ついに相対する
魔界の戦いは峠を越した、そうカークは判断したというか決めた。魔王神殿は、とにかく魔王を次々に認定した。圧倒的力のある存在ではなく、そこそこに力を与え、勝ち上がれば力を増して行くという条件でだった。それは、元魔王達や勇者達に任せ、各地でひとつ一つ潰させる方針をとった。カークは、ケイカとテンシアを連れて、龍神騎士族の帝国との戦いに本腰を入れることになった。その帝国、チャイは既に急速に勢力を拡大をして、彼の帝国と対峙するところまできていた。
カークの元には、彼らに国を乗っ取られた王侯貴族王女王子国民達が集まっていた。最早、彼らの言葉に耳を傾け、平和を交渉する段階ではなくなっていた。
魔界からの半ば傭兵化した魔族の将兵もかなりいた、それだけでもかなりの数だった。各地を侵略し征服、乗っ取りして拡大した帝国の人間、亜人の将兵は20万人を超えていた。それも、正面の兵だけで、陽動、迂回の軍が合計10万はいた。さらに、重厚な予備隊がいた。空に飛ぶ数百のドラゴン。海に、大河に進む多数の軍船の数々。
「ほうかなりあの数だな。」
降伏勧告に来た使者の前で、敵陣を見渡すようにしてカークは言った。
「しかしな。」
「?」
その言葉に、跪いていた使者が上目遣いで、彼を見た。
「女達も多いのだが…ケイカとテンシアほどの美人が一人もいないのだ、と思ってな…。」
「はあ?」
呆れた顔の使者を尻目に、
「それは、あまりにも失礼では?本当のことですけど。」
「確かに、皇帝の脇にいるのですら、ブスばかりだかのう。あれが、あやつの趣味か?」
「ダメですよ、他人の好みを馬鹿にしては。」
「まあ、そうだが…。まあ、我らと比べるのがそもそも間違いか?」
「あら、珍しく意見が、一致しましたわね。」
2人のやり取りに、呆気にとられる使者はだんだん不機嫌な顔になり帰って行った。
「まあ、思ったより少ないがな。」
と使者の背中に言葉を投げかけた。
「ふん。負け惜しみを。」
と彼も捨て台詞を忘れなかったが。
20万人、そう号しているだけで実際はもっと少ないだろうが、秘かに後方にまわり、包囲態勢を取ろうとしているだろうし、後方、補給路を脅かす別働隊も送っているだろう。ドラゴンと、それに乗った竜騎士、一頭当たり数人、の協同作戦も色々な方面で活用しているはずだった。それを加えれば、軽く20万人を超えるだろう。さらに、彼らには異形=鬼あるいは鬼神とも言うが、が多数いる。
「でも、彼らはいないのでしょう?存在していないのでしょう?」
「最初から…なのだろう?ならば計算する必要はないのう?」
2人が悪戯っぽく、胸を擦りつけながら笑って言った。
「その通りだ。まず、今夜夜襲をかけてくるな。」
戦いは、彼の予想どおりの夜襲から始まった。
しかし、黒衣を着た兵士立ちは、上空からの照明弾でその姿を暴露されてしまい、すかさず圧倒的な銃の一斉射撃で次々に倒れてしまい、一方的に壊滅してしまった。
その後の戦いの趨勢は、壕、土塁、塹壕、鉄条網等からなる野戦陣地を、素早く構築して前進し、堅固な城塞が大攻勢を凌ぎきり、銃砲が兵力の差を覆して、チャイの軍は圧倒されるしかなかった。魔道士達も、108人と呼ばれる豪傑も、諸国に名高い、チャイ皇帝の二人の義弟を中心とした猛将達も、彼らの振るう、持つ聖矛、鎧等々も、カークとケイカ・テンシアに支援された勇者達に抗することはできなかった。チヤイの謀臣にして、軍師にして、宰相であるショカの夢幻の陣も、竜虎の陣も役に立たなかった。魔族の軍も、魔界での大敗で数は多くなく、逆にカークの配下の魔族の軍に、質量とも圧倒的な差以上の差で圧倒された。頼みのドラゴンも、高射砲による射撃とカークにより、大半が瞬く間に落ちるしかなかった。
それでも、ショカはチャイの軍を何とか撤退指せることに成功した、おびただしい犠牲を出したものの。皇帝を守るようにして、撤収に成功した、本国に帰り着いた時には、主であるチャイ皇帝は、義弟をはじめとするおおくの犠牲をだしだっという心労と戦いで受けた負傷が元で亡くなった。チャイは、彼の息子に据えて、亡き皇帝の願い、理想を護ることにした。
カークは、後追いは、しなかった。広い領域のチャイ帝国を滅ぼすのは容易でも、染料、統治をしようと思うと、補給線が著しく伸びて、駐屯部隊への補給が困難であること等々で困難だと考えたからだ。ショカが、再侵攻のための準備のために国力を蓄えようとしている間に、彼も自分の帝国の整備に努めた。互いに、次に向けて同じことを行っていた、少なくともショカは思っていた。
あれから2年、ショカが、新たな侵攻の準備を続ける中、その議を新皇帝の前で、前皇帝の賛美で、人々を、感動させながら、群臣に担がれた幼女の前に立っていた。それが、はたと止まった。
「何故、お前が、いるのだ?」
そこには、カークとその二人妻が目の前にいたのだった。
「ああ、何時も言われるよ。たいてい、相手が魔王様にだけどな。これが、勇者の戦い方なんだよ、仲間達と共に敵の本陣に飛び込むというのがね。」
「私も小さい頃、絵本で読みましたわ…?それとも侍女や母上に物語りを話してもらったのでしたかしら?」
「50年前の話しか、それは?」
また、ケイカとテンシアがかけ合いのような話しをしていると、後方から、
「何時も、それで苦労させられたよ。」
「30歳を過ぎると、流石に辛いですわね。」
「人使いが荒すぎるぞ、高貴な私に対して!」
はヘブル王子達だった。
「その代わり、ここまでの大半の戦いは、カークと我々がやったのだろうが?」
「そうですよ。もう少し頑張って下さい。もう私達より、年上になった皆さまに言うのは酷かもしれませんけど。」
女達の不満そうな顔に、へブル王子以下ため息をついたが、やる気は失っていなかった。
「二人とも・・・行くぞ!」
そこでの戦いは、カーク達の圧勝だった、しかも短時間で終わった。
だが、結局、それでは終わらなかった。
「正義を裏切る世界だ、ここは。もはや、破滅のみだ。百八の悪神をこの世界に放つ。その禁術を発動した。」
と言って、ショカは自害した。
彼がどうして、そのような力があるのか理解できなかったが、何か、それが事実だと感じられた。
「一つ一つ潰していかなければならないな。」
彼の若い主人は、降伏を申し出、諸侯の1人として許した。
そして、3人の旅が、その1つを潰していく、始まる前ことになる。
(これから先は、その退治のためのスローライフ的3人旅編として、ゆっくりと進めます。)




