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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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もしもまた"悪女の巫女"とされたのなら

(今は領地や邸宅の管理の一部は私が請け負っているけれど、それでもオルガに仕事が集中していることに変わりはないわ)


 表向きはお父様が"当主"であるぶん、好き勝手に勧められない話はお父様に手紙を出したりと、手間が多いようだし。

 ともかく、自身で皿を下げるなんて万が一にもあり得ない生活だったオルガにとって、ここでは新鮮な体験ばかりだということ。


「ありがとうございます、お兄様。お紅茶のおかわりはいかがですか?」


「いや、もう充分だ。ところで、聞いておきたいのだが……ミーシャ、殿下と正式に婚約を結ぶのか?」


「なっ!?」


 お皿が手から滑り落ちそうになり、急ぎ手に力を込め取り繕う。

 気づいたユフェが「だ、大丈夫ですか!?」と駆け寄ってきて、お皿をそっと引き取ってくれた。

 ガタリと激しい音が聞こえたのは、驚愕に目を見開いたシルクが「はあ!?」と勢いよく立ち上がったから。


「ミーシャ、殿下と婚約すんのか!?」


 ヴォルフ卿は「ほほう」と髭を指先で撫で、


「なればミーシャ様が皇城に移られる日も近いということですな。ご安心くだされ。護衛は信頼ある腕の立つ者を抜粋しておきますぞ」


「落ち着いて、シルク。それにヴォルフ卿まで……。殿下はそんなつもりじゃ――」


「いーや、確かに聞いたぞ。今すぐにでも婚約者候補から"候補"の文字を消したいと。つまり、婚約したいということだろう?」


「違いないです。どころかがっつり言ってるじゃないですか……! え? ミーシャ、まさかこれでも殿下の"冗談"だと思ってるのか?」


 愕然とした表情を向けてくるシルクに、「だ、だって」と口ごもってしまう。

 ヴォルフ卿は期待に満ちた瞳で見て来るし、ユフェに至っては頬を赤くして緊張の面持ちだし。


「……たとえそれが殿下の本心だとしても、無理なのは承知しているでしょう? 殿下は"聖女の巫女"との結婚を定められているし、どちらが"聖女の巫女"なのか判明するのは、審判の日なのだもの」


 瞬間、シルクは何か言いたげにしながらも口を閉じた。

 他言しないという約束を守ってくれているのね。

 すると、「それと関係する話なんだが」とオルガが口を開き、


「実をいうと、近頃いくつかミーシャ宛てに縁談の話が来ている。もしも殿下との婚約が進まなければ、ぜひ婚姻を希望したいと」


(なんですって?)


「あり得ませんわ。殿下との婚姻が進まないということは、"悪女の巫女"と判断されたと同義ですもの。"悪女の巫女"はお告げによって、十八の誕生日までに葬られる定めではありませんか……!」


「その通りだ。だが万が一ミーシャが"悪女の巫女"だと言い渡された場合、その定めの通りにはいかないはずだ」


「どういう……意味ですか?」


 狼狽する私に、ヴォルフ卿が口を開く。


「申したではありませんか、ミーシャ様。ミーシャ様を慕う者は、多いのだと」


 彼もまた、心得ていたといわんばかりの冷静さで、


「ミーシャ様が"悪女の巫女"だとされたなら、まず間違いなく恩情を求める嘆願書が集まるでしょう。それだけの影響力をミーシャ様はお持ちですからな。そうなれば、国が危機的状況に陥った際にはすみやかに捕縛されることを条件に、ミーシャ様には"恩情"を与えられる可能性が高いかと」


「恩情……」


(お告げに反して、生きながらえさせるということ?)


 ヴォルフ卿は「ええ」と頷き、


「いくらお告げとはいえ、大きな罪もないミーシャ様を即刻処刑などしたら、皇家への不満が高まるのは明白ですからな。無論、監視はつくでしょうが」


「そういうことだ。つまりその"恩情"の間に、ミーシャを娶りたいということだな」


「……いくら"悪女の巫女"が相手とはいえ、一度でも"ロレンツ公爵家"と内縁になれば、利を得る貴族は多いですものね」


「なにを言う。もちろんその面もあるだろうが、求婚してきたヤツ等の目的の大部分は、ミーシャ自身だぞ」


 オルガは呆れたように肩を上下させ、


「ミーシャ、お前ほど美しく聡明な女性は他にはいない! いったいどれだけの男がお前に憧れ、たった一度だけでも笑みを向けてもらおうと隙を狙っているか。実害が出ていないのは殿下の"婚約者候補"であると同時に、殿下がミーシャを大切に扱っているのを皆が承知しているからだ」


 絶句する私に、シルクが肩を竦める。


「ほら、だから言っただろ? "牽制"だって」


(本当に、そんなことが?)


 とにかく、必死だった。再び"悪女"とされないように。

 立派な淑女の笑みを身に着け、知識を私の"価値"とした。

 すべてはどれをとっても私よりも愛らしい、アメリアに勝つため。


 だから私に好意的な人は皆、私自身ではなく、私の"価値"に群がっているのだと考えていた。

 衝撃に固まる私を、どう捉えたのか。

 オルガは「ああ、心配しなくていい」と口角を上げ、


「何があろうと、ミーシャが嫁ぐ必要はない。万が一の時は本邸でも領地でも、ミーシャの過ごしやすいところでのんびりしたらいい。ミーシャの身はロレンツ公爵家として、俺が保護するからな」


「お兄様……」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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