動き出す人々 2
「上手がいたというわけか?」
ヘブル王子は、リリア王女とマルサ王女を支えながら、呟いた。
「何を弱気なことを言ってますの?まだまだ、私は戦えますわ!」
「私だってそうよ。ちょっと疲れただけよ。もう回復しているわよ。後、二人は倒して見せるわよ。」
「わ、私も、3人くらいは相手にできますわ!」
“相手は、まだ10人以上いるんだけどね。”彼は心の中で思ったものの、
「勇者カクタの元チームの一員が、簡単にやられては面目ないですからね。」
彼が無理に笑うと、彼女達も弱々しかったが笑った。彼らの周囲には、10人近くの死体、あるいはそれになりつつある、又は手当が遅れたらそうなる可能性のあるのが、あったが、それ以上の数の武装兵が彼らを取り囲んでいた。
3人とも、諦めてはいなかったが、最悪な状況だとは感じていた。“奴が生きているのか、確かめたかった…かな?”“彼に謝りたかったわね?”“今度こそ、奴にかけてみようと思ったのに。”周囲を囲んでいる連中は、かなりの手練れだった。彼らのコースを、予想して待ち構えていと思われた。“奇跡でも起こらないと。”“奇跡が、起こって。”“奇跡が起こりなさい!”起こらないことを半ば確信しながら、願っていた。
奇跡が起こった、起こったらように思えた。
10人以上のかなりの手練れの男女が、瞬く間に倒されていったのだ。瞬く間というより、どうなったのか分からないうちに、彼らが倒れているのが分かったというのが、正確だった。
大きな魔法攻撃があったわけでもなく、いや、ほとんど魔法攻撃などもなく、ほとんど素手で、聖剣、魔剣、他聖具、魔具を持った戦死達を倒していったのだ。
それが一人で行い、その一人の姿が分かるまで、さらに時間がかかった。
「カクタ?やはり生きていたのか?」
「カクタ?カクタ様ですわよね?」
「どうして、生きていたのかは、後から話してもらうけど、今は礼を言うわね。」
それを意外そうに見ながらも、慌てて二人も、
「カクタ。ありがとう、助かったよ。」
「助けてくださって、感謝しますわ、カクタ様。」
しかし、男はすぐに、
「勇者と言われたカクタは死んだよ。私はカクタではないし、勇者でもない。私は、カークという。」
3人を見る目は、懐かしいといった気持ちが感じられるようだし、冷たく観察するようにも見えた。
「それ…カーク殿、助けていただいたことを感謝します。」
ヘブル王子は、そう言うと深々と頭を下げた。女達もそれに習うことにした。
「命を助けていただいて、感謝しています。」
「このこと、いつかはお礼しますわ。」
彼女らも、深々と頭をさげて礼を述べた。
3人の後ろから、
「周囲で隠れていた連中を、処理しておいたぞ。」
「監視していたのが3人、伏兵らしいのが4人でしたわ。二人は捕虜にしましたわ。」
「後は、殺したが、よかったか?」
二人は、その捕虜を一人づつ抱えながら、やってきた。
“殺してから言うな。”
「王妃様!…それに魔王妃?」
3人が、声をあげたが、
「私はケイカ。カークの妻です。」
「我が、カークの妻、テンシアだ。」
しばし、睨み合った二人だが、うなずき合ってから。
「私達は」
「我らが」
そして、
「カークの妻。」
とハーモニーした。
「はあ~?」
ネーミングと態度に呆れながら、3人は、“カクタ、いやカークが名付けたな。”“おばさん…。やはり、本当だった…。”“こ、この男は…。どういう頭を…。”“まあ、あれだけの女に裏切られたからな。”“だからと言って…、やけを起こして…。”“なにか考えがある?結構悪党だから…。”と頭が混乱しながらも、予想していたことではあったが、考えたいを各々巡らせていた。そんな3人を眺めながら、
「彼女達は、実年齢29歳のピチピチの姉さん女房だよ、私の。ところで、こんなところに長居をしてもしかたがないだろう。一緒に来たまえ、いやではなかったらだが。」
と彼は、無感情な調子で言った。
「やっぱり王子も、姫さんもきたんですね!てか…まあ、…でも、どうして…?」
「どうして、あなたまで?」
そこには、町から離れたところに作られた天幕の中には、懐かしい面々が顔を揃えていた。10人以上いる。かつて、勇者カクタと共に旅を、戦いをくぐり抜けた仲間?達である。
「私がいてはおかしいの?」
マルサが、睨んだ。それでも、悪びることもなく、
「そうは言っても…。」
「ねえ?」
身分が格段に違うが、同じカクタの仲間ということで遠慮がないのだ。その意味では、彼女はチームの一員だと認知されている訳だが。小さく笑いながら、ヘブル王子は、
「まあ、そう言うなよ。彼女が、後ろで頑張ってくれていたおかげで、何時も助かったと、亡きカクタも、亡き勇者様も言っていたじゃないか?」
「そうですよ。それに、彼女だって、亡き勇者様の戦いに、たまに参加者したでしょう?その時、実力を発揮したでしょう?」
二人は、“亡き”を強調して、マルサを擁護した。どちらの側も、不満そうだったが、それ以上踏み込まなかった。それを見て、
「君たちは、どうしてここに?」
「結局、カクタに…カーク…様に助けられたというか…。」
ハイエルフの男、アブリルが説明役を買って出た。
「どこで目をつけられたのか、捕捉されたのかは分からないが…。」
多分、一行の中の女達のカクタを巡る言い争い、男同士でも彼の暗殺を巡る罪や責任のなすりつけあいというのもあったが、が原因だったのではないかと言った。女達の半数が、それを聞いて、“あんたのせいよ!と睨み合っていた。”そうでもないと、追っ手をかけられるほど、目をつけられるほど重要な者は百步譲ってもほとんどいなかったからだ。“う~ん。そうでもないんだが。”“きっちり数えられていたわよ。”“私なら根絶やしにしたいわね。”とは思ったが、口には出さなかった。
「君たちの人数と実力なら、追っ手を返り討ちに出来たろう?」
「そういう自信はありましたけどね、かなりの手練ればかりの上、多勢に無勢。たちまち追い詰められてしまって…。」
「それでどうやって、助かったんだ?」
「か…、カークさんが加勢を送ってくれていたんですよ。」
十人近くの一団が現れて、不意を突かれ、圧倒的な実力に追っ手は撃退された。
勇者を中心にした一団だった。カークの元にいる勇者とそのチームが、カークのしじによって、彼らを待っていて、彼の指示通りに加勢したのである。その結果、自分達は救われたというのである。
「ということは、私達も、このルートも、カク…、カークは予想して、待っていて、助けてくれたということわけか?」
「まあ、そうなりますな。」




