表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/142

村人に好かれる巫女

 翌日。ユフェと共に訪れた治療小屋に、彼女のお母様はいた。

 ベッドの上で横たわり、うっすらと目を開ける彼女は話すのも大変そうで。

 それでも、滞在の挨拶をした私達に微笑み、「よかったわ」と深い息を吐きだした。


「ユフェは、一人じゃないのね」


(私達が滞在するのはたったの三日間なのに、それでも嬉しいものなのかしら)


「……では、私達は暫し席を外しますわ。ユフェ、また後でね」


「はい、お待ちしております」


 ユフェのお母様にも会釈して、シルクを連れてその場を離れる。

 この治療小屋は先日ルクシオールやアメリアと、最後に訪れた四番目の小屋。

 村長の話では症状の重い人と、長期化していて弱っている人が多い小屋だと言っていた。


(……本当、"浄化"だけではなく"治癒"の能力があれば、少しでも手助けできたのに)


 ミーシャ、と呼ぶシルクの声に目を向ける。


「団長が村長に許可を取ってくれてるから、好きにしていいって言ってたぜ」


「助かるわ。……まずは世話をしている女性達に話を聞いてみようかしら」


 ざっとみたところ、動き回っている女性は十代後半から四、五十程度のご婦人まで年齢の幅が広い。

 様子を伺いながら、彼女たちにいくつか質問をして話を聞く。


 自ら希望して世話にあたっている人は、発症者の家族など近しい人ばかりのよう。

 他は村長によって、体調に難のない村人から指名されたのだという。

 いつ自分も発症しやしないかと、毎日気が気でないと嘆く夫人もいた。


(うつらない、と言われているとはいえ、原因が特定出来ていないのだから、不安なのは当然よね)


 女性は病人たちの世話や洗濯、掃除。病人に食べさせる食事の調理などを。

 男性は食材の運搬や、自力で歩けない人を移動させるといった力仕事担っているという。


 多くはないけれど日給も出ていて、治療小屋で扱われる食材は村の備蓄庫からの支給品という待遇の良さ。

 というのも、この地の主である皇家が援助し、村長を通じて指示を出しているのだと言っていた。


(卵も毎朝新鮮なものが届けられているだなんて、さすがは皇家の領地ね)


「まあ、皇家が焦るのも無理はないよ」


 とある婦人は腰をトントンと叩きながら、


「ちょうど、じゃがいもの収穫時期と被っちまってるからね。早いとこ働ける者を増やさなにゃ、とりっぱぐれちまうだろう?」


(じゃがいも……ね。皇家の館でも、ユフェの家でも口にしたわ)


 神殿では新しい一年の初めに、聖女ネシェリへ祈りを捧げ、一年の行く末を占う神託の儀が執り行われる。

 数年前、この神託にて厳しい冬による飢餓の可能性を啓示された皇家は、対策として"悪魔の植物"と言われていたじゃがいもの栽培を取り入れた。


(たしかこの村も、はじめの農耕地の一つだったはず)


 今ほどの量を収穫することは出来なかったとはいえ、その年は皇家の領地で作られたじゃがいもに助けられた人は多い。

 以降、他の領地でも栽培を始め、今ではすっかり馴染みある食材となっている。

 もちろん、ロレンツ家でも栽培を始めたのだけれど……。


(まさか、じゃがいもの毒? いいえ、食事に出されたじゃがいもは綺麗に皮も芽も取り除かれていたし、シルクだって切り取っていたわ)


 じゃがいもの芽が毒だというのは、今や誰もが知っている。

 ましてや"はじめの地のひとつ"であるここの村人が、知らないわけがないわ。


「……貴重なお時間を頂き、ありがとうございました」


「おや、終いかい?」


「ええ、お仕事の邪魔をしてしまって――」


「そうじゃないよ」


 婦人は途端に不機嫌な顔をして、


「あんた、巫女様だろう? 祈ってはいかないのかい」


「……私の祈りでは、"浄化"は出来ませんから」


「なら、"慰労の品"は?」


「……ご説明願えますでしょうか」


 にこりと笑んで見せた私に、婦人は「ったく、気の回らない"お嬢様"だねえ」と盛大に息をつき、


「なんの効力もないのだろうけれど、アメリア様は祈ってくださったよ。"日々の積み重ねが大切ですから"ってね。おまけに少量だけどっつって、焼き菓子も振舞ってくださったんだ。"皆様の献身的なお世話に、少しでも感謝をお伝えしたくて"なんて、いじらしい心をお持ちだと思わないかい?」


「……その焼き菓子は、彼女が自分で作ったと?」


「ああ? それがこれまた驚いたことに、皇家の料理人直々の菓子だって言うんだよ。なんでも殿下に頼み込んでくださったようでね。私達みたいな平民には一生縁のない菓子だろう? 本当に美味しくて美味しくて……。ふん、アメリア様はこんなにも寄り添ってくださっているというのに、"お嬢様"は好奇心を満たすだけでお忙しいようだね」


(そんなことをしていたのね、アメリア)


 口振りから察するに、婦人は私に恥をかかせたいのだろうけれど。

 正直、あまりの想像力のなさとアメリアの身勝手さに、うんざりとしてしまう。


 館に滞在しているルベルト殿下および護衛騎士、ルクシオールにアメリア、今は不在にしている私やシルク。

 そして調査団の食事は、館の料理人たちが請け負っていると言っていた。


 当然、館で働く使用人のまかないだって彼らの仕事。

 それを知っていれば、"さらに村人に振る舞う焼菓子を作ってほしい"だなんて、決して言えないと思うのだけれど。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ