勇者の使命は魔王を倒すことだと思っていた
「……ここが魔王城か」
幾多の冒険、数多の戦いを経て、ようやく辿り着いた。
勇者は万感の思いで扉に手をかける。
ガチャリ
「わー!! お客さんなんて久しぶり」
「……おじさん誰~?」
「ね~、一緒に遊ぼう!!」
中にはちっこい女の子が三人、おままごとをして遊んでいた。
くっ……油断するな。幼子に見えてもこいつらは魔族。見た目に騙されないぞ。
とはいえ、勇者たるもの常に紳士でなければならない。間違っている可能性もあるわけだし。
「こんにちは……あの、ここは魔王城であってるのかな?」
「「「うん、そうだよ~」」」
魔王城で間違いない……と。
「「「おじさん、誰~?」」」
はっ!? しまった……紳士たるもの自己紹介を忘れるとは。
「おじさんは勇者だよ。魔王をやっつけに来たんだ」
「「「勇者~!!!」」」
目をキラキラさせる子どもたち。いやなんでその反応? 敵だよ、俺?
「それで……その、魔王はいるかな?」
「わたしがまおうなのだ~!!」
「ずるい、わたしこそしんのまおうなんだから~!!」
「……われはまおう四姉妹さいじゃく……」
……どうやら魔王は居ないようだな。
それにしてもまおう四姉妹って三人しかいないみたいだけど……?
『……背後がガラ空きだぞゆうしゃよ』
「うわああああっ!?」
び、びっくりした……存在感が薄くて気付かなかった……のか? やはり魔族、油断は出来ない。
まおう四姉妹、おそるべし。
「「「「勇者~っ、一緒に遊ぼう!!!」」」」
まおう四姉妹の圧に負けて遊ぶことになった。
ま、まあ、俺の目的は魔王だからな。
「ぐわああ……や、やられた~……がくっ」
「ゆうしゃよ、せかいをはんぶんくれてやろう」
「ははは、そんなこうげきがつうじるとオモッテイルノカ?」
「きさまとはまもるべきもの、せいぎのがいねんがちがうだけだ……」
うーむ、カオスな遊びだなこれ。
「くっ……無念だが、一度出直すしかない、さらばだ魔王」
「うきゃあ~っ!! まっているぞ、ゆうしゃよ」
最終的に勇者は負けることになっているんだな。まあ嬉しそうだから別に良いか。
「ただいま~!! おっ!! 楽しそうだな!!」
しまった……!? 魔王が帰って来たのか!! マズい……危ないから装備は全部外してある、くそっ……!!
「「「「ママ~っ、おかえりなさーい!!!」」」」
「おや? お客さんが来ていたのか……」
魔王の目がスッと細められ鋭さを増す。
ヤバい……なんとか勇者であることを誤魔化さないと……。
「「「「勇者のおじさんに遊んでもらっていたの!!!」」」
おーまいがー、いくらなんでも丸腰じゃあ戦いにすらならない。終わった……殺される。
「……そうか。コー○ーコーナーでケーキを買って来たんだが、良かったら食べませんか?」
な、なんだってっ!? あの常に半年先まで予約で一杯で、当日販売分は徹夜をしないと買えないという伝説のコー○ーコーナーのケーキ……だと?
「「「「ママ~っ、ケーキすっごくおいしいっ!!!」」」」
「うわっ!? 本当に美味しいです!! いや~、前から食べてみたかったんですよ!! 本当に美味しい!!」
「それは良かった。喜んでもらえて何よりです」
微笑ましそうにケーキを食べる俺たちを見守る魔王さん。
「あの……魔王さんはケーキ食べないんですか?」
「……あ、ああ、実は5個しか買ってなくて……」
悲しそうに目をふせる魔王さん。
あ、あああ……な、なんという……。
そりゃあそうだよな……なんで思い至らなかったんだ俺は……。
彼女の哀しみと慈しみで胸が痛い。
「あ、あの……良かったら、俺の分を……って、もう食べちゃってたああああ!?」
これは時空魔法!? いや、魔界の瘴気のしわざ!? 気付いたらケーキが無くなっていたなんて……。
「ははは、良いんですよ。喜んでもらえたならそれで。それに私、今ダイエット中ですし」
絶対に嘘だ……引き締まったボディライン、ダイエットどころか、もう少し食べて欲しいくらいに細すぎるじゃないか……。
「「「「勇者のおじさん、またね~!!!」」」
「本当にたいしておもてなしも出来なくて……。娘たちと遊んでくださってありがとうございました」
「こちらこそ、突然お邪魔してすいませんでした。とても楽しかったです」
足早に魔王城を後にする勇者。彼には新たな使命が出来たのだ。
伝説のコー○ーコーナーでケーキを買ってくるという使命が!!