故勇者カクタ、故前王妃、故前魔王妃の遺産?
「勇者カクタは、死んだのですよ。カーク・トューキ・カデュートは、何の関係もないのですよ。だから、怨みなどあろうはずがないではあるませんか?もし、勇者カクタが生きていて、かのカーク、その人だったら、私は、生きた身で、あなたの前で、こうして話などしてはいないでしょう?」
「プリマベ神聖帝国皇女であるベラノ王国前王妃は、亡くなられたのです。魔族によって、凌辱され、殺されたのです。悲しい出来事でしたが、あの方はなくなられたのですよ。ですから、かの方の復讐などあろうはずがないではありませんか?」
「カーク様が、ケイカ様が、テンシア様が、勇者カクタ、前ベラノ王国王妃、前魔王妃だろうが、本人達が違うと言っているのよ。この意味が、分からない?復讐などしないということよ。でもね、躊躇していたら、どうなるかしら?」
ヘブロ王子、リリア王女、マルサ王女は、そう言って、交渉を始めた。彼らと関係のある諸国から始めて、芋づる式に広げていった。彼らには、護衛にカクタの時の仲間たちの他に勇者とそのチームをつけていた、彼ら自身もかなりの実力があったが。有無を言わさず殺すと言うのは、あるいは捕縛するのも、躊躇せざるを得なかった。
さらに、いざとなったら、カークは彼らのもとに転送できるように準備はしていた。
「私は、怨みを忘れているなどとは、思っていなかったし、言った記憶はないのですが…。」
ケイカが、文句を言った。反発しているという顔ではなかった。
「我の場合は、夫であるの魔王も、寝取った性悪女も、こいつが殺してくれたからな、もう恨みヨウがないがな…。」
テンシアが同情しているぞという顔をしていた。
「若い、新しい妃が、やはり憎いか?王のほうか?それとも両方か?」
カークも割って入った。
「なくなったわけではないですが、何となく遠いことのように思えて…。」
「まあ、何となく、その気持ちは分かるが。」
カークは、少し前、3人での、カークと彼女達、一対二の模擬戦での、ケイカの放った火球の強さを思い出してぞっとした。“あれをぶつけたら、ひとたまりもないな。”
二人の魔法力、剣さばきなどは、一段と威力が増し、速くなった。彼女達から見ると、
「また、強くなりましたわね。もう少しやれると思いましたのに…。自信過剰でしたわ。」
「賛成だな。こんなに簡単に、余裕で無効化されて、受け流されるとはな…。」
「というより、体よくあしらわれたというか…。」
「そうだな。全歯が立たんな、お互い…。」
とため息混じりに言われたが。
ヘブロ王子達からの交渉の進み具合の報告書を読みながら、カークはこれからのことを考えようとしていた。彼女達もそうだった。
「どこまで、こちらの側に引き寄せられましかしら?まあ、半分でも御の字でしょうね。」
「それで、どう進める?当面の体制で…しかし、その後はどうするか、になるな。」
「新たな戦いに?」
彼女達の意見にカークは、頷いていた。
「これで仲良くなりましょう、にはならないな。こちらの連合としてのには、入ってくれまい。何とか、3年、停戦状態にしたいな、それから…かな?こちらを固めたい、富国強兵、富民強国を図りたいな。」
「その後の戦いに備えてということだな。」
「覇権をそうやって手にするしかないのですわね。」
「そのままで平和にいきましょう、とはならないだろうからな。」
「こちらの考えなど、理解してくれませんから…。」
“その通りだな。もう、毒を飲んでしまったというわけだ。”
「彼らの交渉を上手く進めるために、ふたつくらい諸侯か都市を潰しておくか。」
「おお、恐ろしいな、カーク様は。」
「もともと勇者様が…ですね。」
「反対か?」
「賛成です。」
二人は、ハーモニックしていた。
「たがら、」
「ですから。」
「お主の力が必要なのだ。より強くなってもらわなねばな?」
「そうそう、そして、あなたを助ける私達も、ね?」
「決してだな…、我がではなくて…。」
「べ、別にそんなわけではなくて…。、ね?」
腕をとってすがりついて、甘え声を出す二人に、彼は苦笑したが、
「汗臭くても良いであろう?」
「この人は、その方がいいのですよ、ねえ?」
彼は、窘めるのを諦めた。“それに、二人の遺産の恩恵も大きいからな。”
彼女らの元の臣下、領民がやって来た。人口は、この世界、時代では必要不可欠な力だ。また、統治のための人材もいるし、軍関係の人材も同様だった。それも集まってきているが、彼女らの関係者が芋づるを引き摺るようにやって来ている。
彼らが、心から慕ってというわけでは決してないだろうが、彼女らとのつながりから、わらにもすがる気持ちであったとしても、多少は、ましになると損得勘定であったとしても、彼女らがいるからやって来たのだ。彼女らでなければ、彼らはやってこなかったのだ。カクタの使用人、ほとんど領主として治めた期間のない、彼のかつての領地の住民が人間、亜人、捕虜=奴隷とされ、カクタが引き取った魔族の奴隷も、どういう経路で知り、来たのかは解らないが、やって来た。
全ては進んでいた、もう彼、カーツだけでなく、誰もが後戻りできなくなっていたのである。
「もう、勝ち続けるために、強くならなければならないんだな。だからといって、何裸になっている?」
嫌か?という彼女らに、カーツは抵抗する手段を持っていなかった。




