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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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あなたの罠は私の証拠

 そして私は、ある提案をした。

 ヘレンをはじめとする"ベルリール"のお針子を何名か秘密裏に雇い入れ、衣装班の所属として指揮をとってもらい、皇城で仕立ててもらう策。


 幸い、今や人気店である"ベルリール"では、ヘレンをはじめとする主力のお針子が表に出ることはほとんどない。

 この時期は多くの仕立て屋でお針子の動きが不規則になるし、さすがのアメリアも皇城の内部を探らせるのは難しいはず。


 殿下は『それは面白そうだ』と快諾し、即座に動いてくださった。

 ヘレンをはじめとする"ベルリール"の主力のお針子たちも、「もとより私達はミーシャ様のドレスを仕立てるつもりでしたから!」と、身体を空けておいてくれたおかげで、事はおどろくほど順調に進んだ。


 おかげでこうして、アメリアの勘違いによる醜態を引き出せたわ。


(やっと気が付いたかしら、アメリア。追い込まれたのは、自分だと)


 では、そろそろ仕上げといきましょうか。


「裁判官。私が今回の事件を企てた首謀者である証拠とされている手紙ですが、詳細な筆跡鑑定の実施を求めます。その手紙が私ではない、何者かによって書かれた可能性が高いと結論付けられる根拠があります」


 即座にエルバードが裁判官に複数の用紙を提出する。

 本当、長年殿下に付き添っているだけあって、事務的な面でも優秀だわ。


「そちらは私が以前、それぞれの宛先人に送った手紙になります。親切な友人達が快く貸してくださいました。文末のサインをご覧くださいませ」


 裁判官が確かめるようにして、順に目を通す。と、はっとしたように目を見開いた。

 それから急ぎ最初の手紙に戻り、また全てに目を通し――。


「ミーシャ嬢。あなたは手紙を送る相手によって、サインを少しずつ変えているのですね」


「なっ……!」


 衝撃に染まった表情で、アメリアが私に顔を跳ね向ける。

 私はにこりと微笑み、


「おっしゃる通りですわ。さすがに全ての相手に対して一つとはいきませんが、重要な相手には極力個別のサインを使うようにしておりますの。私の文字を真似、私の名を騙る不届き者が現れた時に、そのサインの入手先を特定できるように」


「…………っ!」


「なるほど。しかし提出された手紙のどれにも、今回の証拠品である手紙のサインと同じものはないように見受けられます。ミーシャ嬢は、どの相手に使用していたサインが証拠品のサインと酷似しているか、発言できますか?」


「もちろんですわ。証拠品の手紙に使用されたサインは、アメリア・クランベル伯爵令嬢に使用していたものです」


 その日一番のどよめきが室内にこだまする。

「静粛に!」と繰り返す裁判官の声が通るようになってから、私は真っ青なアメリアににこりと笑みを向ける。


「もちろん、手紙の提出に協力してくれるわよね? アメリア。まさか……これまで私が送った手紙一つすら残っていないだなんて薄情なことを言わないでしょう?」


「そ、れは……」


 ない、と言えばやましい背景があると自白しているも同然。

 かといってあると言えば、そう経たずのうちに同じサインである事実が露呈してしまう

 つまり、逃れる術はないということ。


(さあ、どうするのアメリア?)


 と、煮え切らないアメリアに痺れを切らしたのか、神官の男が「それはあまりに安直な考えだ!」と叫ぶ。


「仮にサインが同じだったとて、アメリア様の屋敷に勤める使用人が盗みを働いた可能性もあるだろう!」


「まあ、それならば尚更、急ぎで調査をしてもらわなければなりませんわね。手紙を盗み、こんな恐ろしい計画をたてる者が同じ屋敷にいるだなんて、アメリアも気が休まらないでしょう?」


(安直な男を選んだあなたのミスね、アメリア)


 まさか自分を擁護するために用意した者が、状況を悪くするだなんて考えもしなかったでしょう?

 それとも、"この程度の"者で妥協せねばならないほど、今のあなたは"魅了"がうまく使えていないのかしら。


「ミーシャ・ロレンツ公爵令嬢の要求を認めます」


 アメリアが発するよりも早く、裁判官が決断を下す。


「証拠に疑惑ありとして、手紙の筆跡鑑定の実施を執り行います。アメリア・クランベル伯爵令嬢は、早急にミーシャ・ロレンツ公爵令嬢からの手紙を提出するように」


「……承知いたしました」


 なんとか絞り出したような声でアメリアが応えた、その時。

 ルベルト殿下が「裁判官」と挙手し、


「"万が一"に備え、これよりクランベル伯爵家に帝国騎士団の派遣を許可いただきたい。手紙を破棄される可能性はもちろん、提出前にサインに手を加えられては公平な判断が難しくなる」


「おっしゃる通りですね。許可します」


 裁判官が頷くや否や、殿下が「ヴォルフ」と発した。

 途端、傍聴席の後方から「は!」と声が聞こえ、


「これよりクランベル伯爵家に騎士の派遣を行います! 護衛を兼ね、アメリア嬢にも騎士を伴ってのご帰宅を願います」


「そういうことだ、アメリア嬢。騎士と共に帰宅し、早急にミーシャ嬢からの手紙をヴォルフに手渡してくれ」


「……はい」


(これで完全に逃げ道はなくなったわね、アメリア)

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