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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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その神官が信仰を捧げるのは

(姿が見えないと思ったら……そういうこと)


 涙を流しながらおぼつかない足取りで進んでくる姿は、なんとも可憐で憐れな印象をうえつける。


(相も変わらず小細工に余念がないのね)


 どうやら共に入室してきた中年の神官が、アメリアの弁護を担うよう。

 名前は分からずとも、見覚えがあるわ。彼は随分と前から、アメリアが"聖女の巫女"だと信じ信仰を捧げているようだったから。


(ルクシオールから聞いてはいたけれど、今回の裁判で手強いのはアメリアよりも彼かもしれないわね)


 殿下の協力で面会が叶ったルクシオールは、アメリアの弁護に神官がつくことを、教えてくれた。

 そしてそれが、どんな意味を持つのかも。


「ミーシャ様もご存知でしょうが、神官は"審判の日"まで二人の巫女候補に対し中立を保たなければなりません。アメリア嬢の弁護を務めるとなると、規定に背くと同義になります。規律を破った者には罰を与えなくてはなりません。もちろん、彼も承知の上です」


 彼と誓約を交わしました、と。

 ルクシオールは落ち着いた口調とは裏腹に、瞳に冷徹な光を宿す。


「アメリア嬢が勝訴し、ミーシャ様が有罪になった場合には、彼の等級を上げ今後もアメリア嬢への協力を認めます。反対に、ミーシャ様が無実となれば、彼には神官を辞し神殿を去ってもらいます」


(つまり、あの彼は自身の信仰を賭けてアメリアを弁護しているということ)


 神官として勤めていた身だもの。その覚悟は、私の想像をはるかに超えているのでしょうね。

 信仰とは、一種の盲目的な信念。

 献身的であればあるほど鋭利な刃と化すそれは、うまく"使われて"しまうと己を傷つける。


(彼の深い信仰がアメリアに向いてしまったのが、運の尽きね)


 憐れには思うけれど、手加減などするつもりはない。

 裁判官に促され、神官の男が意気揚々と私の罪状を並べたてる。


 私を首謀者だとする根拠として挙げられたのが、捕らえた男達が皆揃って"ミーシャ・ロレンツ"の指示だと繰り返していること。

 死亡した男が持っていた手紙に、私のサインが入っていたこと。そして。


「アメリア嬢はロレンツ公爵令嬢にとって、脅威となる存在であります。"審判の日"にて自身が確実に"聖女の巫女"となれるよう、このような策を講じたのでしょう。よって、こたびのアメリア・クランベル嬢の誘拐と監禁、および殺人計画の首謀者は、ミーシャ・ロレンツ公爵令嬢に違いないものと主張します!」


 強く言い切った男に、ちらりと見遣ったアメリアは随分と満足そう。


(……本当、笑っちゃうわ)


 この程度の"弁護"で私を窮地に追い込めると思っているだなんて、随分と見くびられたものね。


「それでは、ミーシャ・ロレンツ公爵令嬢。弁論を許可する」


 裁判官に一礼して、私は背筋を伸ばし顎先を上げた。


「全て身に覚えのない追及であり、無実を主張します。同時に、私もまた罪を被せられた被害者であると申し立てます」


 傍聴席が、ざわりと大きくどよめいた。


「静粛に! ミーシャ・ロレンツ公爵令嬢、無実の罪を着せられたと示すものはありますか」


「そうですわね。まず、捕縛された者たちの尋問調書をご覧くださいませ」


 エルバードへ視線を遣ると、彼は頷き用紙の束を裁判官に手渡す。

 私は裁判官が内容へ目を走らせたのを確認し、


「記録にあります通り、彼らはいずれも私から今回の依頼を受けたと言い、揃いの服まで着用しているにもかかわらず、"いつ、どのような手段で、何度接触したのか"についてすら、曖昧な供述をしております。依頼時の私の服装はどうだったか、お付きの者はいたのか、一人だったのか。そんな簡単な質問にさえ明確な回答が出来ておりません。あまりに不自然ではありませんでしょうか」


「確かに……返答が出来ている者ですら、一貫性がないようですね……」


「加えて不自然な点がもう一点ございます。仮に秘密裏に処理したい案件があったとして、"ロレンツ公爵令嬢"である私が、"彼らのような"者に依頼をするなどあまりに不用心ですわ。彼らの身元を調査したところ、彼らは貴族からこのような依頼を受けるのは初めてのようです。知識も経験もない"素人"を複数人雇い入れ、それぞれに指示を出して計画を実行するなど、まるで失敗を待ち望んでいたようではありませんか」


 裁判官は難しい顔をしながら用紙を捲り、


「……否認の根拠として受け入れます」


 告げた途端、「金が惜しいからだろう!」とアメリアを弁護する神官の男が叫ぶ。


「手慣れた者を雇うとなれば膨大な金がかかる! それを何人も用意すれば、いくら公爵令嬢とはいえ金の工面が難しいはずだ! おまけにロレンツ公爵令嬢は当主と不仲だともっぱらの噂! 多額の資金が用意できないことを理由に、安価で利用できる彼らを選んだに違いない!」


 興奮に肩を上下させる男に、私はあえて大きなため息をついてみせる。


「神官は世俗に疎い者が多いとは聞き及んでいましたが、想像以上のようですわね」


「なにを……っ」


「私と"当主様"の云々はともかく、私、ずいぶんと前からいくつかの事業に携わっておりますの。それによって築いた財の大半は、私個人の財として管理をしておりますから……つまるところ、お金はあり余っておりますの。この事実は、傍聴席に座る多くの方が以前より承知していますわ」


「な……っ!?」


 明らかな焦りをうかべて傍聴席を見渡した男は、縋るようにしてアメリアを見遣った。

 と、アメリアは男から視線を逸らすも、小さく頷く。

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