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勇者カクタの最後3

 振り向くと、ルーナとマルテスが並んで立っていた。やや小柄な、金髪の男女だった。やや小柄と言っても、男と女であるから、マルテスの方が頭一つ背が高かった。少し地味な感じもするが、美男美女だ。

「どうしたんだ?」

 少しふらつくのを感じて“?”と思いつつも、微笑みを浮かべながら、尋ねると、

「あ、のう~。相談があって…」

「ええと~、聞いて欲しいことが。」

とモジモジしながら、なかなか言い出せないように見えた。二人の寄り添う姿を見ながら、ピーンと感じるものがあった。“前々からあやしいと思っていたけど、やっぱりか。”と思った。

“決められない俺に、恋の相談か?皮肉かな?とはいえ、聞かないわけにはいかないか。”

「まあ、なんだ…、廊下で立ち話もなんだから、部屋に入って話を聞こうじゃないか?」

 頷く二人を見て、彼らに背を向けるとドアを開けて、寝室の中に入った。二三歩足を踏み入れると、

“なんだ?この色、光、臭い、不快な音は?”頭の中がガンガンと、目が回るような感じで、不快で、気持ち悪くなり、力が抜け、立っているのがやっとな状態になった。

「勇者様。大丈夫ですか?」

さも心配そうな声で、二人が駆け寄ってきて、前と後ろから彼の体を支えようとした、そうカクタは思った。

「だ、大丈夫だよ。ん?」

 何かが、後ろと前から突き刺さるのが感じられた。直ぐに、凄まじい痛みを感じた。

「何をする?」

 とっさに二人を払いのけようとしたが、力が入らなかった。逆に二人から突き飛ばされ、偶然か、ベッドの上に仰向けに倒れた。

 間髪を入れずに、胸の上に何かの金属の塊、小さな円盤状になった白銀色。それが胸の上に載せられた時、体中から引きちぎられるような痛みを感じた。

「だ、誰か、助けてくれ!」

 多少は大きい声が出た。体は少しだけ動いた。すかさず、二人は何かを突き刺した。ひどい痛みが体中を駆け抜けた。

「これだけの猛毒、100人は死んでいるだけの奴を注入されて、まだここまで動けるとは、さすが勇者様だ。」

「もう100人超分打っても死んでないわね。さすがにしぶといわね。でも、諦めなさい。勇者の力は封じてあるの。代々伝えられている、異世界から召喚された勇者様を殺すための方法。力を抑える薬が、酒や食べ物、歯を洗う物に、体を拭くタオルに、この毒と一緒に、そして、仕上げにこの神器、クリプトン。クリプトンは、あんたの力を完全に抑えて、あなた体を破壊するの。」

「く、クリプトン?」

「そうよ。他のは、ウラン、コバルト、ラジウム、プルトニウム、トチウム、ラドン。」

「は?」

「まだ、意識はあるのか?死ぬまでに、あんたの、くず勇者の罪を聞かせてやるよ。みんな、このことは承知の上なんだよ。」

 “ああ、俺は死ぬのか。殺されるのか。そんなに…あれだけ努力したのに…。本当にみんな?あの笑顔は…。”散々に、彼が死ぬべき理由を言われ、三度目の毒を最後とばかりに、それまでの倍は注入されて、カクタは、引き剥がされるような感覚に襲われた。

「クソ屑勇者は死んだのか?」

 今まで見たこともない、汚い物を見るように顔を歪めた女聖騎士の言葉に、

「奴にいいよっていたくせに。」

 嫌悪感丸出しに非難したのは、ハイエルフの女だったが、

「お前こそ、何度もキスをしながら、長い間うっとりとして抱かれていたではないか?」

と反論され、顔を嫌悪感と屈辱感と怒りで歪めて、

「気持ち悪いのを我慢していたのよ!ハイエルフの私が、こんな屑勇者に本気になるはずないでしょう!そこの猫耳獣人と一緒にしないでよ!」

 突然の飛び火に狼狽えながらも、

「私だって嫌だったのよ!私には、婚約者がいたんだから!」

 女達の言い争いは続いた。男達は、黙って軽蔑した視線を向けていた。ベッドの上に。使用人達も、彼らの態度に関心を持つことも、悲しむ素振りもなく、淡々と作業を進めていた。主である勇者カクタの葬式のである。

 その勇者カクタは、じっとベッドに横たわる自分とかつての仲間達と使用人達を眺めていた。

 彼の姿を誰も気がつかないが、彼は自分の体が幽体の類いではなく、実体であることを自覚していた。物を触れるし、服も着ている。何故、周囲から気付かれないのは分からないが。

“これほど憎まれていたのか?憎まれていたと言うわけではないか、いや、憎まれていたというべきか?”

 二人の話だと、異世界からの召喚勇者は、大体は魔王討伐後暗殺されていたらしい。そのため、そのための方法が確立していたらしい。王侯貴族有力者聖職者達は、カクタを抹殺することを既定のことと考えていたようだ、どうもそれに反対する者も多少はいたようだが。

 さらに、憎まれる理由もたっぷり説明された。まずは、魔族との和解だ。上にとっては、いつ歯をむける危険な存在であり、下にとっては親兄弟親子供友人の誰かが魔族に殺されている者が多く、その和解など許せないことだった。 

 “確かに、恨まれてもしかたがないかもな…とは言っても…。”カクタは、もう一人の動かない自分(?)に投げかけられる言葉に思ってしまった。魔界を見、魔族の捕虜などの言い分を聞いて、和解をと思ったのだが、心情を思えば、とも思ってしまった。滞在地では、食事や酒、宿から資金の提供を受けた。どんちゃん騒ぎなどせずに、特に自分には厳しく自制させ、チームの面々にも自制させた。魔族の襲撃などで荒廃した村々に復興資金を提供したこともある。孤児院の建設資金を出したこともある。しかし、全ては、直接的には領主などからであっても、元々は村々から出された、村々からの負担からなのだ。単に、相対的に少なくなっても、一部返されても、同じなのである。この中世にも似た世界、宗教には慎重に対応したが、一挙一動に、神への感謝にかしわ手を打ったりとかいう仕草などから、異端の神を持ち込んだと言われても、この世界の常識からは否定出来ないことではある。他人の恋人に手を出したことはないが、恋人が、思い人が、勇者のためということで命じられたり、利益から勇者に鞍替えしたりしたことでの男達の立場から見れば…。奴隷の解放とか悪徳商人への態度、制度的なことに介入しないようにしたが、個々には又は状態を改善するよう提案したことは、あまりにひどいと思った時は、ついしてしまった。大したことではなかったはずだが、どちらの側にも恨まれることになったという。“それもあり得るか?”

 あの二人、仲間ではあっても恋人ではなかった。“それも分からない俺の考えなんか…。”次々に責められる行為、相手側の言い分を認めざるを得ないかもしれないとは思うところはあるものの、“そこまで言ったらお終いではないか?どうしたらよかったんだ?”

 彼の聖剣エクスガリバー、聖鎧イージス、魔法石ダイナモが、やって来た近衛兵達により持って行かれた。話しぶりからすると、魔王軍との戦いのため、他の勇者に与えられるらしい。元の持ち主が死んでおらず、その力が元の主に及ばない者が持ったら、それらは本来の実力を発揮してくれるかどうか。

 あることを思い出した勇者カクタは、誰にもぶつからないように、その場限りを離れた。思い出したことがあったからだ。


 


 



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