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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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待ちに待った来訪

「ほい、ミーシャ。今日も受け取ってきたぞ」


「ありがとう、シルク」


 殿下がネリーシェの花を届けてくれた帰宅日から、八日。

 "毎日贈る"との言葉通り、一日も欠かさずネリーシェの花が届いている。

 そして飾る花が一本増えるごとに、他の貴族から届く贈り物も増えて続けていて。


(予想はしていたけれど……殿下はちゃんと皇帝陛下の許可をもらっているのかしら)


 以前、ネリーシェの花を贈ってもらったことで、貴族の間では私が殿下の心を射止めたとの噂が真実味を帯びて交わされていた。


 そこに裁判で、殿下が私のドレスを皇城の衣装班に仕立てさせ贈ったことが明らかになり。

 加えてこうしてまだ"被告人"の立場であるにも関わらず、ネリーシェの花を受け取り続けている事実が、次の権力者に取り入っておきたい貴族たちをたきつけているよう。


(次の計画のために、殿下が私を愛してくださっているという噂を社交界に流してほしいと言ったのは私だけれど)


 まさか、これ見よがしに騎士を使って、ネリーシェの花を毎日贈ってくれるだなんて。


「これでは殿下も、私から逃げられなくなってしまうわね」


「俺の知る限り、殿下自身に"逃げる"なんて選択肢があったこと一度もないと思うんだけど……?」


 シルクがどこか愕然としたようにして告げた、その時。


「――ミーシャ!」


 扉を吹き飛ばす勢いで開き入室してきたのは、息をきらしたオルガ。


「お兄様? どうされたのですか?」


 尋ねた私に、オルガはぜいぜいと肩を上下しながら、手元の封書を掲げる。


「決まったぞ。次の裁判は二日後だ!」


「! 随分と早いのですね」


「現状、帝国においてもっとも重要な裁判だからな。優先的に進めているのだろう」


 オルガは「それに」と、


「時間をかけたならかけただけ、真犯人に逃亡の機会を与えることになる。今回の件は、殿下も随分とご立腹だからな。不思議なことはない」


 どうやら私がのんびりと暇を享受していた間にも、殿下は精力的に動いてくれていたよう。


(アメリアのところにも、通告書が届いているはずね)


 リューネの話では、アメリアにとってガブリエラの魔力は生命力のひとつとなっている可能性が高いとのこと。

 おそらくは、ガブリエラの封印を完全に解き放つまで、この国を離れることはない。


(だからアメリアは、何としても私に勝つ方法を探すはず)


 私を"悪女"に仕立てることに成功していた一度目の時とは違い、今のアメリアはそうとう追い込まれているはず。

 それこそ次の裁判が行われては分が悪いでしょうから、きっと……そろそろ、"餌"に食いつくはずだわ。


 ――そしてとうとう、待ちに待ったその時が訪れた。


「……ミーシャ」


 すっかり夜も深まり、多くの人が眠りについているだろう時刻。

 眠る私の耳元でそっと優しく名を呼んでくれたのは、私にこの二度目の生を与えてくれた愛しい銀狼。

 まどろみの淵でゆるりと意識を浮上させる私を労わるようして、


「あの者が、来た」


「っ、ありがとう、リューネ。急がなければいけないわね」


 ずっと待ちわびていたこの好機を、逃すわけにはいかない。

 かけておいたガウンを寝着の上から羽織り、急ぎヒールの低い靴を履いて部屋から踏み出す。


 途端、部屋前で警備をしていたシルクが「わ!? ミーシャ!?」と小声ながら肩を跳ね上げた。

 動くのなら今晩か明日だろうと、夜警にあたらせておいて良かった。


「迎えが来たわ。行くわよ、シルク」


「! わかった、急ごう」


 事前に計画を話していたおかげで、シルクの理解も早い。

 瞬時に頬を引き締めたシルクは私から手紙を受け取ると、オルガの部屋まで音を立てずに駆けていった。

 扉の隙間に差し込んでくるよう、事前に伝えておいたから。


 私はその間に出来るだけ物音を立てないよう廊下を早足に進み、一階に降り立つ。

 階段の最中でシルクが合流したのは、さすがというべきかしら。


「扉、開けるぞ」


 シルクによって扉が開かれる。

 視界に飛び込んで来たのは、煌々と輝く月明りに照らされた神秘的な美しい白の衣。

 纏った彼は恭しく自身の胸元に手を添えると、多くを惑わす優美な微笑みを浮かべ、


「お約束通り、お迎えにあがりました。ミーシャ様」


「動きがあったのですね――ルクシオール様」


 彼は「ええ」と笑みを深めて首肯し、後方へと視線を遣る。


「馬車はあちらに。ルベルト殿下にもお伝えするため、早馬を遣わせました。目的地は……ご期待の場所のようです」


(ああ、ついに。ついにこの日が来たのね……!)


 期待と興奮にぞわりと背が粟立つのを秘めつつ、ルクシオールのエスコートで共に馬車に乗り、揺れるのを覚悟で先を急がせる。

 シルクは馬に乗り、私達の少し先を走っている。

 万が一、何者かの妨害があったなら、彼に任せるために。


「……間に合えばいいのだけれど」


 ボソリと零した緊張は、きっと馬車の音にかき消されるだろうと思っていた。

 けれどルクシオールはしっかりと拾っていたようで、


「ご安心ください、ミーシャ様。あちらの御者は僕の配下にある者です。出来るだけ時間をかせぐよう、指示しておきました」


「! 神殿の方を巻き込んでしまったのですか。その方が共犯だと疑われないよう、手は打ってあるのですか?」


「ご心配には及びません。その者は"神殿の者"ではありませんし、共犯を疑われる前に姿をくらませるかと」


「…………」


(神殿の者ではない、ルクシオールの配下?)

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