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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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悪女の涙になんか騙されない

(さて、アメリアの反応が楽しみね)


 邸宅の執事に案内され訪れた、カスタ家の庭園。

 お茶会の会場が庭園なのは、一度目と同じ。

 違うのは、私を招待したご令嬢たちの状況と、私の身を彩るドレスに装飾品。

 そして、なによりも私自身が、一度目とはまるで違う。


「ごきげんよう、皆様」


「ミーシャ様!」


 お茶会のホストであるエリアーナがぱっと頬を上気させ、足早に駆け寄ってくる。


「お待ちしておりました、ミーシャ様! このたびには招待に応じていただきまして、ありがとうございます」


「私こそ、素敵な会にお誘いいただき、ありがとうございます」


 こちらへ、と促され向かったガーデンテーブルで、既に集まっていたご令嬢が三名、立ち上がって迎え入れてくれる。

 そしてその中には、もちろん。


「お姉様」


(座席はやっぱり、アメリアの隣なのね)


 私を迎えるアメリアは、必死に動揺を悟られまいとしているのか、どこかぎこちない笑みを浮かべている。


(ふふ、驚いてくれたようね)


 その驚きは、私が苦手なはずの黄の色を使ったドレスを着て現れたからかしら。

 それとも、私がこのお茶会の"主役"であるはずの黄の色を生地に使用していないばかりか、一風変わった使い方をしているからかしら。


「ごきげんよう、アメリア。晴天に恵まれたわね」


 アメリアが纏うのは、彼女の柔らかな雰囲気をさらに引き立てるような、パステルイエローのドレス。

 チュールに似た薄く柔らかな素材が重ねられていて、なんとも愛らしい。


 対して私のドレスは、銀の小さな刺繍が散りばめられた白地のドレス。

 ふわりと広がる生地ではなく艶やかな素材ですとんとしたシルエットを作るこのドレスには、胸元と袖、そして胴回りに"黄の色"に染められたレースがあしらわれている。


(さすが、ヘレンの力作ね)


 ドレスが白地なおかげで私も着やすいし、他のご令嬢と被ることなく黄の色を主役級にしているのだもの。


(エリアーナも、他のご令嬢も。色の濃淡や合わせる色に違いがあるとはいえ、アメリアと同じ"黄の色のドレス"だわ)


 彼女たちがいつ招待状を受け取ったのかは定かではないけれど、ドレスコードとして指定されたなら、生地が黄の色のドレスを選ぶのは自然なこと。

 だからこそ、私の用意が間に合わないだろう"黄の色"を選んで、別の色のドレスを着て来た私を糾弾するつもりだったのでしょうけれど。


(残念だったわね、アメリア)


 このドレスならば、ドレスコードを満たしているもの。

 おまけにデザインも素敵だから、糾弾どころか軽々しく触れられないわよね?


 謝罪の名目で開かれた、このお茶会。

 一度目の私は怒りに不機嫌を露わにして、エリアーナをはじめとするご令嬢たちを罵倒し、早々に引き上げた。


 けれど今回は、私が怒る理由もない。

 むしろ早速アメリアの意表を突けたようで、とっても気分がいい。


「それでは、皆様」


 私が最後の到着だったよう。

 エリアーナの宣言によって、お茶会が開始される。


「本日はドレスコードに記載させていただきました通り、初夏に鮮やかな"黄の色"をテーマとしたお茶会とさせていただきました。ぜひ楽しんでくださいませ」


(本当、テーブルセットも黄の色が美しいわね)


 用意されているスイーツにも、レモンやオレンジなどが多く使われているよう。

 色はもちろん、爽やかな甘酸っぱい香りが、庭園の緑と相まって暑さを和らげてくれる。

 ご令嬢のひとりが、「あの、ミーシャ様」と切り出した。


「この度は謝罪の場に応じてくださり、ありがとうございます」


 隣のご令嬢が言葉を引き継ぐようにして、


「領地に行かれていたのは、騒ぎを起こした罰を受けるためだと聞きましたわ。ミーシャ様には何一つ非などありませんのに、大変なご迷惑を……っ」


 涙ぐむご令嬢を労わりつつ、エリアーナが頭を下げる。


「どんな罰でも受ける所存にございます。大変、申し訳ございませんでした」


「……皆様、どうかお顔を上げてください。私は――」


「私からもお願いします、お姉様!」


「!?」


(アメリア?)


 突如として割り込んできたアメリアは、祈るようにして両手を組みながらうるうると瞳を潤ませ、


「皆様はただ純粋なお祝いの気持ちから、よかれと思ってしてくださっただけなのです。お姉様が不当な罰を受けられたのも、全部、私がおおごとにしてしまったからで……っ! どうか、どうか罰は私に。悪いのは、私ただ一人なのです」


 つう、と一筋の涙を零したアメリアに、ご令嬢たちは感動を覚え、心を掴まれているようだけれど。


(まったく、抜かりないものね)


 私は怒ってもいなければ、罰を与えるつもりもないのだと知っているくせに。

 これで何を言っても、"アメリアに懇願され怒りを沈めた"という印象を与えることになってしまった。


「……心配ないわ、アメリア。私は元より罰を与えるつもりなどないもの」


「お姉様……っ」


「皆様も、どうかもう気に病まないでくださいな。謝罪は受け入れましたから、これで終いにしましょう。それよりも、この場を通じて皆様ともっと仲を深めたいですわ。そうすれば、先日のような掛け違いは起きないはずですもの」


 精一杯言葉を尽くしてみたけれど、「ミーシャ様……っ!」と顔を明るくしたご令嬢たちの脳裏には、アメリアの"横やり"も優しさの献身として印象付いたに違いない。


 全てアメリアの望んだ通り。

 嬉し気に「よかったですね」なんて白々しく喜んでみせる横顔に、胸中で鼻を鳴らし紅茶を嚥下する。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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