3人の関係
「わ、私達、出て待ってます。」
その声に、カークは、女達の体を洗う手を止めた。そして、
「お前達が気にすることはしない、ここでは。いいから体を隅々まで、よく洗え。」
とカークは言ったが、
「まあ、よい。我がお前たちを洗ってやる。」
「私も洗ってあげましょう。」
二人の女、ケイカとテンシアが立ち上がった。
「ああ、そうしてくれ。私は自分で洗うから。」
と言った後、ひどく後悔した。“こいつら、子供は乳母や侍女にやらせていたんじゃないのか?ちゃんと扱えるのか?”案の定、二人の女の動きはぎごちなかった。少年少女は、その二人に合わせて体を動かしていたし、女二人の動きもだんだんサマになっていった、あくまで一応だが。
彼ら5人は、この市にある一番大きい、上等な部類の湯屋にいた。安い共同湯ではなく、高いが個室、数人分の比較的大きな個室湯に入っていた。一番高いわけではないが、それなりに高い。ここを借りたことで、少年少女達は、その目的を推測していた。カークは、そのようなことは考えていなかったが。
“この人達どういう人なのかしら?”“怖いよ~。”少年少女、コウとショクは、心の中で問い、叫んだ。
男、カークが3日前、猛毒の短剣で後ろと前から刺され、苦痛の表情を見せて動かなくなったのを見た。しかし、それもほんのしばらくのことで、我を忘れて飛び出して戦い始めた二人の女を追ったのだ。
「そのまま死んでいればいいものを。俺が、ここにいたことが不運だったと、諦めな。」
彼の前に立ち塞がったのは、聖剣を持った戦士だった。彼は薄ら笑いを浮かべて、自信満々だった。既に聖剣を抜いていた。弄んでつもりなのは直ぐに、彼らにも分かった。しかし、次の瞬間彼は真っ二つになった。カークの剣の斬撃は、彼の後ろの数名を斬って、血しぶきを上げさせていた。
「くっそ!」
「何をするのよ!」
魔道士や聖槍をもった女騎士などが、彼に向かったが、もちろん、魔道士達は戦士達の後ろに立ち、戦士達は彼らの支援を受けやすい態勢で彼に向かった。容易ならない相手だと、本能的に感じていたのかもしれない。それでも自信はあった、彼らには。それが瞬く間に斬り伏せられ、焼かれ、感電し、氷漬けにされ、切り刻まれ、押しつぶされて死んでいった。気がつく暇もなく。自分達も同じ運命になると思った。実際、自分達とほぼ同じ歳の少年少女が3人、巻き込まれるようにして死んだ。だから、彼が二人の前で動きを止めた時は、ちびりながらも、信じられなかった。
「お前ら、心配することはない。あいつも、我も、この女も憐れみ深い。」
「そうですよ。裏切らなければ、悪いようにはしないわ。それに、あの人は、困っている人はほっとけないのよ。」
ケイカとテンシアが手を動かしながら、安心させようと言ったのだが、
「あの夫婦なんですよね?」
「ふ、二人とも奥さん?」
“やっぱり分かるか?岩陰でしかなかったからな。”
“聞かれた?隣の部屋だしね、壁も薄いし。”とハットし、“こいつの乱れ方がひどすぎるからだ。”“声が馬鹿でかいから。本当にはしたない…。”と互いににらみつけた。
“あの時も、我が膝がガクガクになっているのを、奴が後ろから抱きかかえて、支えてけれて…せっかく快感の余韻を味わっておったのに、私もたまらないのとかわめいて、奴に体を擦り付けて…。”二人とも、下半身だけ丸出しで、彼に尻を向けて、彼の下半身と自分の尻をぶつけあい、喘ぎ声を上げていたのはおなじなのである。
“昨日だって、彼の下で快感の余韻を感じ合っていたら、早く、早く、我も…なんて叫んで、彼の私の絡み合った手足を外して、彼を引っ張っていって…。”この時も、彼の下になって、両腕両脚を絡ませて、喘ぎまくっていたのは二人とも同じなのだが。
二人は、自分の方が、“美しい!”“上だ。”“高貴だ”“目的のために我慢してやっている。”と心の中で叫んでいた。ただ、それでも、“まあ、美人よね。”“なかなかだがな。”と嫉妬混じりにも認め合ってはいた。“それに、同じ身の上…。”これを思うと、八つ当たり的に相手に腹が立ってしまう。“役に立つし、役に立って欲しいしね。”“利用する価値があるからな。”そこまで思うと、互いに相手の頭打ちから足先まで品定めするような視線を向けていた。
“奴が加わる条件になるだろうからな、言ってはいないが。”“彼は、また、あれを言い出すでしょうね。それを拒否出来ないし。”カークを得るためには、自分達が協力しないといけないことはよく分かっていた。“魔王亡き後の魔界で、人間の国の後援は大きな力になるからな。”“小国の独立を保つ上で、魔族の国が同盟は願ってもない後ろ盾になるわ。”だから、互いに“認めてやる”“永続的な協力、共栄を”とは思ってはいた、あくまでも“あっちが格下!”だったが。
“でも、彼は…彼を利用しているだけ?”“奴を使って…としか思っていないのか?”と後ろめたい気持ちに襲われた。“裏切られた…捨てられた同士…。裏切らない、捨てないわよ。”“お主を、我はずっとともにいたいと思っておる。”弁解のように心の中で呟いていた。
「そろそろ洗い終えたな。湯につかるぞ。」
女二人は、当然カークの両脇に寄り添って湯に浸かった。
「ご心配なく。私はつつしみ深いですから。」
「分かっておる。場所と人の目は心得ておる。」
“今晩、ベッドの上で。”と無言で、意思を伝えていた。
カークは苦笑しながら、
“二人を如何したものかな…。このまま傭兵生活、良くて金を貯めて、小地主、小領主、郷士の妻に甘んじさせるのもなあ…。かといって、こいつらが望む、自分達の領地、国で…は可能か?そこの住民がこいつらに、望み、期待したら…断れないが、そうなったら…。今、耳にした情報なら、一旦は…可能だが、後は自信がない、分からない、いや…。”思い悩んでいた。
“あの時は、気楽で幸福感が…?今とどっちが、幸福感を感じていた?”