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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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秘められていたドレス

 つまり、肯定。

 衝撃を受けたような顔で言葉を失った男は、「だ、だがっ!」と絞り出すようにして、


「いくら金があろうと、神聖なる"審判の日"の決定は変えられない……! やはり今のうちに妬ましいアメリア嬢を排除しようと、実行したのだな!」


「先ほどから"脅威"だの"妬ましい"だの……随分と誤解をされているようですが、こんな愚策に身を投じるほど私がアメリアの何を妬んでいると?」


「それは……っ! アメリア嬢は誰でも親しみやすい優しさをお持ちな上に、ネシェリ様と同じ金の髪をされている! 損得を重要視した思考しか持てず、歴代の"聖女の巫女"には存在しない銀の髪である公爵令嬢にとって、アメリア嬢は羨望の塊に違いな――」


「私、この髪も瞳の色も、とても好いておりますわ」


「……なに?」


「過去の"聖女の巫女"には存在しない、私だけの色ですもの。それに、私の大切な人達は皆、この色を美しいと褒めてくださいますし。損得については否定はしませんけれど、だからといってアメリアを羨む理由にはなり得ませんわ。むしろ……聖女祭の二日目になんとしても事を起こしたかったのは、私ではなく彼女ではありませんか?」


 ピクリと肩を揺らしたアメリアに気づかないまま、男は「そんなわけ」と鼻を鳴らす。

 私は好機だとばかりに言葉を続け、


「聖女祭の三日目には、皇城で舞踏会が執り行われますのはご存じですわよね? 私、殿下にエスコートいただく約束でしたのよ? 殿下の、"たった一人の"パートナーとして」


「……っ!」


 悔し気に歯噛みをするアメリアの隣で、男が「でたらめだ!」と声を荒げる。


「皇太子殿下は"聖女の巫女"候補それぞれをエスコートする習わしとなっている! ……そうか、そうして殿下がアメリア嬢をエスコート出来ないよう、今回の事件を首謀して……!」


「堂々巡りですわね。裁判官、ルベルト殿下の見解をお聞きしたく、発言を求めますわ」


 裁判官が「許可します」と告げるや否や、ルベルト殿下は心底不快そうにして、


「ミーシャ嬢の発言した通りだ。舞踏会にはミーシャ嬢だけを伴う予定で、アメリア嬢にも事前にエスコートを断る手紙を出している」


「なっ!? 事実なのですかアメリア嬢!」


 男に詰め寄られ、アメリアは弱々しくも「事実です」と首肯した。

 けれども即座に「ですが」と顔を上げ、


「ダンスについては言及されていません。ですので舞踏会ではダンスのお申込みをさせていただこうと、随分と前からとっておきのドレスを制作していました。想いと時間を費やして仕上がったドレスですのに、自ら着る機会を壊すなんて、私には出来ません。……むしろ、お姉様は」


 アメリアはわざとらしく戸惑うように視線を下げてから、


「殿下にエスコートいただくお約束だったとおっしゃいましたが、お姉様がドレスの注文なさらなかったと方々で囁かれています。心配になって調べてみれば、ご贔屓の"ベルリール"にも最低限の訪問しかされていないようでしたし……」


 もしかして、と。

 アメリアはそのピンクの瞳に、私を追い詰めた愉悦を見え隠れさせ、


「聖女祭三日目の舞踏会は中止になると、ご存じだったのではありませんか?」


 ――本当、どうしてこんなにも浅慮な相手を恐れていたのかしら。

 うまく育てば優秀な"武器"になるかもしれないと蒔いていた種が、奇跡のようなタイミングで芽吹いてくれるなんて。


 ぞわりと背を駆けあがったのは幸運な己への歓喜。

 笑い出したくなる衝動をぐっとこらえ、


「確かに"私は"ドレスを注文していないわ。ルベルト殿下に、揃いのデザインで仕立てたドレスを贈っていただいたの」


 途端、アメリアは「そんなはず……!」と取り乱し、


「皇室御用達の仕立て屋はもちろん、"ベルリール"にも殿下がドレスを依頼をした形跡なんて……っ!」


(やっぱり探っていたのね)


「殿下は外部の仕立て屋に依頼したのではないもの。今回の仕立ては、皇家の衣装班よ」


「皇家の……!?」


 絶句するアメリアと同様に、傍聴席にも大きな衝撃が駆け抜けているよう。

 無理もないわ。だって皇家の衣装班の主な仕事は、皇族の衣装の管理だもの。


 市場を活性化させる目的で、皇家の服は外部の仕立て屋に注文するのが習わし。

 時にはすでに仕立てられているものを購入することもあるけれど、衣装班が服を作ることはないものね。


(それでも傷んだ衣装の修繕や、サイズの変更、簡単なアレンジなどは彼らの仕事だから、針仕事に長けた者を選んでいるのよね)


 私はそこに目を付けた。


『殿下、ドレスを贈ってくださるのでしたら、お願いしたいことがございます。殿下が私のドレスを仕立ててくださっていると、誰にも知られないようにしたいのです』


 そう告げた私に、殿下は少し考えてから、


『期間も短いことだし、今回もヘレン・ケラティ嬢に頼む予定で下準備はしていたのだが……"ベルリール"の従業員に箝口令をしくか。だがそれだけでは不十分だな。出入り業者の制限も……いや、下手に常と違う動きをさせれば、簡単に感付かれてしまうか』


『皇家の衣装班の方にお願いしてはどうでしょうか? それならば内部で事が済みますし、人や物の出入りが増えても聖女祭の前だからと理由付けられますわ』

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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