私だけの花の色
殿下はそんなアメリアから私へと視線を移すと、にこりと柔らかな笑みを浮かべた。
「やっと、あなたが唯一の"婚約者"となる日が来たようだ」
「殿下……」
「――誤解ですっ!」
叫んだのは、アメリア。
彼女は騎士たちに剣を向けられながらも必死に、
「ネシェリ様は私にもお告げを下されたのです……! この洞窟に赴き、先にこの地に訪れていたガブリエラの巫女を止めなさいと仰せでした! ご覧ください! これがお姉様がこの地に足を運んでいた証拠です……!」
アメリアが右手で掲げたのは、見覚えのある香水瓶のネックレス。
私がルクシオールに託し、裁判の前、あたかも"アメリアの物を拾ったかのように"声をかけ、渡してほしいと頼んだもの。
(やっぱり、それを使うつもりだったのね)
私は「まぁ」と驚いた風にして、
「いったいどこで失くしたのかと思ったら、あなたが持っていたのね、アメリア」
「持っていたのではありません。何か痕跡が残っていないかと調べていたら、先ほどここで拾ったのです!」
「拾った? それはおかしいわね」
「お姉様、言い逃れは見苦し――」
「アメリア、そのペンダントの蓋を外してみてくれるかしら」
小さな香水瓶の形をしている宝石のペンダントは、もちろん、蓋が開閉できるようになっている。
アメリアは警戒を露わにしていたけれど、殿下の「出来ないのか」の声に慌てて蓋を開いた。
「その蓋をヴォルフ卿に渡してくれるかしら」
私の指示に、しぶしぶアメリアが蓋を手渡す。
完全にヴォルフ卿の手中に収まったのを確認して、
「ヴォルフ卿、その蓋の裏には傷がついていませんか? それも、故意に刻まれたものが」
「おっしゃる通りです! 二本の線が交差した彫りがされています」
「やっぱり、私が"落とした"わけではなさそうですわね」
私はアメリアをしっかりを見据え、
「それは試作品であるという印なの。販売されているペンダントには、印がないのよ」
「っ、ならば余計に、このペンダントがお姉様のものであるという証拠になるのではありませんか。お姉様がこのペンダントをよく着けてらしたのは多くの方が知っていますし、"試作品"を別の方が持っているとは到底考えられません」
「いやね、アメリア。私が"試作品"を身に着けて社交の場に出ると、本気で考えているの? 私が身に着けていたのは――こっちよ」
ガウンのポケットから、ペンダントを取り出して掲げる。
アメリアの手中にあるそれとまったく同じデザインの、けれども"蓋に傷のない"ものを。
アメリアが、声なき悲鳴をあげたのがわかった。
「試作品は身に着けることなく保管していたのだけれど、気が付いたらなくなっていたの。盗みに入った者がいたとしても、こんな"試作品"だけを持って行くだなんておかしいと思っていたけれど……まさかアメリア、あなたが」
「違います! 私は……っ、ルクシオール様に……! ルクシオール様に、いただいたのです!」
(あら、もう根を上げるのね)
だとしても、選択が悪いわ。
案の定、注目を受けたルクシオールは考える素振りをして、
「確かに、アメリア嬢に香水瓶のネックレスをお渡ししたことがあります。ですがそれは神殿に落ちていたもので、直前にその場を通ったのがアメリア嬢だったことから、"落とされましたか?"と尋ねたのです。アメリア嬢は自分の物だとおっしゃり、感謝を述べてお持ちになりました。近くを掃除していた神官がその場を見ていたはずですから、証言が必要でしたら彼を連れて参ります」
「……っ!」
(さすがはルクシオール。抜け目ないわね)
まさか"目撃者"がいるとは思っていなかったようね。
アメリアが言葉に窮している間に、ヴォルフ卿が「ならば、アメリア嬢が盗んだということですか!?」と叫ぶ。
「ち、違います! けっして盗んでなどいません!」
「ならばなぜこのネックレスをお持ちなのですか! 元より盗みを働いていたか、そうでなくとも大神官様に自分の物だと偽ったではありませんか!」
「それは……っ!」
すると、ルクシオールは「アメリア嬢」と静かに告げ、
「花を手にされていますが、それはどうされたのです?」
「あ……、これは、この場でネックレスを拾った証拠として、共に持ち帰ろうと……」
「その花の色は、何色に見えますか」
「え……?」
戸惑うアメリアと同様に、私もルクシオールの質問の意図がわからずに彼の顔を見る。
ルクシオールはアメリアを見据えたまま、
「花の色をお答えいただけますか、アメリア嬢」
「……白色、です」
(――え?)
「では、ルベルト殿下。何色に見えますでしょうか」
「……白だ」
ほっとした顔をするアメリアに、密やかな焦燥が胸中に渦巻く。
ルクシオールの目が私に向いた。
「では、ミーシャ様。お答えいただけますか」
(……ルクシオールを信用して、平気なの?)
まさか、彼を信じた私の判断が間違っていたなんて――。
「ミーシャ様」
私の名を呼んだルクシオールが、目元を優しく和らげる。
その瞳はまるで、「大丈夫」だと背を押してくれているようで。
――僕を信じてください。
洞窟に入る前、ルクシオールが発した言葉が脳裏に浮かぶ。
この先いかなる不可解な事項が露呈しようと、全ては私のためなのだと。
そう告げた彼を信じた私を、信じたい。
「――淡い黄金の色ですわ、ルクシオール様」
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