暴かれた"悪女の巫女"
彼は笑みを深め、「やはり、そうでしたか」とルベルト殿下を見遣る。
「ルベルト殿下、お伝えした通りになります」
「ああ、そのようだな」
何が何だかわからない。
同じく混乱の面持ちで言葉を発せずにいるアメリアを、殿下が見据える。
「ヴォルフ、アメリア・クランベルを捕え牢へ繋げ。"悪女の巫女"としてガブリエラの封印を解こうとした可能性が高い」
「ただちに!」
その声を合図のようにして、騎士たちに押さえつけられたアメリアがあっという間に拘束される。
「なぜですか、殿下っ!!」
叫ぶアメリアに答えたのは、ルクシオールだった。
「神殿の地下から、古い手記が見つかったのです。そこに記してありました。ガブリエラの洞窟に咲く"テネスの花"は、その悪しき魂を封じるためにネシェリ様が咲かせになられた花。白い花弁は、ネシェリ様の"代理人"にだけ淡い黄金色を帯びて見える、と」
「なっ!?」
「手記によると、"浄化"は神官にも行える場合がありますが、"テネスの花"を介した封印を行えるのはネシェリ様の"代理人"だけとされています。つまり、"聖女の巫女"様ですね。さらには"テネスの花"を摘み取ることは、ガブリエラの魂を解放する手助けをしていると同義になります」
「――っ!」
アメリアが絶句するも、ルクシオールは穏やかなまま続ける。
「内容が内容でしたので、この事実は秘密裏にルベルト殿下へ報告していました。手記も確認いただいています。まさか……このような形で、お二人の巫女様の真実が露わになるとは思いもしませんでしたが」
(――おかしいわ)
"聖女の巫女"と"悪女の巫女"を決定づけるほど重要な話なのに、一度目の時には聞いたことがない。
私が"悪女"だったから隠されていた? いいえ。
そうだったなら、断罪されたあの洞窟で、誰かがこの話を明らかにしていたはずよ。
それに、もしもこんな……花の色が変わって見えるという"からくり"があるのなら、病に伏せるだなんて面倒な芝居をうたずとも、アメリアはもっと上手く私を"悪女"として排除したはず。
(一度目では手記が発見されなかった? そもそも、二度目では"テネスの花"についてこれまで知られていなかったのは、なぜ?)
「――目の前の、これまで数多の時間を積み重ねてきた私よりも、誰が書いたかもわらない"手記"を信じるというのですか、殿下!」
ヴォルフ卿と騎士たちに無理やり歩かされるアメリアの叫びに、はっと思考を切る。
殿下は冷めた目でアメリアを見遣り、
「己が"聖女の巫女"であるという証明をしてくれたのなら、信じよう。今すぐにこの場を"浄化"してくれても構わないが」
「それは……っ、まだ、"聖女の巫女"としての能力が目覚めていないようで……」
「そうか。裁判までに発現することを祈るんだな」
「ルベルト殿下……っ!」
殿下が顔を背けたと同時に、アメリアは連行され、洞窟から連れ出されてしまう。
(……想定以上の結果ね)
ひとまずはあのネックレスを使って、アメリアを窃盗の疑いで拘束させることが目的だった。
それがまさか、"悪女の巫女"としての投獄になるなんて。
(それもこれも、ルクシオールが見つけたという"手記"のおかげね)
そして――。
「あなたが"聖女の巫女"だというのは、喜ばしくもあるが、悲しくもあるな。俺の"唯一"として独占出来なくなってしまった」
「……アメリアには能力を見せろとおっしゃったのに、私は花の色だけで信じてくださるのですか。どこからか手記の内容を得て、本物の"聖女の巫女"を排除すべく嘘をついているのかもしれませんよ」
「それはない。もしもあなたが"悪女の巫女"で、手記の内容を得ていたのなら、もっと確実な方法を考えたはずだ」
きっぱりと言い切る姿に、思わず笑みが零れる。
「殿下」
歩み寄った私はその手をそっと両手で包み、まだ口に出来ない感情も込めて、自身の頬へと寄せた。
「信じてくださって、ありがとうございます」
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