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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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治療小屋を改善しましょう

 刹那、誰かが「あれは」と声を上げた。

 それを合図のようにして、様々な使用人服をまとった男女が背を正して頭を下げる。と、


「お嬢様」


「! ソフィー! 来てくれたのね」


 思わず駆け寄りその両手を掴み上げると、ソフィーは「ええ」と微笑んで、


「お嬢様の一大事とあっては、待つだけなど出来ません」


 ソフィーは視線を頭を下げる彼らへと向け、


「お嬢様のご希望されました通り、シーツとタオルを交換しております。患者様のお洋服も取替えを?」


「ええ、お願いするわ。その時に温めたタオルで身体も拭いてあげて。体調をみて、可能な方だけで構わないから」


「承知いたしました。この場に集う使用人は皆、ミーシャ様のご意向に添うよう各々の主人から仰せつかっています。なんなりとご指示ください」


 低頭する彼らは、誰一人として頭を上げない。

 忠誠の証。私は感動に目の奥が熱くなってくるのを感じながら、「ありがとう」と絞り出す。


「どうか、協力をお願いするわ。"お世話"の知識に長けているあなた達でないと、頼めないことなの」


「「「承知いたしました、ミーシャ様」」」


(まさか、こんなにも来てくれるなんて)


 治療小屋はあと三つ。

 これだけ人手があるのなら、想定よりも早く改善できそうね。

 適宜指示を出しながら治療小屋の中を歩き回っていると、調理場の指揮を任せていたシルクが「ミーシャ!」と駆け寄ってきた。


「殿下がいらした!」


 急ぎ調理場から駆け出した途端、治療小屋の扉が開かれた。

 現れたのはルベルト殿下にエルバード。そして、急ぎ殿下へ報告に向かったヴォルフ卿。

 馬を飛ばしてきたようで、それぞれ息が乱れている。


 ルベルト殿下の登場に頭を下げた私や使用人たちに、歩を進めて来た殿下は「続けてくれて構わない」と軽く手を挙げてから、


「状況の説明を願えるか、ミーシャ嬢。"好きにしてもいい"とオルガに許可は出したが、細かい意図はわからないと言ってさっさとあなたの元へ行ってしまってな」


(オルガったら、殿下に説明もなく使用人たちを動かしていたの!?)


「申し訳ございません、殿下。殿下にご説明をしているか、確認を取るべきでしたわ」


「いや、俺もミーシャ嬢への言伝を頼むべきだった。それで……いったい何を始めた? 何かわかったのか」


「体調不良を引き起こす根本的な原因については、まだ何も。ですが、要因の一つとなるであろうものは、いくつか」


 私はまず、と殿下を患者のベッドが並ぶメインホールへと導き、


「シーツやタオルを新しいものに変えましたの。患者の服も、特別な事情が伴わない限りは着替えさせております。可能な者は、身体も拭いて。……殿下、身体が弱っている際に不衛生な場に留まり続けては、治りが遅くなるどころか別の不調を引き起こす可能性があることはご存知でしょう。治療小屋の全てにおいて、洗濯が不十分でしたわ」


「洗濯が?」


「人手が足りていないのです。患者が日々増えていく最中、症状によっては何度もシーツやタオルを汚します。着替えが必要になることもあるでしょう。さらには水を求める者、不安や辛さから泣く者……そうした患者の世話をしているだけでも忙しく、大量の洗濯にまで手がまわらないのですわ」


 話しながらも今まさに視界の先では、泣く少年の背を撫でて励ます女性や、匙で一口ずつ老婆に水を含ませている女性が。

 手伝いに入っている使用人たちも同様に、苦しむ婦人の顔に浮かんだ大量の汗を拭いたり、痛みに腹を抱える男性に湯の入った革袋を用意したり。


「看病をしている方々の話では、明らかな汚れや臭いがなければ取り換えることはほとんどなく、また、汚したモノは全体を洗うのではなく、その部分だけを処理して間に合わせることが大半だそうですわ」


「そんなことが……」


「責めることは出来ません。なんせ世話を任されている者は、ただの村の女性に過ぎませんもの。農耕が盛んなこの地では屋敷勤めをしたことのある者などほとんどいませんでしょうし、大勢の看病もまた初めての事態でしょう。それから、次に」


 私は「食事です」、と殿下たちを食堂へ案内する。

 鍋を振るう者、野菜を刻む者。ここでは調理経験のある使用人たちが、せっせと食材と向き合っている。


「病人たちの食事はパンにスープ、回復傾向にある者には燻製肉も与えられると聞きました。ですが問題なのは、ここで働く方々も同じ食事をとっていることです」


 少なすぎます、と私は殿下を振り返り、


「ベッドの上で過ごす患者と違い、世話をする者は配置されたその日のほとんどを休むことなく働いております。ほんの一日二日なら耐えられるかもしれませんが、明らかに栄養が足りません。ですが彼らは皆、自身の食事を作る時間もなければ、調理の手間を億劫に感じるほど疲弊しているのですわ。そしてこれは、この村全体にも言えることで――」


「――お姉様!」


「!?」


 響いた声に顔を跳ね向けると、肩を上下させたアメリアとジークが駆けてきた。

 アメリアは殿下まであと数歩といった距離で歩を止めると、「なんてことを……」と青ざめながら口元を覆い、


「いくら食事が口に合わないからといって、あまりに非情ではありませんか? 皇家の屋敷から移られたと思いきや、使用人を大挙し苦しむ方々のための厨房を使って贅沢な食事を作らせるなんて……!」


(なんだか面白い勘違いをしているようね)

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