人間界の状況
「魔界は、とりあえず彼らにまかすか?人間亜人界の方が、状況が危ないかもしれないな。」
「意外に早く、相手側の攻勢がありそうです。」
「それに、まとまりが予想よりも早く、参加する諸国の数が予想よりかなり多くなっています。」
「かなりの謀略家が動いているようです。」
「予想通りですが、これほどとは。」
「でも、かなり酷いことをやっているわね。内部対立を引き起こしたり、内通者によって王侯貴族を失脚させたり、暗殺したり…。」
「しかも、自分の手を汚さずに他人にやらせて、そいつは煽てられたり、地位を約束したりして…最後はそいつらに罪を着せて処分とかだからのう。」
「相手にするのも、おぞましいわ。しかも…。」
「義とか誠実さを口にしてだからな…。」
ケイカとテンシアは、嫌悪感丸出しに、掃き捨てるように言った。“まあ、予想通りというところかな?しかし…。”
カークは、ケイカとテンシアとともに、彼らの子供のような近臣の男女の報告をきいてから、彼らも含めて今後のことを考えていた。
“こいつらを、こんなところまで連れてきてしまったな。”と思いながらも、
「どうだ、お前たちならどうする?あいつらの立場で、これから。」
2人は、しばらく考える風だったが、
「まずは、自分の兵力は使わず、他国に我々を攻めさせるでしょう。それは、もう直ぐではないかと。それで、こちらの損耗を図り、同様に損耗した同盟国を吸収…いや、侵攻、併合するでしょう。」
「それから、転覆させ率いれた連中を先頭に立てて、本格的に侵攻を開始。その過程で、自らの子飼いの将と入れ替えていくでしょう。」
“ほお~。”ケイカとテンシアは感心するように微笑んだ。
「そうだな。こちらも、予定どおり戦線の一部で、先に打って出る。他は、防衛戦を主にして…。」
そして、一カ月後。
「いったい、いつの間に、あんな所に砦が…。先遣隊からは、なんの報告もなかったぞ。一夜城だとでも?どういう魔法だ?」
そんな叫び声を上げている東方同盟軍の総指揮官の慌てる様子に、軍全体が動揺し始めていた。
「全く、何度も何度も言ったんだけどな。全然わからなかったんだな、結局は。仕方がないな…。一斉に射撃だ、狙撃部隊は準備できているな?よし、攻撃開始!」
長銃身の狙撃銃が断続的に火を噴いた。その度に、時には自分達の後ろにいる指揮官が苦痛の声をあげて倒れ、自分達の前をゆく歴戦の兵士が、士官が仰け反って倒れるのを見ると、足が止まりがちになってしまう。それでも、城門前に、何とか迫り、石鎚で突き破ろうとした1隊が、ガドリング銃でバタバタと倒れていく。完全に足が止まったのを見て、銃弾の一斉射撃かくる。指揮官が踏みとどませようとしても、兵士らは後退を始めた。それを刺激するように、彼らが走る向こうの自分達の本日が、自分の後ろで、大きな爆発音が、衝撃が、熱風が、破片が頬をかするのを感じて、静止する指揮官も、爆発で吹き飛んでしまって、総退却が始まってしまった。
人間界での状況は、西方同盟、北方海軍協定、南方のローマ同盟からの侵攻軍が同様な状態だった。
各地の、いつの間にかできていた、砦を攻め落とせずにいた、ひたすら損害ばかりが増えていった。その上に、砦を迂回した、東方連合だけは、事情が少しばかり違っていた。
「ど、どういうことなのだ?」
本隊も、山岳伝いに進んだろう別働隊も、大河グランを遡上した艦隊も、そのほとんどが帰らなかった。帰ったのは1割弱、敗北というには深刻な、ほとんど一方的な虐殺に近い状態だった。彼らの不可思議な武器、エルフですら矢ではない、その武器を配布されているのは聞いていたし、予想して、対策もとっていた。魔法に長けている者をできる限り動員し、教会、修道院はては犯罪者までも恩赦により動員した、ドアーフ、黒小人などに特注した大盾、聖剣などの魔具、魔獣を、はてはドラゴンまで集めた。彼らの銃砲やらに何とか対抗できたはずだった、彼らの思い込みも大きかったが。
「魔力が抑えられてしまって、魔法防御結界も、魔法攻撃も思うようにいかず…カーツとその妻達の圧倒的に抗することができなかった…。」
と悔しそうに、絞り出すように話す女勇者の言葉に一同が言葉が出ない中で、
「この役立たずが!それでも勇者か?」
と足蹴りにした者がいた。彼らの同盟国の使者の男だった。誰もが見上げる巨漢だが、そるなりに端正な顔立ちをした髭面の男だった。
「ま、待て。彼女が殿で奮闘してくれた御陰で…。」
と飛び出して、彼女の前に楯のようにして立った王子がいた。連合軍に参加した一国の王子で、自国軍の陣頭指揮をしていた。
「うるさい!」
彼ごと、勇者を魔法で飛ばした。
「殿下…大丈夫ですか?」
「勇者様こそ…。」
「私のために…。で、殿下に無礼ではないか?」
その叫びにも、彼は意に介さなかった。彼の国の他の使者も止めようとしなかった。連合軍の面々は、気力を失っていた。
彼は、2人をまとめて葬ろうとするかのように、魔法力を高めた。それは、勇者を越えるのではと思えるほどだった。
「こ、これは…。」
“なんで、これだけの者がいて、参加させなかったんだ。”と突っ込みを、王子はいれたくなった。勇者は、王子の楯になろうとし、それを拒否する王子ともみ合った。が、突然、かれの動きが止まった。
「弱い者いじめは止せ。」
「感心できませんよ。」
両肩に痛みを感じるとともに、魔力が急降下してしまった。
「どうだい?こいつらの本音が、分かったろう?おや?こいつら言動に怒っていない者がかなり多いようだね?こいつらに、主や国を売ったのかな、もう既に?」
彼の前に、若い男が立っていた。自慢の怪力も抑えられている感覚だった。それでも、彼の誇りと忠誠心、彼らに言わせれば聖帝への理想の社会への思いが、絞り出すようにでも、声をださせた。
「な、な、…何をしている!こ…こいつらを…やれ!」
しかし、何も感じなかったし、聞こえなかった。そして、何かの異臭を感じた。
“な、何だ、どうした?”
「悪いな。もう、君の仲間は皆殺しに…ああ一人だけ、自白させるために生かしておいたか。だから、どちらにしても、もう君しか立ってかいないんだよ。お~と、逃げようとしても無理だから、そこに待ち構えているのは、勇者とそのチームだから、君らではむりだよ。」
彼の頭の中は、真っ白になっていたが、
「一人残っているなら、こいつは始末してよいな?」
「そう…ああ、あの女勇者と王様に任せましょうよ?」
「おおそうだな、押さえていてやるから!」
「さあ、早く~。あまりまたせないでね!」
彼の記憶が途切れたのは、その後少ししてからだった。




