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【コミカライズ】悪女にされた銀の聖女は二度目で愛される  作者: 千早 朔


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全てはお姉様を破滅させるために

 思い起こされるのは、記憶の中の光景。

 "私"の中で一番古い、この世に生まれる前の、ガブリエラ様が"私"をお造りになられた時のもの。

 見るもの全てを引き込む美しい黒髪を持つ美麗な女性は、見つめるほどに濃淡を変える蠱惑的な銀の瞳で私を見下ろし、悲し気に眉を寄せる。


『酷いものなのよ、神ってのは。美しく偉大な魔女だった私に嫉妬したからって、聖女なんてのを使って私の魂を封じ込めてしまったんだもの。けれどま、所詮は人間の媒介ね。私を完全に封じるなんて無理だったのよ。少しずつ綻んで、やっとのことでこうして魔力を扱えるまでになれたわ』


 ねえ、愛しい子。

 彼女はにいと赤い唇をしならせる。


『たくさん、たくさん愛されるのよ。私の魂の欠片から造ったあなたが愛されるほどに、あなたの核である私の魂は強固になっていくの。そうすれば、既に地上を離れたあの女の封印など簡単に破れるわ。心配しないで。私の魔力もあなたに授けておくから。私の封印が解かれていくにつれ、あなたが纏う"魅了"の魔力も増えていくのよ。ね? 素敵でしょう?』


 ケラケラと愉しげに笑った彼女は、細長い指先を広げ私を包み込む。


『偉大なる魔女である私でも、人間の肉体は造れないのよ。けれど喜んで。素敵な器を見つけたから。あの女に似た金の髪に、あの女よりも愛らしいピンクアイのお嬢ちゃんよ。んーん、悲しまないで。いくらあの女と似た風貌になったからといって、あなたが私の可愛い愛し子であることに変わりはないわ。人間ってのは単純だから、これでいっそうあなたが愛されるのよ』


 彼女がふ、と両手を上げた。

 途端、私も浮遊したようで、彼女を見下ろしながら上昇していく。


『忘れないで。あなたは誰よりも愛されるべき存在よ。あなたが受けるべき愛を奪う者がいたら、その時は――』


 ――殺しておしまいなさい。


(そうよ。それしかないわ)


 握りつぶした手紙から手を退くと、カサリと音を立て膨らむ。

 差出人は待ち焦がれたルベルト殿下。けれど記されていたのは、私を見舞う言葉でも、ハンカチの礼でもない。

 形式的な挨拶すらなく、たった一言。


『聖女祭の三日目は、ロレンツ公爵令嬢を伴う』


("審判の日"まで、まだ時間があるのに)


「結果など関係なく、お姉様をお選びになるというの」


 毎年行われる聖女祭では、最終日である三日目に皇城で盛大な舞踏会が開かれる。

 聖女と悪女伝説が広く浸透したこの国において、この舞踏会は皇族の生誕を祝うパーティーと同等かそれ以上に影響力が強い。

 昨年までは私とお姉様、二人でルベルト殿下のエスコートを受けて会場入りをしていたのに。


(殿下の心さえ手に入れてしまえば、"審判の日"を迎える前にお姉様を排除出来たのに)


 愛らしい顔も、心くすぐる声も、なぜかルベルト殿下には微塵も響かない。

 ガブリエラ様に分け与えていただいた"魅了"の魔力をもってしても、お姉様が選ばれるなんて。


「……愛されるべきは、私だもの」


 殿下の関心も、人々の尊敬も、全部私が受けるべき愛。

 ふらりと歩を進めた私は、鏡台の引き出しから手鏡を取り出した。


 持ち手の部分をくるくると回し外して、中から小さな封筒を取り出す。

 もう覚えていないほど前に、窓にこっそりと届けられていたこの手紙は、ひとり健気な奮闘を続ける私の"とっておき"。


『必要な時は、この黒い羽に口づけて窓から放ってください』


 差出人を示す下部に連ねられていたのは、まるで羽を模した"G"の文字。

 同封されていたのは、おそらくは魔力を取り込み起動する術が込められているのであろう黒い羽が一枚。


 ――グラッグイフ。

 かつてガブリエラ様に仕えたという伝説の怪鳥が、人として目覚めている。


 偽物の可能性も疑って、しばらく隠し持っていた。

 けれどガブリエラ様の魔力が以前よりも強まった今なら、本当なのだとわかる。

 この羽に込められた魔力が、妙に懐かしく感じるから。


(私の魂の核はガブリエラ様のもの。魂に刻まれた記憶が、本物だと教えてくれている)


 これはきっと、ガブリエラ様のお導き。

 黒い羽を手に乗せ、そっと口づけた。

 途端、ぽうと羽が光を帯び、軽やかに浮遊すると、小さな光の鳥の姿に変わる。


「あなたの主人にちゃんと伝えてね。私も大勝負に出ないといけないから、力を貸してほしいって」


 了承を示すようにして数度羽ばたいた小鳥は、微塵の迷いもなく閉じられた窓へ向かい、衝突することなくガラスをすり抜け消えた。


(迷っている場合じゃない。強引な手を使ってでも、"正しい"状況に戻さなきゃ)


 だって本当なら、ルベルト殿下の寵愛も、民衆の敬愛も、すべて私のものだった。

 私は愛されるために生まれた、全てに愛される存在なのだから。

 だから当然、最後に勝者の笑みを浮かべるのは――。


「手助けもしてくれない"聖女"様に選ばれてしまったなんて、可哀想なお姉様」


 鼻歌交じりに憐れんで、手鏡を元に戻す。

 さあ、しっかり準備をしなくちゃ。

 お姉様から全てを奪い返し、破滅させるの!

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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