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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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湖の異変を解決するには

 館から近い村を通り過ぎ、しばらく歩いた先。

 狩猟が盛んに行われている森を背にして、ネルル湖が現れた。


 太陽をきらきらと反射し輝く、楕円状の水面。

 その雄大な姿に、大声で叫んだとしても対岸には聞こえないだろうなとぼんやり思う。

 覗き込めば透き通った水のおかげで、底の小石の上を小魚がすいと通り過ぎていくのが見えた。


「美しい湖ね」


(もっと早く来ておけば良かった)


 一度目の時も、五歳の時も。館に引きこもる私に、ルーンやソフィーが何度も小舟を用意しますからと勧めてくれていたけれど。

 私は頑なに拒んで、結局、一度も訪れなかった。


(勿体ないことばかりしていたのね、私)


「見た目はなにも変わってねえ。だから、変なんだ」


 シルクは眉頭に皺を寄せ、「こっちだ」と歩を進める。


「他の大人を連れてこいって言ったのに、拒んだのはそっちだかんな。か弱いおじょーさまが倒れたとしても、俺は謝らねえぞ」


「あら、それなら心配ないわ。私、か弱いお嬢様ではないもの」


「へーへー、そうですか」


 呆れたようにして歩を進めていくシルクが、「ここだ」と森の手前で歩を止める。

 それから素手でおもむろに盛り上がった土を掘ると、


「これは……っ」


 現れたのは、白い体躯をした水鳥の躯。

 それも、一羽や二羽ではない。もはやどの個体のものか判別がつかないほどに重なる、幾重ものそれ。

 思わず口元に手をあて絶句する私に、「倒れんなよ」とシルクが小馬鹿にしたように言う。


「日に日に増えてんだ」


 シルクは鋭い瞳で鳥たちを見下ろし、


「もともとこの時期は渡ってくる数が増えるから、死骸も増える。だが今回はいつもの比じゃねえ。伝染病の類でもねえし……明らかに、おかしい」


 グラッグイフ、と。

 呟いたシルクがオレンジの瞳に私を映す。


「悪女ガブリエラが使役した、死を運ぶ怪鳥だ。村の大人たちは裏で、夜の闇と朝の赤が交じり合う瞬間にグラッグイフが現れて、水鳥の命を吸っているんだって噂してる。おかげで近頃は気味悪がって、ほとんどの漁夫が漁をやめちまった。森での狩猟もしているけれど、俺達にとって魚は貴重な食糧源なのに」


 シルクは立ち上がり、私へ近づき見下ろす。


「どう思う? りょーしゅサマ。魚なんか諦めて、手に入る食糧でなんとかしろと突き放すか? それともくだらない噂にふりまわされてねーで、漁を再開しろと命じるか? どちらにしても、丘の上のお嬢様には関係のねえ話だもんな」


(私を挑発しているのね)


 ううん、もしかしたら、八つ当たりなのかもしれない。


 片や隙間ばかりの家で、必死に働いても、明日の食事すらどうなるかわからない子供。

 片や丘の上の優雅な館で、多くを与えられ、簡単に捨ててしまえる子供。


 生まれながらにして望み続けなければならない者と、生まれながらにして、選ぶことができる者。


(……なんだか似ているわね、私達)


 対象を"愛"に置き換えれば、シルクは私で、私はアメリアだ。


(リューネ)


 呼びかけにリューネがふわりと現れ、


「聞きたいことは分かっている。これはグラッグイフの仕業などではない。奴の気配はおろか、あの女の魔力も感じない」


(そう、やっぱりね)


 一度目の、お父様がネルル湖の異変に激怒していたのと同じ時期、他の水辺でも同じような事件が数か所で起きていた。

 気味悪がった貴族たちは、結託して皇帝に調査の嘆願書を提出。

 皇帝は即座に調査団を結成させ、ありとあらゆる方法で原因を調べた。


(あの時は被害のわりに、随分と大袈裟な調査をするものだと思っていたけれど……)


 皇帝が恐れたのがグラッグイフの再来だったのだとしたら、つじつまが合う。


(けれど、結局本当の原因が見つかったのよね。だからグラッグイフの噂は、首都に届く前にかき消されたのだわ)


 ――思い出すのよ。


(なんだったかしら。毒……ではない。流行り病でもなく、原因は、他の生物ではなく……)


 湖、水鳥……狩猟。


(……あ)


 思い当たった私はくるりと方向を変え、湖畔へ向かって駆けだした。


「ちょっ、いきなりなんだ!?」


「ミーシャ様!?」


 シルクとエルバードの焦った声が聞こえる。

 構う事なく湖へ辿りついた私は、迷わず水中に踏み入り、じゃぶじゃぶと目的の物を目を凝らしながら探す。


「なにをなさるのです、ミーシャ様! お戻りください!」


 即座に私に駆け寄ったエルバードが、私を抱えあげようとする。

 必死な私はその手を振り払い、


「邪魔をしないでください、エルバード卿!」


「おまっ! 頭がおかしくなったのか!?」


「残念ながら正気よ! 理由は後で説明するから、二人とも少し大人しくしてて!」


(私の記憶が正しければ、原因は……っ!)


「――あった」


 水底できらりと光った小さなそれを摘まみ上げ、私は「シルク、エルバード卿」と二人を見遣る。

 びくりと肩を揺らした二人に、私はにっこりと微笑み、


「二人とも、鳥を捌くのは得意かしら?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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