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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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運命的な護衛

 古くから皇家の領地というだけあり、私達を迎え入れたのは首都と見間違うほどの立派な邸宅だった。

 皇帝陛下と皇妃もよく利用されているらしい。広い邸は庭まで手入れが行き届いていて、使用人の数も多い。


 そして、なにより。

 案内された部屋で、世話になる邸宅の侍女たちと挨拶を交わし、荷解きを終え暫くが経った頃。


「部屋は気に入ってくれたか?」


 涼しい顔で訪ねてきたルベルト殿下に、私は「殿下」と背を正す。

 来るような気がしていた。来なければ、私から向かうつもりだった。


「お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでようか」


「なんだ?」


「クローゼットに、"ベルリール"のドレスが数着収められていたのですが」


 殿下は「ああ」と愉悦に双眸を緩め、


「気に入ったモノがあったら使ってくれ。急な話だったからな、オーダーメイドではなくすまないが」


「"オーダーメイド"でないだけで、新作ばかりではありませんか……。アメリアにもドレスの用意を?」


「生憎、時間がなくてな」


(やっぱり、はじめから私にだけ用意する算段だった、ってこと)


 てっきり隣同士にされると思っていたアメリアの部屋は離れていて、主廊下をはさんで反対側にある。

 部屋を出ればこちらの様子を伺うこともできるでしょうけれど、中にいては、おそらくは気付かないまま。


 ちなみに対面の部屋は、護衛騎士であるシルクの部屋とされている。

 アメリアのほうもおそらくは、護衛騎士であるザック卿の部屋となっているのだろう。


「……素敵な贈り物に感謝します、殿下」


 恭しく礼を返してみせると、ルベルト殿下はちょっと驚いたようにして肩を竦めた。


「素直に受け取ってくれるのだな」


「殿下のお気持ちをもう少し汲んでも良いのではないかと、"大切な友人"から助言をいただいたものですから」


「……シルクには後で礼をしなくてはだな」


 ぼそりと呟いた殿下は、嬉し気に頬を緩め、


「部屋に入ってもいいだろうか。少し、話したいことがある」


 どうぞ、と招くなり部屋の中にいた侍女が、静かに頭を下げて「お茶をご用意いたします」と退出する。

 さすがは皇家に仕える使用人だわ、と感心しながらソファーに腰かけると、殿下は部屋をぐるりと見渡し、


「不便はないか? 遠慮せず、必要なものは何でも言いつけるといい」


「ありがとうございます。立派なお部屋で、快適ですわ」


「そうか。本当は俺の隣の部屋にあなたを招くつもりだったのだが、エルバードにとめられてな」


(感謝するわ、エルバード卿……!)


 隣の部屋って、鍵付きの扉で続きの間となっている部屋のことよね?

 婚約者か妻しか入ることの許されない部屋に私をあてがうなんて、周囲からどう噂されるか……!


(まさかこれも、シルクの言っていた"牽制"だとでもいうの?)


「こちらのお部屋をお貸しいただけで、心より感謝いたしますわ……」


「ふむ、どうやらエルバードにも礼をしておく必要がありあそうだな」


「ぜひそうしてくださいませ。エルバード卿には、今後ともお力添え頂きたいですわ」


 どっと沸き上がった疲弊を隠しながら運ばれてきた紅茶を「ありがとう」と受け取ると、当然のように小皿に乗せられたチョコレートを添えられた。

 もしかして、と殿下に視線を遣ると、含みのあるいい笑み。


(殿下ったら……私がチョコレートを好いているって、こっちの使用人にも伝達済なのね)


「……お心遣いありがとうございます」


「大したことではない。あなたのその表情が見れてなによりだ。……こうしていつまでも、楽しい時間を続けていたいものだな」


 染み入るような声に、私はティーカップを置いて背筋を正す。

 この地に来た理由を。

 事態は一刻も早い解決を必要としているのだと、忘れてはいけない。


「お話とは、なんでしょう」


 殿下は扉横に控えていた侍女に目配せをする。


「入れてくれ」


 一礼した侍女が、扉を開く。と、現れたのは、


「失礼いたします、ミーシャ・ロレンツ様」


 胸に手をあて恭しく低頭したのは、騎士団の制服をまとう体躯のいい中年の男性。

 茶褐色の短髪と、整えられた髭。

 知った顔だわ。いいえ――忘れるはずがない。


「――騎士団長、ヴォルフ・ワージェ卿」


 前回の生において、ガブリエラの洞窟で私を"悪女"と糾弾し、ルベルト殿下に即刻の処刑を迫った男。

 以前と同じく騎士団長の座を得たらしい彼は、「なんと、我が名をご存じで」と嬉し気に相好を崩す。


「……ええ、シルクからもよく話を聞いていたものですから。鍛錬は厳しいけれど、騎士ひとりひとりを良く理解している、尊敬すべき方だと」


「いやはや、我が勤めを果たしているに過ぎないのですが、嬉しいことを言ってくれますな」


 照れ照れと頭を掻くヴォルフ卿からは、以前の生で見飽きたほどの憎悪の気配は微塵も感じない。

 すると、殿下は私へと視線を移し、


「彼をあなたの護衛としてつけることにした」


「……私の護衛騎士は、シルクでは」


「言葉が足りなかったな。シルクには引き続き護衛騎士を担ってもらう。……あなたも知っての通り、この地では既に"金の髪を持つ聖女の巫女"の噂が広まっている。大神官と共に、村の者と接する機会も多くあるだろう。これまでの件も考慮すれば、彼を付けるだけでは足りないくらいだ」


 殿下の言葉を引き継ぐようにして、ヴォルフ卿が「お任せください、ミーシャ様」と胸を張る。


「このヴォルフ、騎士団長の名にかけ、ミーシャ様にかすり傷ひとつ負わせやしないと誓いましょう! そして必ずや、ミーシャ様を"悪女"だなんぞ囁く者には、悔い改めてもらいましょうぞ」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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