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避けられない殿下とのダンス

(私ね、銀の色が大嫌いだったの)


 オルガと同じ茶色の髪を持つお父様。

 その彼が愛し、私を産んだことで命を失ってしまったお母様は、華やかな薄紅色の髪をしていた。


 両親のどちらにも似なかった、銀の髪。

 この髪のせいで、お母様の不貞が噂された。


 愛する女性の命を奪ったばかりか、その死後にもなお、名誉を傷つける"私"という存在。

 せめて歴代の聖女に同じ銀の髪を持つ女性がいたのなら、お父様も少しは、許してくれたのかもしれないけれど。


 銀髪の聖女はいない。お父様は、銀の色を持つ私をこの世の誰よりも憎んだ。

 私にとって、銀は罪の色。だけど。


(私を引き戻して復讐の機会をくれたリューネは、私の髪と同じ色でしょう? 今の私にとって銀の色は、他の何にも代えがたい、大切な色だわ)


 音楽は終盤に差し掛かっていて、ルベルト殿下とアメリアが最後のターンを決める。

 見惚れる周囲の視線に、嫉妬心など微塵も湧かない。

 なぜなら私の隣には、最高のパートナーがいるから。


 ダンスが終わる。

 一斉に沸き立つ会場。皇帝陛下と皇后陛下も、惜しみない拍手を送っている。


(リューネのおかげで、楽しい時間だったわ)


 私もまた、曇りない笑顔で賞賛の拍手を送りながら、隣のパートナーへ感謝を述べる。

 耳を立て「当然だろう」と胸を張る姿に、そのもふりとした頭を撫でたい衝動にかられるけれど。


(――行ってくるわね)


 向けた視線が、ルビーレッドの双眸と交わる。

 脳裏にこびりついた、私を貫いたあの冷酷な瞳が重なった。


 私はひっそりと喉を上下させつつも、歩を進める。

 アメリアは他の男性と周囲で踊るのではなく、一度輪から離れ、観覧を決めこむよう。

 疲労に赤らんだ頬で、健気に肩を上下させている。


 ダンスフロアの中央に近づく私に、一曲踊ったとは思えないほど涼しい顔をしたルベルト殿下の右手が差し出された。


「手を」


(本当、無愛想な男)


 でも、そんなところも好きだった。

 言葉数が少なくとも、その目と見つめ合い、触れ合えれば。

 いつか心が通じて、誰よりも幸福になれるのだと信じていた。


(愚かなことね)


 その手を振り払ってやりたい衝動をぐっと耐え、私は「よろしくお願いいたします」と優美に笑んで手を預ける。

 途端、少々強い力で腕が引かれ、腰に手を回された。


「!」


(私相手なら、雑に扱ってもいいってことかしら)


 嫌うのは構わないけれど、こうして公の場でぞんざいに扱われるのは気に入らない。

 怒り半分、呆れ半分で見上げると、意外にも強い瞳とかち合った。


(殿下……?)


 嫌悪の感情ではない。

 まるで、私という存在を隅々まで把握して、見極めようとしているかのような。


(知らない目だわ)


 私の知る彼の目は、興味の持てない相手に向けるそれか、嫌悪。

 そして、私の胸に剣を突き立てた、冷酷な色。


 戸惑いながらもホールドの体制をとったと同時に、音楽が変わった。

 周囲には、私達と近い年頃の子息令嬢のペアが円を描くようにして並び、踊り出す。


(とにかく、集中しなきゃ)


 ダンスには自信がある。

 ルベルト殿下に相応しい婚約者となるために、前回の私が必死に練習していたから。


(けれど、このダンスは殿下のためではないわ)


 もちろん、彼の気を引くためでもない。

 公爵令嬢として、そして真の聖女として披露する、私のためのダンス。

 そう思うと、億劫だったダンスも足が軽くなる。


「……今日は随分と様子が変だな」


「え?」


(殿下が話しかけてきた?)


 聞き間違いではない。

 なぜなら殿下の目は、私の返答を待つようにしてこちらを見下ろしているから。


(ダンスの時に話しかけてきたことなんて、一度もなかったのに)


 私から話題を振ることはあったけれど、「ああ」とか「そうだな」とか生返事ばかりだった。


(いったいどんな風の吹き回し?)


「……緊張しているだけですわ」


「緊張で、ドレスは変わらないだろう」


「へ?」


 ルベルト殿下はくるりと回した私を再び受け止めて、


「ドレスはおろか、装飾品にさえ俺の色がひとつもない」


「は……」


(まさか、これまでのドレスを覚えているというの?)


 ルベルト殿下とは五つの歳を越えた頃から、数か月に一度、お茶を供にしていたけれど。

 どれだけ私が気合いを入れて身支度しても、「本日も華やかだな」と、毎度同じ言葉だけ。

 とても私の姿に興味があったとは思えない。


(そもそも、絶対に殿下の色を入れなければならないという規則があるわけでもないし)


 なので私の好きなようにして構わないはずだ、と告げようとすると、


「控室に来た時も、俺に気が付いていなかった。いつものあなたなら、真っ先に俺を探しただろう。それに、その目」


 ルベルト殿下はすうっと双眸を細め、


「これまでとはまるで違う。俺を好いてはいない目だ」


「!?」


(殿下、私の気持ちを知っていたの――っ!?)

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― 新着の感想 ―
まさかお互いが好きになるパターンなのか…… だとしたら最初にヘイトを貯めたのは悪手だが
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