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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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愛には愛を、罠には罠を

 考え込む殿下に、私は「それと」と続け、


「私を荷車で運び、あの家に招いたのは捕縛された者たちとは別の男ですわ。体格が良く、事の全貌を把握している口振りをしておりました。見張りの男も、その男が逃げるのを承知していたようで……。捕縛された者たちは、"捨て駒"ではないかと。そして彼ら自身も、承知していたように思えます」


 仮に彼らが"騙されて"いたとしても、"聖女の巫女"候補を攫い捕縛された者がどうなるのか、分からないはずがない。

 それでも彼らは、役割を全うした。

 私を貶めるために、その命を賭けた。


(今のアメリアの"魅了"が、そこまでの力を持っていると?)


 彼女の"魅了"に深く惑わされた者は、正常な判断を奪われ、あらゆる恐怖を感じなくなるのかしら。

 例えば……彼女のためにと禁足地に踏み入れ、断罪された一度目の私のように。


「……まさか、そこまで計算されていたというのか」


 ぼそりとした呟きに疑問の視線を向けると、殿下は苦々しく眉根を寄せ、


「裁判は明日だ」


「……恐れながら殿下、いま、なんと?」


「あなたの裁判は、明日に行われる」


 正気なの、と声に出さなかった己を褒めるべきね。

 唖然とする私に、殿下はバツが悪そうに額に手を遣り、


「アメリア嬢を支持する貴族達が、裁判を急ぐべきだとうるさくてな。これでも引き延ばしたのだが……相変わらずあなたの指示だと繰り返すばかりで、有力な自白はない。故に、奴らの"自白"が虚言であると証明する方向で動いていたのだが、明日もその戦略で攻めるべきだろう」


 殿下は「心配ない」と瞳を緩め、握っていた私の手を両手で包む。


「オルガはもちろん、ハリエット伯爵夫人やカスタ嬢をはじめとする様々な家門が動いてくれている。あなたへ恩義を感じている民も協力的で、捕縛した奴らの情報も驚くほど多く集まった。……すべて、ミーシャ嬢がこれまで尽力してきた結果だ。長年の積み重ねを、稚拙な偽りで崩せるはずもない」


「殿下……」


「あなたは、堂々としていればいい」


(……私の為に、寝る間も惜しんで動いてくれていたのね)


 見上げた彼の目元には、うっすらと不眠の跡。

 動けない私の代わりにと、殿下はあらゆる手を使って潔白の証拠を集めてくれていたのね。

 甘く締め付ける胸中に従うまま、そっと空いた片手を殿下の目元に伸ばした。

 指先が触れるか触れないかの直前、微かに揺れた肌に殿下の動揺を悟り、私もはっと我に返る。


「っ、申し訳ありません。私ったら、とんだ無礼を――」


「触れてはくれないのか」


「!?」


「あなたになら、どこに触れられても大歓迎だ」


 にっと悪戯に細まった瞳が、閉じられる。


「労わってくれ」


「な……っ」


 かあ、と頬に上がった熱は、きっと羞恥から。


(こんな無防備な姿をさらすなんて、さすがに信用しすぎではないかしら)


 けれど、そんな殿下に嬉しさを感じてしまうのも、否定できないわ。

 だって私は、この彼に絆されてしまったのだから。


「では――好きにさせていただきますわ」


 今度ははっきりとした自身の意志で、殿下の頬に己の片手を添える。


「……ありがとうございます、殿下」


 囁くような謝礼に、殿下がすうと瞼を上げた。

 迷いなくまっすぐに私を見つめる瞳が心地いい。


「殿下の深い親愛に、必ずや応えてみせますわ」


「……やはり、あなたはそうでなくては」


 ご機嫌に口角を吊り上げた殿下は、頬に添えた私の掌に己のそれを重ね、ちゅ、と小さく口づけた。


「期待している。俺の愛に、あなたが応えてくれるのを」


「では、もう少し甘えさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「っ」


 信じられないものでも見たように顔を跳ね上げた殿下は、にっこりと笑んだ私をまじまじと見つめ、大きく頷いた。


「なんでも叶えよう。何をしてほしい? 花でも運ばせるか。とっておきのお茶とスイーツを用意させてもいい。あなたが望むのなら、夜に再び訪ねてきても――」


「ルクシオール様を、呼んでくださいませ」


「…………大神官殿を、か」


 途端に真顔になってしまった殿下に小さく噴き出しつつも、私は「ええ」と首肯する。


「罠にかけられたままでは、癪ですもの。罠には罠で、お返ししなくては」



***



 ここルディス帝国にて、裁判の行く末を定める重要人物は三人。

 ひとりは判決を担う裁判官。続いて、神殿の選出した上位神官。

 最後に最も高貴なる、皇族の代表者。


 想定通り、今回の私の裁判には、大神官であるルクシオールとルベルト殿下が座している。

 おかげで随分と気が楽だわ。

 傍聴席には隙間が見えないほどに人が押し寄せているけれど、雑多の中にカトリーヌやエリアーナの姿も見つけたし。


(信頼できる人がいると、心強いものね)


「手元、痛くはありませんか、ミーシャ様」


 護衛件、弁護役として隣に立つエルバードが、心配気に眉尻を下げて私の手元を見つめる。

 "被告人"という立場上、縄で繋がれているけれど、随分と緩く結んでもらえたおかげでちっとも痛くはない。

 私は「平気ですわ」とくすりと笑んで、


「エルバード卿も、私のためにと尽力してくださっていたと聞きました。ありがとうございます」


「いえ、結局奴らの口を割れず、申し訳ありません」


「問題ありませんわ。集めてくださった情報は、どれも貴重な内容でしたもの。有効活用させていただきます」


「――静粛に!」


 裁判官の声が轟き、裁判の開始が宣言される。

 裁判中は縄の拘束を解くのが習わし。エルバードによって丁寧に解かれると、ザックに支えられながらアメリアが現れた。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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