トラウマサンタ
小学3年生のやすしは近所でも評判の悪ガキだった
父親は漫才が大好きでその中でもやはり漫才ブームの当時はピカイチの人気を誇ったやすしきよし師匠の、それも天才肌のやすし師匠から名前をもらい我が子に命名した
そのせいなのかどうなのかこの小学3年生のやすしも名前負けしない自由奔放な少年に育っている
やすしの父親は細々とうるさいことは言わない典型的な昭和の高度経済成長期に生まれ育ったおおらかな人物だった
そして母親もまた細々とうるさいことを言う典型的な昭和の高度経済成長期に生まれ育った口うるさい人物だった
何故か昭和の高度経済成長期には、子供に対して母親が細々とうるさいことを言い、父親はここぞ一番という時にしか怒らなかったのであった
それが標準家庭の姿であった
さて、いくら悪ガキのやすしでもクリスマスは楽しみにしている
やはりこのあたりはまだまだ子供なのである
サンタクロースが実は誰なのかを知るかどうかの微妙な時期だった
学校でもサンタクロースはいる派といない派で別れて意味のない言い合いするお年頃である
ただ、やすしはサンタクロースはいると信じていた
父親はやすしにいい子にしていないとサンタさんは来ないかもしれないぞ!
しょっちゅう問題を起こすやすしに父親はこの機会にその権威をまざまざと見せつけて普段言わない分諭した
それでもやすしの悪ガキぶりに変化は見られなかった
クリスマスイヴがやってきた
今年のクリスマスイヴは例年になく雪が降り積もるホワイトクリスマスとなった
何年ぶりかの雪景色に心は高揚した
東北などの雪国では当たり前で迷惑かもしれない雪が所変われば人の心をロマンチックな気分にしてくれる
やすしの両親もやはり我が子は可愛いもの
ちゃんとプレゼントを用意していた
父親は何かサプライズはないか?と考えた
毎年、眠りについたやすしの枕元にそっと置くだけではなぁ・・・
父親はやすしへの自分の想いを伝える方法を考え抜いた
クリスマスイヴは家族3人でご馳走を食べる
最近では母親もこれと言って腕をふるうわけではなくオードブルやフライドチキンを買ってきて数量制限なしに食べてもいいというルールにになり、飲み物も制限なしに呑んでもいいというルールにして過ごす
両親はシャンパンをあけ、やすしはジュースを飲む
いい気分になったら
最後はクリスマスケーキで締める
夜10時になった、学校はもう冬休みなのでやすしも心から気分良く眠ることが出来る
あとは寝床でサンタクロースのプレゼントを待つだけだ
今年、やすしはサンタクロースがプレゼントを届けに来るところを見たいと思っていた
早く起きる必要もないし、がんばって起きていようとベッドの中で寝たふりをして待っていた
何時間たっただろう、物音に気づいて目が覚めた
やはり子供のやすしはいつの間にか眠ってしまっていたようだ
おや?サンタクロースが来たかも
ワクワクしながら寝たふりをしていた
枕元に何かを置く音がした
よし!サンタクロースを見てやろう!
目を開けたやすしの目の前にいたのは
出刃包丁を持ち鬼の形相で蓑を身に着けていた
そう、いわゆるナマハゲだった
「親のいうごと聞がねぇ悪い子はいねぇがぁ~」
「悪い子はいねぇがぁ~」
やすしの枕元で大きな声で叫び始めた
やすしは目が飛び出るぐらいに見開いて目の前にある恐怖を凝視していた
あまりの恐怖に叫ぶこともできなかった
「良い子にしねぇ悪い子はいねぇがぁ~」
その恐ろしい目の前のものはそう言って出刃包丁を振りかざしやすしを見ている
「ぎゃぁ~」やっと声が出た
そこで部屋の明かりが灯った
ナマハゲがやすしに「メリークリスマス」と告げた
それでも訳がわからないやすしはただただ涙を流して泣いていた
再びナマハゲが「メリークリスマス」と告げた
そしてそのまま部屋を出ていった
やすしはただべそをかいたままだった
よくよく見るとそのナマハゲはサンタクロースの着物の上から鬼の面をつけ蓑を着ていた
ナマハゲサンタだった
もちろんナマハゲサンタは誰なのかを明かすことはなくこの年のクリスマスイヴは終わった
翌日からやすしはサンタクロースのことを誰にも言わなくなった
翌年のクリスマスもその後のクリスマスもずっと・・・
彼にとってのサンタクロースはナマハゲであるという恐怖のトラウマが残ってしまい、思い出したくもない人物となったのである
父親は「やりすぎたか・・・」と後悔した
しかし、それ以来やすしの悪ガキぶりはマシになっていったことは事実だった
これはナマハゲサンタのトラウマか、単に心の成長がそうしていったのかは解らない
クリスマスイヴにサンタクロースの代理でナマハゲが暗い部屋に突然やって来た
テレビでドラマ化されないだろうか・・・