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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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美しい異国の衣装

 窓越しに見えた独特な服に尋ねれば、アメリアは「その通りです」と笑んで店の扉を開く。


「近頃こうした異国の衣装が、ご令嬢の間で人気なのだと聞きました。普段は部屋の中か、同じ趣味を持つ方を招待したお茶会で楽しむそうなのですが、聖女祭には着用して街に出られる方も多いそうです。街中に、聖女祭を見物に訪れた異国の方々が増えますから」


 確かにここまでの道中にも、異国の衣装を纏った人を何度も目にした。

 まさか見物客ではなく"特殊なお洒落"だったなんて、思いもしなかったわ。


(面倒だからと切り捨てず、ご令嬢方とのお茶会にも積極的に参加すべきね)


「ようこそお越しくださいました、お嬢様方!」


 弾む声と共に奥から現れたのは、恰幅のいい中年男性。

 彼もまた、異国の衣装を身に着けていて、どうやらここの店主のよう。


「当店では珍しい他国の服をお手頃なお値段でご用意しております。どうぞ、ごゆっくりとご覧になられてください」


 手もみしながら告げる彼に、アメリアがすっと前に踏み出し、


「本当に美しいお洋服が沢山で、目移りしてしまいます。こうした服ははじめてで、どのようなデザインが似合うのかもよくわかっていないのですが……」


「ご心配には及びません! 奥に試着の場を設けておりますので、ぜひお好きなだけ試されてくださいませ」


(あのカーテンが試着の場ってことね)


 それにしても、大抵の衣裳店ならば女性の従業員がいて、試着を手伝ってくれるものだけれど。


「試着を手伝ってくれる女性の方はいらっしゃらないのかしら?」


「ああー、たいっへんに申し訳ございません。当店は私がなんとか切り盛りしているものでして……」


(予想通りの返答ね)


 こんなことなら、ソフィーを帰すんじゃなかったわ。


「アメリア、着替えるのなら私が手伝うわ。一人ではそのドレスを脱ぐことも難しいでしょう?」


(いくら憎い相手とはいえ、現段階で男性に着替えを手伝ってもらいなさいなんて言えないもの)


「よ、よろしいのですか、お姉様……! なら、私にもお手伝いさせてください。せっかくの機会ですから、お姉様も一緒にこのお店の服に着替えてみませんか?」


「そうねえ……」


 確かになかなかない機会だし、私も試してみようかしら。

 ご令嬢方の流行を知っておいたほうが、何かと便利だしね。


「せっかくだから、私も選んでみるわ」


「! お姉様なら、きっとどれもよくお似合いになられます」


(随分と嬉しそうね)


 私がこの店の服を着ることで、また何か企てているのかしら。


(街でも気を抜かないほうがよさそうね)


 私はシルクを、アメリアはザック卿を引き連れて、店内に並ぶ衣装から気に入ったものを選んでいく。

 けして質が良い、とはいえないものばかりだけれど、品揃えは悪くないものだから、つい楽しんでしまった。


 結果的に選んだのは、東の国のものだという、胸下に布を巻き付けて留める仕様の服。

 ドレスのように身体のラインを強調することはなく、ゆったりとした垂直の裁断が独特で、さらにはたっぷりとした垂れ下がる袖が目新しい。


 そして何より、私の興味をひいたのはその全体に入れられた刺繍の柄と鮮やかさ。

 赤や紫、金など多彩な糸で数種の花が散りばめられたデザインは、この国では考えられないほど奇抜で大胆なもの。


(香水瓶のペンダントも軌道に乗っているし、今度は異国のデザインを取り入れたドレスを作ってみようかしら)


 ヘレンも常に新しい挑戦を続けているし、この服を持って行ったらいい話し合いが出来そうだわ。


「アメリアも決まった?」


「はい! 私はこちらのドレスにします」


 アメリアが選んだのは、さらりとした軽やかな素材のドレス。

 鮮やかな赤の色で染められたそれは裾や縁を中心に黄金の刺繍がたっぷりと使われていて、最後にぐるりと大判の布を巻き付けて、袖の短い片側の肩から垂らすデザインのよう。


「では、お嬢様方のお着替えの間、我々は外で待っております」


 そう告げたのはにこにことした店主で、"我々"と示されたのはシルクとザック卿。

「え!? 俺らも!?」と声を上げたシルクだけではなく、ザック卿も戸惑いを露わにしている。

 すると、店主は「もちろんでございましょう!」と胸を張り、


「いくら目隠しがあるとはいえ、お嬢様がお着替えになる部屋に男が留まるわけにはいきません! 騎士様方だって、礼節を重んじられますでしょう?」


「それは……」


 シルクとザック卿が、困ったようにして顔を見合わせる。

 店主はそんな二人に「そうです」と手を打って、


「ご心配なのでしたら、本当に他の者がいないか、店内をご確認いただいて構いません!」


(まあ、彼の主張はもっともね)


 護衛とはいえ、婚約者でもない男性のいる部屋で下着姿になったと知られては、どんな噂がたつか。


(アメリアも悩んでいるみたいだし、彼女の仕込みではないようね)


 もしもアメリアが狙って二人きりの場を作ろうとしているのなら、即座に同意したはずでしょうから。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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