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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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己が信じる聖女と悪女

(ルクシオールは、こうなることを予想していたのかしら)


 おそらくはアメリアが一枚かんでいるのだろうけれど、これまで決定的な証言は得られていない。

 だからこそ糾弾するわけにもいかず、主にシルクに頼りきりな状態でこれといった対処も出来ていないのが現状。


(されるがままというのは、歯がゆいわね)


 このまま黙っていてはいずれ、シルクだって大怪我を負うことになるかもしれない。

 私の、せいで。


「…………」


「あ、おいミーシャ! あんま近づきすぎんなって――」


「ねえ」


 座したまま木に巻かれた彼らの足先で、歩を止める。

 声量を上げ、「答えなさい」と冷えた声で問うと、ピクリと一人の男の肩が揺れた。

 どうやら気が付いたよう。「う……」と苦々しく呻きながら顔を上げた男を、腕を組んだまま見下ろす。途端、


「銀の髪に、空色の目……くそっ、この、悪女めが……! こうして平民を痛めつけては無様だと嘲笑ってきたんだろ!」


「今の私の表情が嘲笑っているように見えるのなら、あなたの目は正常に機能してはいないわ。それに、縛られているのはあなた達が襲ってきたからでしょう? 生憎、私は好き好んで縛る趣味はないの」


「うわあ……すっげえ怒ってる」


「当然よ。彼女、馬車の中でひどく怯えていたのよ」


「あー……ま、それが"普通"なんだよなあ」


 ぼそりと呟いたシルクをちらりと横目で見遣ると、両手を上げて首を振ってみせた。

 黙っていて、という意図は伝わったようね。

 私はぽかんとしている男に視線を戻し、


「それで? どうして私を襲おうとしたのかしら。初めて見る顔のはずだけれど……"審判の日"はまだだというのに、なぜ私を"悪女"と呼ぶの?」


「せ、"聖女"様があのお方なのだから、貴様が"悪女"に決まっているだろう!」


「あのお方というのは、アメリアのこと?」


「アメリア"様"だ!」


(あら、すんなりかかったわね)


 どうやら今回は収穫がありそう。


「なぜあなたはアメリア"様"が聖女だと断言するのかしら? 見たところ、神殿の所属でもないようだけれど」


「は! 金を使うことしか能がない悪女には、そんっな簡単な理由すら分からないんだな! あのお方はお忙しい日々の合間を縫って、あちこちの村で祈りを捧げてくださっているんだ。泥に汚れ、農具で荒れた俺達の手をためらうことなく握って、"私が生かされているのはあなた方のお陰です"、"いつまでもの健康と、幸福の訪れを祈っています"って微笑んでくださったんだ! 審判なぞ待たずとも、あのお方が"聖女"なのは間違いない!」


(ああ、そういうこと)


 社交界では私が優勢。

 貴族の支持を得られなかったから、平民を味方につけることにしたのね。


(護衛騎士がいれば守ってもらえるし、民の動向は、ザックを通してルベルト殿下に伝わるでしょうしね)


 それにこうやって、身勝手な正義感を募らせた何者かが私を襲ったとて、自分は関係ないと言い張れるもの。

 近頃妙に大人しいと思っていたら、作戦を変えただけだったのね。


(けれど……狙い通りに行くかしら)


 愛らしくあることだけに尽力していたあなたが、"平民"をどこまで知っているのかしら。


「行きましょう、シルク」


 くるりと男に背を向けた私に、シルクは目を丸めて、


「騎士団の到着を待たないのか?」


「大方の場所は伝わっているのでしょう? それとも、こういう時は到着を待つよう教育されているの?」


「いや、そういうわけじゃないけど……。直接引き渡したほうが確実だぞ」


 頬を掻くシルクの言葉を遮るようにして、縛られた男が「お、おい!」と焦った声を上げる。


「俺達をこのまま放っていくのか!?」


「……そうね。試してみるといいわ」


 私は男を肩越しに振り返り、


「ただ祈るだけなら、誰にでも出来るもの。あなたへの祈りが本当に聖なる祈りならば、"奇跡"が起きて救われるんじゃないかしら」


「な……っ」


「たとえば騎士団が到着する前に縄が解けて、お仲間も目を覚ませば逃げおおせるでしょう? ああ、偶然通りかかった誰かが手を貸してくれるかもしれないわね。反対に……獣でも現れれば、あなたもお仲間も、無事ではすまないでしょうけれど」


「! ま、まて!」


「あなたの信じた"聖女"の祈りが本物だといいわね。私なら……無意味な祈りなど広め回らないわ。力は無限ではないのだから、"聖なる力"を使うのは必要な時だけよ。どんなに美しく微笑もうと、誰かの飢えが満たされるわけでもないもの。事業を進めて資金を増やして、領地の整備でもしていたほうが、よっぽど"救い"になるわ」


「っ、お、お前は……」


「それで? あなたの信じる"聖女の巫女"は、あなたの飢えを満たしてくれたのかしら」


 今度こそ背を向け、馬車へと向かって歩きだす。

 後方から聞こえたのは、どこか同情するようなシルクの声。


「俺の仕える"お嬢様"は領地で祈ってはくれなかったけれど、パンもジャムも、菓子だって配ってんだ。道を整え、獲物を捌くための専用の小屋だって建てちまった。村に教師を派遣して、希望者に文字を教える機会だって作ってくれている。あんたが"悪女"だと信じて襲ったのは、そういう人だ」


「あ……おれ、は」


「ついでに言えば俺は平民の出だし、お嬢様の領地民だ。俺の言葉の意味を、よく考えるんだな。"俺達"には、その重みがわかるだろ」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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