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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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悪女な"妹"との再会

 腕を下したオルガは、貴族らしくすっと軽く頭を下げ、


「この度は妹をはじめ、我がロレンツ家の者たちが大変世話になった。当主不在ゆえ、代わりに感謝を申し上げる」


「私は殿下の意向に沿い、任務をこなしたにすぎません。礼は不要にございます」


「エルバード卿、どうぞ中へお入りください。おもてなしさせていただきますわ」


「いえ」


 エルバードはすっと片膝を地につき、私とオルガを見上げる。


「殿下より賜った任務は、ミーシャ様がご無事に邸宅までお戻りになるまでの護衛です。これにて任務完了とし、殿下に報告に上がる所存にございます。光栄なお申し出を断る無礼をお許しください」


 そうか、とオルガは少しだけ残念そうにして、


「領地でのミーシャの話を聞きたかったんだがな。そういう事情なら仕方がない。ルベルト殿下にも、礼を伝えておいてくれ」


「承知いたしました。それでは、私はこれで失礼致します。ミーシャ様、よく休まれてください」


「ありがとうございます。エルバード卿も、今夜はよく眠れますように」


 ぺこりと頭を下げ立ち上がったエルバード卿が、馬へと戻り乗り上げ、あっという間に去っていく。


(殿下の腹心の部下、というのなら、またすぐに会うことになりそうね)


 正式なお披露目が済んだことで、殿下とのお茶会は月に一度と頻度が上がるし、お妃教育も本格化する。


 私が謹慎の名目で領地に追いやられていた、この二ヵ月。

 前回の時はアメリアが先に始めていて、すでに新しい教師やらメイドやらをたらしこんだ後だったけれど……。


(今回のエルバードは、どうかしら)


「ミーシャ、行くか」


 再び腕を曲げたオルガに、私は「はい」と笑んで指を預ける。

 屋敷の扉へと歩を進めながら、


「お兄様。しばらくお会いしないうちに、また背が高くなられました? 以前よりもお顔が遠く感じますわ」


 違和感に訊ねると、


「あ、ああ、そうだな。日に日に丈が合わなくなるものだから、毎朝着替えが忙しない」


「お兄様がますます素敵になられるのは嬉しいことですけれど、頑張って見上げなければお顔が見えないのは少し寂しいですわ。私の背も、早く伸びればいいのに」


「そう焦らずとも、すぐのことだ。俺の妹なのだからな」


 にっと歯を見せるオルガの表情に、嘘偽りは感じない。

 本当は、少し前から気づいてはいた。

 今のオルガはアメリアとの繋がりを得るために、私に優しくしているのではない。

 純粋に、私を"妹"として大切にしてくれているのだと。


(ああ、ここにも)


 息苦しいと思っていた、ここにも。

 私の渇きを癒してくれる人がいたのだった。


「……お兄様。お茶の時にしようかとも思ったのですが、先に、言わせてください」


 歩を止めた私に合わせ、足を止めたオルガが「どうかしたのか?」と心配げに尋ねてくる。

 少し腰を曲げてかがんでくれたのは、先ほど私が"顔が遠い"と告げたからだろう。

 私はオルガの、私とは似ても似つかないエメラルドグリーンの瞳をしっかりと見つめ、


「ネルル湖のこと、ルベルト殿下に掛け合ってくださりありがとうございました。お兄様の進言を受けた殿下が皇帝陛下に働きかけてくださったからこそ、あれだけ早く、調査団が派遣されたのだと思います。おかげで村の、館の誰一人として、鉛中毒にならずにすみました」


「ミーシャ……」


 オルガは、面食らったような顔をした。

 驚きに丸まっていた瞳が、ふと、和らぐ。


「手紙でも教えてくれてはいたが、本当に良い時間を過ごしていたようだな」


 ふわりと頭上に落とされた掌が、ポンポンと軽く上下した。

 誰かに頭を撫でられたのは、初めてで。

 ポカンと静止してしまった私は、即座にはっとして、


「お兄様、特例とはいえデビュタントを済ませたレディーを子供扱いなさるのは、いかがなものかと」


(顔、赤くなっていないかしら)


 なんだか頬が一気に火照ったような気がして、顔を伏せながらオルガの腕を引く。

 オルガはそんな私の意図を汲み、再び扉へと歩を進めながら、


「子供扱いというわけではないのだがな。しいていうのならば……ああ、愛らしい妹への愛情表現というやつだ!」


「!?」


「ミーシャはしっかりしているからな。レディーとして扱うべきだというのは同意だが、兄として甘やかしてはならないということはないだろう?」


(なによ、それ……!)


 前回の私も、間違いなくオルガの妹だった。

 歴代の聖女には存在しない銀の髪も、家族の誰にも似つかない水色の瞳も。

 オルガと同じ色の瞳を持つ愛しきお母様の命を、この心臓と引き換えに奪ったという罪だって、変わってはいないというのに。


(それでもあなたは、私を"妹"としてくれるのね。"お兄様")


 目の奥がジンと熱を持ち、なんだか泣きたい衝動がせり上がってくる。

 その、時だった。


「――お姉様!」


 浮ついた心を引き戻す、小鳥のように愛らしく、私にとっては何よりも憎らしい声。

 振り返るとそこには、夏の軽やかなドレスをふわふわとなびかせ駆けて来る、偽りの"妹"。


(――そうよ)


 本当はもっと、愛しい地に留まりたかった。それでも。


(私はあなたのために、戻ってきたのよ)


「――アメリア」


(今度こそ、あなたを"悪女"として葬るためにね)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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