表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/142

秘密裏の忠誠

 私が暇を持て余すのを見越して、話を通しておいてくれたのね。


「ぜひ、ご案内いただけますか」


 にこりと微笑み、立ち上がる。

 神殿の庭園は開放日が決まっていて、いつでも入れる場所ではない。

 聖女祭の最中は閉じられていたはずだけれど。

 大神官であるルクシオールの許可さえ得れば、踏み入れることも出来るのね。


(やっぱりルクシオールが、教皇になるのかしら)


 神殿の最高権力者である教皇は、空席となっている。

 その席が埋まるのは代々、"聖女の巫女"が現れた時のみだから。

 神殿での選出と、皇室の承認。そして"聖女の巫女"の祝福を受けてはじめて、教皇となれる。


(先日の件でルベルト殿下とも友好関係を築いていたし、ルクシオールが多くの神官を派遣して村人の看病を行ったことは、国中で話題だもの)


 皇室としても、ルクシオールのように皇室に友好的な神官が教皇の座につけば、仮に国民が神殿への信仰に熱をあげたところで、危険視する手間が省けるでしょうし。

 神殿側だって、皇室に取られた"聖女の巫女"の派遣要請をしやすくなるでしょうね。


(私としても、信頼のあるルクシオールが教皇となってくれたほうが都合がいいわ)


「どうぞ、ミーシャ様」


 開かれた鉄扉から、庭園へと踏み入れる。途端、芳醇な水の香りが鼻をくすぐった。


(あまり意識したことはなかったけれど、さすがはネシェリ様を祀る神殿ね)


 庭園の半分以上が清純と生命の象徴である水で構成されていて、噴水から溢れた水が周囲の池を絶えず満たし続けている。

 花の色よりも草木の緑が多く、皇城のような華美さはないけれど、手入れが行き届いるのは明らか。

 そして、なによりも驚くべきは。


「あの木に咲く白い花々はまさか、エルダーフラワーですか?」


 噴水近くの木々に隠れるようにして植わるその木には、見慣れた小さな白い花々が控えめながらも確かに咲いている。

 だからこそ、戸惑う。

 だって、開花の時期はとっくに過ぎているはずだもの。


 現に、付近の似た木々には花のひとつも咲いていない。

 別の種類の花を咲かせている木も点在しているけれど、なぜか妙にその木に惹かれる。


 驚きの眼を向けた私に、神官は「さすがはミーシャ様。お気づきになられましたか」とどこか嬉し気に頷き、


「あの木は聖女ネシェリ様がお植えになられ、この国の安寧を祈りその聖力を込められたとされております。それゆえに、常に花を咲かせ続けているのだと。実際、私もあの木が花を一切なくした姿は見たことがありません」


「常に花を……!? 聖女ネシェリ様について、それなりに学んできたつもりでしたが、そのような特別な木があるのは初めて聞きました」


「無理もありません。この事実は神殿の従属者と、皇帝陛下に連なる血縁者にのみ開示される話ですから。庭園の開放日には、あの周囲に目隠しを立てるのです」


(神殿の従属者と、皇帝陛下に連なる血縁者にのみ伝えられるですって?)


「……そのような大事なお話を、私にしてしまって良かったのですか?」


 彼は逡巡するような苦笑を浮かべると、「どうかお気を悪くされないでください」と前置いてから、


「ルクシオール様がおっしゃったのです。ミーシャ様が自らあの花について言及された場合にのみ、このお話をして良いと」


「つまるところ……私はルクシオール様に試されたのですね」


「そう捉えられても仕方のない状況だとは承知しておりますが、ルクシオール様はミーシャ様ではなく、私をお試しになられたのだと思います」


「……? どういうことでしょう」


 戸惑う私に、彼は敬愛の滲む眼を向け、


「ミーシャ様もご存じの通り、年々"穢れ"の発生が増えており、ルクシオール様もご多忙にございます。神殿にお戻りになられない日も珍しくはありません。そうした状況を危惧してか、ルクシオール様に頼まれたのです。もしもご自身が不在の時にミーシャ様が訪ねてきたなら、必ず手をお貸しするように。そしてまた、神殿の内部で"万が一"が起きた際は、必ずミーシャ様をお守りしてほしいと」


「……"万が一"、ですか」


 聖域とされている神殿の内部は、武器の持ち込みが禁止されている。

 それは騎士も例外ではなく、剣を手放せないシルクとザック卿も神殿の扉前で待機しているほど。

 神官の彼は心苦しそうに視線を下げ、


「我々神官と神殿の巫女は、"審判の日"を迎えるまではお二人を等しく扱うことを約束しております。ですが、我々も結局は人間でございます。ルクシオール様は数多の状況を想定し、私めにご指示なされたのでしょう。……当初は戸惑いました。ルクシオール様が口にされたのは、ミーシャ様お一人の名でしたから。大神官であらせられるあのお方が、その意味を分からぬはずがありません」


 ですから、と。

 彼は視線をエルダーフラワーの花へと流し、


「そんな私の疑念に、こうしてお答えを示してくださったのでしょう。ルクシオール様のお考えがよくわかりました」


 私へと視線を戻した彼が、その胸に片手をあて両膝を地につく。敬愛と、従属の証。


「崇高なるミーシャ様に、聖女ネシェリ様の祝福が溢れんことを」


(……うまいものね。明言はしていないけれど、"聖女の巫女"としての私に忠誠を誓ったのだとよくわかるわ)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ