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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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悪女はお茶会で企てる

(危ないところだったわね)


 エリアーナと庭園を歩きながら、ひっそりと息をつく。

 色の変わるハーブティーについて、書物で読んだなんて嘘。

 本当は、一度目での体験を思い出しただけ。


 このエリアーナ主催のお茶会が開催された数日後、皇城での妃教育を受けた後に、アメリアとルベルト殿下と三人でお茶をする機会があった。


 やっとのことで首都へ戻り、無事お妃教育に合流できた私を労うものだと、アメリアは言っていたけれど。

 出遅れた二ヵ月間のうちに、アメリアとルベルト殿下が以前よりも距離を縮めているのを肌で感じ、胸にたまっていく薄暗い靄に耐えていた。


 殿下もお忙しい身だから、そろそろこのお茶会も終いとなるはず。

 そんな時に、あの"青いハーブティー"が出された。


 今回と同様にアメリアに蜂蜜を薦められ、ティースプーンでかき混ぜた直後。

 紫に変った水色を見て、私は即座に「毒だわ!」と叫び立ち上がった。


「殿下もアメリアもそのお茶に触れてはなりません! 皇城でいったい誰がこのような蛮行を……っ!」


「――そんな、お姉様」


 取り乱す私の金切り声とは真逆の、からりとした心外そうな声。

 途端、アメリアはほろほろと涙を流し、


「申し訳ありません、お姉様。このハーブティーをお出ししてほしいと頼んだのは、私なのです」


「! どういう、ことなの」


 アメリアは可憐な雫を零しながら肩を震わせ、先月にファリダーラ国の一行が首都に滞在していたこと、そしてこの不思議なお茶が有名で、その素晴らしさを私に見せたかったのだと語った。


「ごめんなさい、お姉様。首都の流行にお詳しいお姉様なら、ファリダーラ国の皆様が滞在なさっていたこともご存じだと思っていたのです。そして勤勉なお姉様ならば、既にファリダーラ国についてお調べになっていて、この"色の変わるハーブティー"のこともご存じなのではないかと」


 アメリアは「ただ、お姉様を喜ばせたかっただけなのです」と目尻を拭い、衝撃的な事実を告げた。

 私を驚かせるために、あらかじめ、変色を引き起こすレモンの果汁をティースプーンに塗っておくよう、頼んでいたのだと。


(だから今回のお茶会で、わざわざ"黄の色"を指定したのね)


 レモンや果実の香りに紛れて、気付かれないように。


(エリアーナは、いいように利用されたんだわ)


 あのハーブティーをエリアーナに渡したのは、アメリア。

 変色の事実は伏せたまま、終盤に出すよういいように言い包めていたのね。


 私がまんまと"毒"だと思えば、エリアーナを糾弾するはずだもの。

 怒りをぶつける姿に、ご令嬢たちは私への恐怖を覚えるでしょうし、"献身的な妹"が寸前のところで"運良く"危機を防いだという印象も植え付けられるものね。


 さらには私を慕ってくれているエリアーナとの関係も悪いものになるから、"私の味方になり得る存在"も切り捨てることが出来るし。


(本当、どこまで策士なのかしら、あなたは)


「エリアーナ様、落ち着かれましたか?」


 気遣うよう優しく訪ねた途端、エリアーナが「大変、申し訳ございませんでした!」と地に膝をつき頭を下げた。


「けして、けして故意ではないのです……! 一度ならず二度までも、とんだご迷惑をっ! いったい、どう償ったら良いものか――」


「エリアーナ様」


 私はふわりと腰を落とし、顔を覆うエリアーナの手をそっと退け微笑む。


「エリアーナ様は、私を信用してくださいますか」


「もちろんにございます! これから先なにがあろうと、私は必ず、ミーシャ様を信じお力になります……!」


 私は「ありがとうございます」と頷き、


「これから私達の間で交わされる言葉は、けして他言しないと約束してください。お尋ねしたいことがあるのです。エリアーナ様ならば、真実を口にしてくださると信じていますわ。……あのハーブティーを用意したのは、アメリアではありませんか」


「! ご存じ、だったのですか」


(やっぱりね)


 エリアーナの話では、殿下のパーティーで私が定めた通り三日の謹慎を終えた直後、アメリアが訪ねてきたという。

 "お披露目"の緊張からあらぬ疑いを持ち、騒ぎ立ててしまった非礼を詫びられ、どうか"良い友人"でいてほしいと懇願されたのだとか。


 エリアーナは当然だと承諾し、その日から、アメリアが訪ねてくる日が増え。

 そうして私が領地に滞在している旨を知り、アメリアの提案によって、このお茶会が企画されたよう。


「"黄の色"のドレスコードを決めたのも、アメリアが?」


「あ……提案したのは、私です。アメリア様が、ミーシャ様が黄の色を気にかけていらっしゃるとおっしゃっていたので、ならばドレスコードとして組み込んではどうかと」


(そうやって上手く誘導しているのね)


 アメリアがエリアーナを選んだのは、若い令嬢と交流の広い彼女が、"悪女であるべき"私に好意を抱いたからなのだろうけれども。


(正直、ありがたいわ。おかげで私の計画も、スムーズに事が進みそう)


 もしかして、問題がありましたでしょうかと怯えの目を向けるエリアーナに、私は「いいえ」と笑み、


「エリアーナ様。私達のこれまでの絆を信じ、折り入ってお願いしたいことがあるのですが」


「なんでもおっしゃってください! 必ずや、お力になってみせます」


 私は立ち上がり、エリアーナに手を差し出す。


「カスタ家は所有している鉱山から発掘される宝石のうち、一級品を有名店へ卸していると聞いております。その基準から弾かれた二級品を、私の支援する"ベルリール"へ卸させていただきたいのです」


「!」


 エリアーナの顔色がさっと青くなる。

 無理もないわ。だってカスタ家が極秘にしている資金の傾きが始まったのは、その所有する鉱山から採掘される一級品の数が減少してしまったからなのだもの。


 私は彼女の動揺に気付かないフリをして、「二つ目に」と続け、


「宝石で、ぜひとも作っていただきたい品があるのです。……この二つの"お願い"は、エリアーナ様がお決めになれない話なのは承知しております。ですので先ほどの二級品の仕入れの件と合わせて、近日中にお父様へお話できる場を設けてはいただけませんでしょうか」


 エリアーナは神妙な面持ちで「……承知しました」と頷く。


「この会が終わりましたら、すぐに父に伝えさせていただきます」


「助かりますわ。きっと、カスタ家にとっても悪くない話のはずですから」


 エリアーナの手を取り、立ち上がらせる。

 可哀想なエリアーナ。家の存続のために尽力しているだけなのに、私達のいい"駒"にされて。


 けれど、安心なさい。

 私を選んだからには、ちゃんと助けてあげる。


 エリアーナのドレスの裾をはらってあげて、私は「ああ、それから」と微笑む。


「"レモン好き"な私のために、こっそりとティースプーンにレモンを垂らしてくれた使用人がいるはずです。おそらくは、アメリアに頼まれたのでしょう。想像もしなかった事態に混乱しているでしょうから、是非とも"不幸な偶然"だったと伝えてくださいな」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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