白いドレスは聖女の巫女様だもの
(相手は"あの"、アメリアだもの)
「すでに掌握している神官や巫女がいれば、彼らを使って有利な状況を作るなど造作もないはずよ。……その"彼ら"の中に、ルクシオールがいるのかどうか。彼がどれだけ信用に値するのか、はっきりとさせておきたいの」
ルクシオールがこれまでどれだけ献身的に助けてくれていたか、もちろん理解している。
だからこそ、確証がほしい。
もしもこれまでの彼が全て演技で、実の所アメリアの忠実な手駒だったなら。
たとえどれだけ有利な状況だったとしても、"審判の日"にひっくり返されてしまうでしょうから。
(私を名指しできるペンダントは、大きな武器になるわ)
ルクシオールがアメリアの配下にあったのなら、即時にペンダントについて報告するはず。
そしてアメリアは新たな策をたてるでしょうね。
悪事を働いた場にわざと落として、私に罪をなすりつけるとか。
私の香りをまとって、ならず者を誘惑してみるとか。
「ルベルト殿下とシルクには、ペンダントをルクシオール様に渡すことを内密に伝えてあるわ。ルクシオールには二人きりの場で渡す予定だから、もしもアメリアの手に渡って悪事に使われたなら、それが答えになるわ」
だからルクシオールとアメリアの行動には、今日は特に気を配らなければならなかったのに。
(相変わらず、姑息な策をよく思いつくわね)
「わあ、なんて可愛い巫女様……!」
「白いドレスに金の装飾ってことは、ネシェリ様の巫女様じゃないか!」
進む道のあちこちから飛んでくる声に、立ち止まったアメリアが微笑み、両手を祈るようにして組み合わせる。
「愛する皆さまに、聖女ネシェリ様のご加護が降り注ぎますように」
「やっぱりネシェリ様の巫女様だ!」
「巫女様! こっちにもぜひ祝福の祈りを!」
瞳を輝かせ、興奮した様子の人々が、わっと一斉にアメリアを取り囲む。
まあ、そうなるでしょうね。
なぜならアメリアは"聖女の巫女"候補である証の、白のドレスに金の装飾を飾った姿をしているから。
対して私は、さしずめ彼女の"お付きの者"かしら。
だって私の今の出で立ちは、街に馴染めるような簡素なワンピース姿だから。
(これが狙いだったのね)
神殿での礼拝の後、街を散策しようと約束を取り付けてきたのは、もちろんアメリア。
「白いドレス姿のままでは目立ってしまいますし、馬車に着替えを積んでおいて、着替えてから向かいませんか? ルクシオール様には、着替えのために一室借りれるようお願いしておきます」
そう事前に聞いていた通り、着替えの部屋を用意してくれたというから、馬車で待機していたソフィーを呼び寄せて着替えたというのに。
部屋を出た私を待ち構えていたのは、白いドレス姿のままのアメリア。
彼女は私の姿を捉えると、うるうると瞳に悲哀を漂わせ、
「申し訳ありません、お姉様……! 侍女の手違いで、着替えの服を間違えて持ってきてしまいました」
――やられた。
そう過った時には、神官たちの目も向いていて。
「よりにもよって、夜会用のドレスを積んできてしまったようです。お姉様さえお許しいただけるのなら、このまま街に出て、散策に相応しい服を買いたいのですが……」
(服の一つも許せないなんて思われたくはないから、応じたけれど……)
すっかり"聖女の巫女"として振舞うアメリアの周囲には、どんどん人が集まってきている。
(いつまでこの茶番に付き合わなければいけないのかしら)
私が苛立って声を荒げようものなら、せっかく私に有利だった世論も覆ってしまう。
アメリアは、自分の存在を"聖女の巫女"として民衆に印象付けることに加え、そうした私の失敗を誘発しようとしているのかもしれない。
(今は黙って待つしかないわね)
重い息をついたその時、くんとスカートが引っ張られた。
振り返ると、好奇心に瞳を輝かせた幼い少女が私を見上げている。
いでたちから察するに、平民の子のよう。
「ミーシャおじょうさまですか?」
「……ええ、そうよ」
「やっぱり! "あくま"からたすけてくれたみこさまは、キラキラのぎんのかみのけと、きれいなおみずいろのめだって!」
興奮したような声をあげる少女が、「ミーシャおじょうさま、どうぞ!」と花を一本差し出した。
「きょうみつけた、いちばんきれいのお花です!」
自信たっぷりに差し出してくる短い腕は、微塵の迷いもない。
その可愛らしさに口元を緩めた私は、彼女と視線が合うようしゃがみこみ、
「私がもらってしまっていいのかしら」
「はい! ありがとうってきもちをいっぱいいれました!」
「だからこの花は特別に綺麗なのね。素敵な贈り物をありがとう」
そっとその花を受け取ると、少女はにっこりと満足そうに笑って手を振り、駆けていった。
立ち上がった私は微笑ましさを胸に手を振り返しながら、口元は微笑んだまま「シルク」とこそりと呼ぶ。
「あなたでしょう?」
「俺はミーシャをキラキラした目で見てたあの子に、名前を教えて花を渡してみたらどうだって提案しただけだ」
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