はふ、と笑みを零してから、肩を竦め、


「誓約は表に出来ないからな。それとは別に、広く周知しても問題ない"褒美"が必要だ」


(皇室から、今回の功労者と噂れている"私"に褒美を与えたって体裁が必要なのね)


 今回は場所が場所だっただけに、平民の声が大きい。

 ましてや"奇跡の雪"に加え、大神官であるルクシオールが同行していたから、聖女ネシェリを崇める神殿への信仰も強まっていると聞いたわ。


(皇室としても、黙っていられる状況ではないということなのね)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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