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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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私の功績を返してもらうわ

(すっかり策士になったものね)


 あんな幼い子が自発的に、私の名前を呼んで"あくま"の件にまで言及できるはずがないわ。

 おおかた、シルクが彼女に声をかけた時に、うまいこと誘導したのでしょうけれど。


「大人しくしていようと思ってたのに。いったい誰に指導されたのかしら」


「幸いにも、小さい時から誰よりも優秀なお嬢様と付き合いがあるんだ。……このまま黙ってミーシャの功績をかさっらわれるなんて、俺は絶対に嫌だ」


 それこそ幼い頃から変わらない拗ねた表情に、つい苦笑が零れる。


「……それもそうね」


(せっかく機会を作ってもらったのだもの。きっちり利用させてもらうわ)


 ほどなくして、ざわざわと周囲で私を見遣っていた人々のうちから、若い男性が「あの」と意を決したようにして声をかけてきた。


「失礼ながら、ミーシャ・ロレンツ公爵令嬢でいらっしゃいますか」


「ええ、私ですわ」


 途端に歓声に似た声があちこちから上がり、わっと人が押し寄せ私を取り囲む。


「お嬢様の聡明さに救われました! ありがとうございます……!」


「私の親族があの村にいるのです! お嬢様が炊き出しをご指示くださったおかげで、飢えから逃れたと大変感謝しておりました!」


「お嬢様の献身的なお姿に、ネシェリ様から"奇跡の雪"が贈られたのだと信じています……!」


 口々に褒めたたえる人々が何を期待しているのか、今の私ならばよく分かる。

 先ほどもらった花をそっと胸元に抱き寄せ、出来るだけ清純な微笑みを浮かべてみせる。


「私は私に出来ることを成したまでですわ。ルベルト殿下や大神官様が私の言葉にも真摯に耳を傾けてくださるお優しい方々で、幸運でした」


 なんて謙虚な! と感嘆の声を上げたのは誰だったか。

 声の主もわからぬほどに集まった人々は、まるで私が"聖女"かのように、感謝の言葉を口にしては敬愛の眼差しを向けてくる。


(私も大人になったものね)


 最大の利益を得るためならば、こうした演技も出来るようになったのだもの。

 おかげで、ほら。


「そういえば、俺も銀の髪を持つ巫女様の聡明さに救われたって聞いたな」


「俺もだ。思い出したんだが、もう一人の巫女様はろくに手伝いもせず王都に帰っちまったって話じゃなかったか?」


「そうだったそうだった。となると、あっちの巫女様がそうなんじゃねえか?」


「さっきまであんなに得意気だったのに? ひえー、まんまと騙されるとこだったな」


(事をおおざっぱに急ぐから、簡単に綻ぶのよ)


 ちらりと伺ったアメリアは、先ほどまでの人だかりはどこへやら。

 護衛のザック卿だけを側に、恨みのこもった目で私をじっと見ている。


(もはや表情を取り繕う余裕すらないってこと、ね)


「皆さんとお話出来て、とても楽しい時間でしたわ。申し訳ないのですけれど、先を急がなければなりませんの」


 すると、足下にいた幼い男の子が、「ミーシャさま、もういっちゃうの?」とスカートの裾を握りしめた。

 私は「ごめんなさい」とその子の頭を撫でて、


「この祭りを楽しむためにも、あの子に新しい服が必要なの」


 私を取り囲んでいた人々が、アメリアと私を見比べて「ああ」と納得の声で囁き合う。


「白のドレスは神殿での礼拝服だったよな?」


「ミーシャ様はきちんと馴染む服を着てらっしゃるのに」


(目立つための計画が、裏目に出たようね)


 くっと吊り上げた口角に気づかれないよう、「皆様も聖女祭を楽しんでくださいね」と柔和な笑みに隠してみせる。

 動揺に顔を曇らせたアメリアへと歩を進め、


「待たせてごめんなさい。退屈だったでしょう?」


「……いえ。行きましょう、お姉様」


 悔し気にぐっと握られた拳に気づかないほど、鈍くはない。

 アメリアが私を、どう認識しているのかはしらないけれど。


(それにしても、ザック卿が即座にアメリアを慰めるだろうと思ったのに)


 彼女と過ごす時間が多いのだから、とっくに心酔していてもおかしくはないはず。

 騎士としての矜持が高いのかしら?


(アメリアに傾き過ぎていないのなら、私としても都合がいいけれど)


「……店の目星はついているの? 手軽な既製品を売っているところではないと駄目よ」


 暗に、いつもの皇家御用達の店に向かおうとしていないわよね、と含ませると、


「実は、前々から一度お姉様と行ってみたかったお店があるんです」


「私と?」


 足を止めることなく「はい!」とにこやかに首肯したアメリアは、


「ちょっと特殊なお店なのですが、お姉様もきっと気に入られるはずです」


(特殊? ……平民向けで私らしくないとか、そういった意味かしら)


 一度目では発生しなかった"お買い物"だから、アメリアの意図を予測するしかない。

 気が付けば人の行き交う大通りを外れた細道を進んでいて、聖女祭だというのに出会う人もまばらになってくる。

 後方からついてきているザック卿とシルクは気を張り、周囲を警戒しているよう。


 「あ、あの店です!」


 声を弾ませたアメリアが、小さな建物へ近寄っていく。


(ここは……)


「もしかして、異国の衣装を売っているの?」

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