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帝国一のパートナー

「帝国の星、ルベルト皇太子殿下。ならびに聖女候補であるミーシャ・ロレンツ嬢、そして同じく聖女候補であるアメリア・クランベル嬢のご入場にございます」


 高々と宣言され、ルベルト殿下の右手側にはアメリア、左手側には私とエスコートされながら会場に踏み入れる。

 華々しい音楽と、ざわつく会場。


(懐かしい感覚ね)


 値踏みされる視線。無責任な好奇心。

 回帰前も、一度目も、何度も見た光景。


 視線はまっすぐに前だけを。微笑みを絶やさず背を伸ばし、進んだ先。

 王座に座る皇帝陛下と皇后陛下に揃って頭を下げ、私とアメリアは膝を折る。


「帝国の太陽、皇帝陛下。帝国の月、皇后陛下」


 音楽が止む。

 ルベルト殿下の若く張りのある声が、会場に響く。


「十二の歳を迎え、聖女ネシェリの洗礼を受けましたことをここにご報告いたします」


 ルベルト殿下よりも深い青の髪を揺らして、皇帝陛下が立ち上がる。


「次代の太陽を担う者として、より一層気を引締めよ。輝かしき帝国の星に、聖女ネシェリの加護があらんことを」


 わっと拍手で沸き立つ会場。次いで、音楽が再開された。

 先ほどとは異なるメロディ。ファーストダンスのそれだ。

 頭を上げた私とアメリアの中央に、ルベルト殿下の右手が差し出される。


「ダンスは、どちらが」


(一度目の私が、夢に見るほど待ち望んでいた瞬間ね)


 こんな無愛想で無頓着な誘いの、どこにときめいていたのやら。


「さあ、アメリア」


 私はにっこりと微笑んで、アメリアの背にそっと手を置く。


「いってらっしゃい。皆があなたを待っているわ」


「ありがとうございます、ミーシャお姉様」


 可憐に頬を染めたアメリアが、「よろしくお願いいたします」と殿下の手を取る。

 ルベルト殿下は私を一瞥だけして、アメリアを伴ってダンスフロアの中央に進んで行く。


(なによ、あの目。邪魔なんてしないわよ)

 

 本当なら、このまま壁の花になってしまいたいところだけれど。

 続いてはじまる二曲目を踊らなければならないので、ダンスフロアを囲う招待客の最前列で控える。


 ルベルト殿下とアメリアは互いに礼をして、身体を寄せ合い踊り出す。

 殿下を見上げ、嬉し気に綻ぶアメリアの表情は、まさしく可憐な花のよう。


「まあ、ファーストダンスはアメリア嬢でしたのね。てっきりミーシャ嬢かと」


「聖女候補となったことで伯爵位を与えられたと聞いたが、なかなかしっかり教育されているようじゃないか」


「笑顔の愛らしい少女ですわね。花のようなドレスと相まって、殿下とのダンスは春を呼ぶようですわ」


「対してミーシャ嬢は……あのドレスは一体どうしたというのだ?」


(噂話なら、聞こえないようにやってほしいものね)


 ひそひそ、というにはやや声量のある声で交わされる言葉は、私への気遣いなど微塵も感じられない。

 いえ、むしろわざと聞かせて、私の反応を伺っているのかしら。


(十の少女だからと見くびっているのでしょうけれど、その手には乗らないわ)


 さしずめ、鼻につく公爵令嬢の悔しがった顔でも見てやろうって魂胆なのでしょう?

 悪趣味な。けれどもそれが社交界であると、今の私はよく理解している。


 一度目のアメリアは、ファーストダンスを踊る私と殿下をさぞ切なげに見つめていたのでしょうね。

 身の程をわきまえファーストダンスを譲った、いじらしい少女。


 言葉無くとも態度でそう周囲に認識させ、同情を誘った。

 私も似た態度を取った方が、効率的なのかもしれないけれど。


(私はそんな無様な真似はしたくないわ)


 いくら一度目で負けたとはいえ、アメリアのやり方を、そのままなぞるつもりはない。

 私は私のやり方で勝ってみせる。


 視線はまっすぐと二人へ。

 清々しい笑顔を浮かべ、祝福を送るかのごとく穏やかさを保ちながら、噂話は好きにさせておく。


「あの男に未練はないのか」


(! リューネ)


 ふわりと現れ、隣に降り立ったその姿を追わないよう、視線は意識的に踊る二人に固定する。


(出て来て大丈夫なの?)


「神殿までとはいかないが、この城は聖女の気配が濃い。おかげであの女の嫌な魔力もかなり薄れている」


 リューネは鼻先でルベルト殿下を指すと、


「あの男を好いていただろう」


(……前の話よ)


「今は違うと?」


(目が覚めたのよ。愛してくれないばかりかすっかり騙されて剣を向けるような愚かな男に、私の愛はもったいないわ)


 リューネは「なるほど」と呟くも、消える素振りは見せない。

 不思議に思った私の心中を察したのだろう。

 リューネはくっと顎先を上げ姿勢を正すと、


「今のそなたをエスコート出来るのは、私だけだろう」


 姿勢を正したリューネが、自信たっぷりな金色の瞳を向ける。


「光栄に思うといい。今この瞬間、そなたは帝国一のパートナーを伴っている」


「…………っ」


 微笑ましさに、思わず緩んでしまった頬。

 私は急いで表情を戻し、そうねと胸中で頷く。


 心が温かい。

 偽りではないこの感覚を、大事にしたい。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
王とかにあいさつする時を太陽とか月とか言うのは中国や韓国の文化なので少し違和感を感じてしまいます。 それはそうとアメリアがギャフンとする場面までどうしていくのか楽しみです。
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