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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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祈りよりも建設的な策を

(まったく、アメリアも図太いものね)


 戻ってきた屋敷の自室で、私付きのメイドが用意してくれた紅茶で喉を潤しながら、小さな嘆息をひとつ。

 あの後、村長に案内された治療小屋は四つ。


 大きさに準じて患者の人数は違えど、全てで"浄化"の祈りを捧げて回った。

 症状が軽微な者は自宅にいるというから、"穢れ"が村全体に発現しているのも納得がいく。


(村の軽微な"穢れ"から消していくべきかしら。それとも、小屋から手をつけたほうがいいのか、悩みどころね)


 ルクシオールはこれからの"浄化"について話し合うからと、村長の家へと向かった。

 そして、アメリアはというと。


「私はもう少し村の様子を見てから帰りますね。お姉様はお気をつけてお戻りください」


 愛らしくも晴れやかに笑んだアメリアは、「行きましょう、ザック様」とスカートを翻し、軽やかな足取りで歩いていった。

 ザック卿は一言も発さずに、私達へとぺこりと頭を下げその後を追っていたけれど、いったいどんな心境だったのか。


(ルクシオールの言葉を耳にしていない村人たちに狙いを定めて、"聖女の巫女"としての印象を植え付けにいったのかしら)


 それとも、これから挽回する別の策を思いついた?

 どちらにせよ、アメリアについてはしばらく様子をうかがうしかない。

 今は急ぎ、この地の異変をなんとかしないと。


(そういえば、この屋敷は"穢れ"を見かけないわね)


 ふと沸き立った疑問に、私は「ねえ」と部屋の端で控えるメイドに声をかける。


「いかがいたしましたでしょうか?」


「いくつか話を聞きたいのだけれど、あなた、この村の人?」


 メイドは「いいえ」と姿勢を正したまま首を振り、


「出身は地方ではございますが、王都にて採用され、数年前よりこちらのお屋敷に配属されております」


「そう……。この屋敷で働く使用人で、この村出身の人はどれくらいいるのかしら」


「全てを把握しているわけではございませんが、数える程度ではないかと推察します。私のような者のほうが、多いかと」


(この村の出身者が少ないから、この屋敷にはほとんど"穢れ"が発生していない……?)


「ありがとう、助かったわ。よかったらこのチョコレート、食べてちょうだい。この後、急ぎで手伝ってほしいこともあるの」


 立ち上がった私は小皿に乗せられた、まだ手をつけていないチョコレートをお皿ごと渡す。

 すると、彼女はわかりやすく瞳を輝かせてお皿を受け取り、「あ、ありがとうございます……! 承知いたしました」と頭を下げた。


(ルベルト殿下は、本当にいい使用人をつけてくれたのね)


 主人の目を盗んで、食材をつまみ食いする使用人は珍しくない。

 ましてや皇家の厨房ともなれば、魅力的な食に溢れているはずだもの。


 ついつい手が伸びたって仕方ないでしょうし、よほどの"倹約家"でなければ目をつぶる雇用主がほとんどのはず。

 けれど彼女の反応は、これまでこのチョコレートを口にしたことがない者のそれだった。


(また今度機会があったら、分けてあげるのもいいわね)


 ふふ、と微笑ましい心地で扉へと歩を進めた私は、暫く休むよう伝えて別れたシルクとヴォルフ卿の部屋を訪ねるべく、扉を開けた。途端。


「やや、ミーシャ様! お出かけになられますか?」


「……ヴォルフ卿。私はお声がけするまで暫くお休みくださいと伝えたはずですが、なぜこちらに?」


「ご心配には及びません。立ちながら休息をとる術は心得ておりますゆえ。しっかりと休ませていただきました!」


(なんだか懐かしい感覚ね……)


 痛む頭に思い浮かぶのは、いつぞやのエルバード卿。

 騎士団の人って、どうしてこう思考が極端なのかしら。


「ごめんてミーシャ。でもほら、団長、ミーシャの護衛すんの初めてだからさ。不安になるのも仕方ないっていうか」


「シルク」


 対面の扉から現れたシルクは、お構いなしに休息を取っていたよう。

 うーんと伸びをして腕を回しながら、


「大神官様は話し合いに。もう一人の"巫女様"は、村の視察に。殿下は調査団と合流されているみたいだし、それぞれ活動中だろ? 小屋の様子は俺達にも衝撃的だったしさ。そんな中で"休め"って言われても、悪いことをしている気分になるっていうか」


「……その割に、あなたはしっかり休んでいたようだけれど」


「そりゃあ、俺ぐらいになればこの時間はミーシャの"一人軍議中"ってことぐらいわかるからな。んで、この後に俺達には想像もつかないような案を持ちかけてくるだろうってことも。余すことなく期待に応えるためにも、休めるうちに休んでおかないと」


 だろ? と得意げにニッと笑うシルクに、「そうね」と思わず笑みが漏れる。

 実際、私はこれから彼らを"余すことなく"酷使しようとしているのだから。


「申し訳ありません、ミーシャ様」


 ヴォルフ卿は焦ったような必死さで、


「けして、ミーシャ様のご判断に異を唱えたかったわけではないのです。ただ、今もあのように幼い子供までもが苦しんでいるのだと思うと、少しでも出来ることはないかと……」


「構いませんわ、ヴォルフ卿。心が痛むのは、私も同じですもの」


 ですから、と。私はいたって優美に微笑んでみせる。


「二人に急ぎ、お願いしたいことがありますわ」

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