表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/142

"可憐で聖女のような"仮面が剝がれる時

(この二ヵ月間、しっかり動いていたようね)


 談笑を交わすエリアーナをはじめとしたご令嬢たちとアメリアは、随分と親し気な雰囲気を発している。

 パーティーでの"失態"を挽回しようと、さぞ必死に取り入っていたのでしょうね。


 あの日、ご令嬢たちにとってアメリアの印象は、決して良いものではなかったはずだから。

 それをたった二ヵ月で、ここまで親しくなれるだなんて。


(正直なところ、羨ましいほどだわ)


 私は誰かと仲を深めるのが、得意ではないから。

 瞬く間に他者からの信頼と寵愛を得るアメリアを尊敬していたし、その点については、今も敵う気がしない。


『そんなことはないだろう』


「っ」


(リューネ?)


 頭に響いた声に表情は平静を装いながら、胸中で問いかける。

 アメリアの纏うガブリエラの気配が嫌だからと、リューネは姿を消している。

 今も、やっぱりどこにも姿はない。けれど。


『多くの者が、そなたと仲を深めているではないか。すっかりそなたの虜になっている兄に、腹の見えない婚約者。あの赤髪の少年と、そのドレスを仕立てた娘は瞬くほどの速さだった。置いてきた館の者も、村の人間も。まあ、どれほど増えたところで、私に敵う者はいないが』


(リューネったら)


 自分が一番だと主張する言葉が、なんだかくすぐったい。

 けれど、そうね。リューネの言う通りだわ。

 今の私は、孤独の渇きに苦しんでいた一度目とは違う。


(ありがとう、リューネ)


 こうして背を押して、前を向かせてくれる存在だっている。

 一度目の私には出来なかったことも、今の私なら。


「本当、アメリアも皆様も、とても仲が良いのですね。私は出遅れてしまったようで……」


 ご令嬢たちの視線が集まるのを感じながら、羨ましいですわ、と寂し気に目を伏せてみせる。

 と、即座にアメリアが「お姉様、いったいどうされたのですか?」と心配そうにして、


「体調が優れないのですか? 私達を"羨ましい"だなんて、お姉様らしくないではありませんか」


(かかったわね、アメリア)


 高慢で自信家。横暴さえ当然と振る舞う、厄介者な公爵令嬢。

 アメリアは私を、そんな"悪女"に仕立て上げたいのだものね。


(そうはいかないわ)


「それは大きな誤解よ、アメリア。私だって、多くのことを羨むわ。その愛らしい黄の色のドレスが似合うあなたのことも、とっても羨ましいもの。私には、着こなせないでしょうから。皆様も、それぞれにアレンジされた黄の色のドレスがとっても良くお似合いだわ」


「……あの、ミーシャ様」


 おずおずといった風にして口を開いたのは、エリアーナ。

 彼女は意を決したようにして、


「ミーシャ様がお召しになられているそちらのドレスは、どちらの店で仕立てられたものなのでしょう?」


 刹那、すかさずアメリアが、


「私も知りたいです。いったいどこの店が、そのような奇をてらったドレスをお姉様へ?」


(ふうん? やっぱりドレスで恥をかかせたいのね)


 ドレスの話題は、お茶会の花形。

 つまりはそれだけ影響力が強いということ。


(狙ってくると思ったわ。このドレスは、主流の形ではないものね)


 新しいモノの評価は、誰もが慎重になるもの。

 賞賛の集まる前に"失敗"のイメージをつけて、私を貶めようとしているのね。


「"ベルリール"という名の仕立て屋よ。少し前から、新しく付き合いを始めたの」


 と、ご令嬢のひとりが「もしかして」と手を合わせ、


「先日のパーティーでお召しになられていたドレスも、そちらの"ベルリール"でお仕立てになられたドレスではありませんか?」


「ええ、よくお気づきになられましたわね」


「刺繍の素晴らしさが、よく似ていたものですから。ですが"ベルリール"とは、初めて聞くお名前ですわ」


「無理もありませんわ。"ベルリール"はまだ若いお店ですもの」


「そんな、お姉様」


 和やかな雰囲気を打ち消すアメリアの悲壮な声に、その場の全ての視線が集中する。

 アメリアは物怖じすることなく、ますます悲し気に眉尻を下げ、


「お姉様ともあろうお人が、名も知れない店のドレスをお仕立てになるなんて……っ! 悲しいです。お姉様は、いつだって誰よりも一番に素敵なドレスをお召しになるべきなのに」


(もっともらしいことを言って、同意を得ようとしているのね)


 その手には乗らないわ。


「あら、アメリアはこのドレスが素敵だとは思ってくれないのかしら?」


「そうではありません。ですが、立場に準じた店のドレスを選ぶのもまた貴族のたしなみだと、教えてくださったのはお姉様でありませんか」


(たしかに、そんなことを言ったこような気がしないでもないわ)


「お姉様、失礼ながら、その仕立て人に騙されておいでではありませんか? ルベルト殿下のパーティーも、今回のドレスも……目新しさを特別なものとして語り、お優しいお姉様を利用して名を揚げようとしているように思えるのですが……」


 正直、驚いた。

 "可憐で聖女のような"アメリアが、他者を疑い、その本質を悪だとする言葉を発するなんて。


(それだけ追い詰められているってことかしら)


 私を貶めることに躍起になって、随分と踏み込んだようだけれど。


(その判断は悪手よ、アメリア)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ