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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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やっと手に入れた"家族"

 わかっている。私は"聖女の巫女"なのだから、胸中を占めるこの"もしも"に意味などないと。

 それでも、確かめたかった。


「……よろしいのですか? "悪女の巫女"を保護するとなれば、ロレンツ公爵家の名に傷がつくのはもちろん、お兄様にもご迷惑が」


「大切な妹を保護するのに、迷惑などあるわけがないだろう! この際だから、はっきりと言っておく。"悪女の巫女"だろうが"聖女の巫女"だろうが、俺は俺の見てきたものを信じる。他の者がなんと言おうと、ミーシャは俺の可愛い妹だ」


「っ!」


 まっすぐに私を見つめるエメラルドグリーンの瞳に浮かぶのは、偽りない慈愛。

 ずっと、ずっと焦がれ続けていた"家族"を、やっと手に出来たのだと。


「む!? ミーシャ、泣いているのか!? 俺はまた余計なことを言ったか!?」


「いいえ、そうではありませんわ。……嬉しいんです。お兄様が、私を愛してくださって。ありがとうございます、お兄様」


「ミーシャ……」


 オルガは何かを言いかけて口を開くも、唇を閉じた。

 代わりのようにして、私の頭を撫でて笑む。


「殿下と正式に婚約をするにしても、出来るだけ遅くていいぞ。ミーシャがいなくなってしまっては、寂しいからな」


「……あの、オルガ様」


 シルクがおそるおそるといった風に手を挙げて、


「その、他家から求婚の手紙が届いているって話。殿下にお伝えしてたりします?」


「ああ、伝えてあるぞ。もっとも、殿下は既に情報を掴んでいて、事実確認のようなものだったがな」


(まさか、殿下が急に積極的な態度を表に出すようになったのは、それが原因?)


 ちらりとシルクを伺うと、同意するようにして頷く。

 ヴォルフ卿は「なるほど」と神妙な面持ちで、


「故に殿下は急いでいらっしゃると。いやはや、幼少の頃より随分と大人びたお方でしたが、ことミーシャ様が相手になりますと、年頃の青年のようですな」


(……確かに、殿下はずっと、私にはその感情を見せてくれていたわね)


 それが彼なりの誠実さなのだと思っていたけれど。

 もしかしたら、"私相手"だったからこそ取り繕えなかった場面もあったのかもと、自惚れてもいいのかしら。

 すると、ユフェが「わ、私は!」と勇気を振り絞ったようにして声を上げ、


「私は、ミーシャ様に幸せになっていただきたいです! 誰よりも、一番に! な、なので、ご婚約もミーシャ様が望まれた時が適切ではないかと、思うです……っ!」


「……そうね。まずは私がどうしたいのかを決めるべきよね」


 私を疎み、この胸を貫いた一度目のルベルト殿下。

 あの絶望は拭い去れないし、許せるものでもない。


 けれど、今の彼は"あの人"とは違う。殿下は長い時間をかけて、それを証明してくれた。

 二人を別の存在と考えることが出来るのだから、きっと、答えはそう遠くないところにあるはず。


(でも、どんな答えに辿り着こうと、忘れてはいけないわ)


 私にとって優先すべきは、アメリアへの復讐だもの。

 やっとここまで来たというのに、感情に流されて台無しになどしたくはない。


「……よく、考えなくてはいけないわね」


 ぽそりと零した呟きに、オルガが「よし!」と手を叩いた。


「ともかく、ミーシャはミーシャのしたいようにすればいい! 俺もそうするからな。ええと、ユフェと言ったな」


「は、はいです!」


「次は皿を洗うのだろう? 俺がやろう!」


 いそいそとジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲りあげるオルガに、室内が騒然とする。

 シルクとユフェ、そしてヴォルフ卿が言葉を尽くして制止しようとするも、オルガの意志は固いよう。


(オルガには悪いけれど、ロレンツ公爵家の跡取りに皿を洗わせたなんて外部に知られたら、面倒な事態になってしまうわ)


「そういえば、お兄様。ぜひ見て頂きたいものがありますの」


 今しがた思い出したという風に手を打って、料理台の隅に積まれていたそれを一つ手にとる。


「この村で収穫されたじゃがいもですわ」


「! 見せてくれ」


 急ぎ私からじゃがいもを受け取ったオルガは、好奇心に染まる瞳で手の内のそれをあらゆる角度から眺め、


「驚いたな……。こんなにも違うのか」


「私達の領地で収穫されるものは、もっと小ぶりですものね」


 ルベルト殿下の主導のもと皇家の領地での収穫が成功したじゃがいもは、数多の貴族に栽培命令が下った。

 我がロレンツ公爵家も例外ではなく。

 現在に至るまでいくつかの領地で栽培しているものの、形にも収穫量にも随分とむらがある。


「土が問題なのか? いや、そもそもの気候の違いが……? この一つが立派だったという話ではなく、常にこの大きさなのか?」


 オルガの視線を受けたユフェが、「ひぇっ」と肩を跳ね上げる。

 戸惑うようにして私を見つめてきたので頷くと、ユフェはおずおずと口を開き、


「は、はいです。この地で栽培を始めた時は小ぶりなものの方が多かったですが、ここ二年ほどは大きさも収穫量も安定しているでして……あ、穀物庫も増やしましたです! ですが少し前に古い一棟の屋根が壊れてしまって、それを修理するときについでだからと他の穀物庫の古い木も取替えを始めたのですが、まだ終わっていなくて……って、申し訳ございません! 聞かれてもいないのにべらべらと……!」


「平気よ、気にしないで――」


(屋根が、壊れた?)

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