拠点の管理
「ここまでできるとはな、考えてもみなかったぞ。」
「流石ですわ。魔王神殿に見込まれた勇者様と言ったところですわ。」
「お世辞か皮肉か分からない言い方だな。」
テンシアとケイカに、不満たらたらといった調子で、カークは返した。
「褒めているんだが、心から。」
「そうですわ。心から賞賛しています!」
頬を膨らました二人に、苦笑するしかないカークだった。
二人が、半ば本当に感心し、半分賞賛し、5割呆れ、50%怖くなったのは、近いとはいえ、早馬でも10日はかかるだろう距離のある二つの館を、一つにつなげてしまったことだった。
もっと正確に、詳しく言えば、元ケイカの、そして今は実際は3人の物となっている館の大広間に入ると、そこはかつてはテンシアが主であり、現在の真の主は3人である館の大広間に入るのである。逆戻りまた真なりである。3人の寝室、執務室その他の部屋も同様なのである。二つの館の一部を重ね合わせ、数百㎞離れた場所に同時につながっている、魔界側にあると同時に人間界側にある、どちらにもないという状態に固定したのである。
だから、それなりに離れた二つの場所を同時に統治し、守ることが可能となったわけである。
しかし、転位魔法すらかなりの魔力を消費するし、そのルート、魔方陣の維持には、やはりかなりの魔力が必要ないである。だから、転位魔法の発動は、稀にしか行われないのである。
確かに、二つの場所を重ね合わせるためには、かなりの魔力を消費させた。カークだからこそできたのである。しかし、固定された後は、もう固定されたので発動とか、維持は関係なくなった。固定のための一種の杭みたいな魔法が必要だったが、魔法石で十分で、数十年分は大丈夫な状態になっていた。だから、問題はないのだ。
「誰をどちらに配置するかだな。」
適性に合わせる必要があるし、皆心が一度壊され、また、それ以上に、完全に壊されたのだから、そのことも考慮して、心が癒させなければならない。カークは、そうも考えた。心が壊れていたため、彼に簡単に心服し、服従の盟約も簡単に結んでくれたが。
「何を黄昏れている。」
「そうですわ。ささっと配置して、早く守りを固めましょう。そして、内部を固めましょう。」
「うぬ。疾きことが勝利につながるからな。」
二人は、既に領域拡大に頭が向いていた。勇者達のリストと睨めっこするように見て、考えこんでいるカークの両側から顔を近づけていった。“確かに、考えてばかりいてもしかたがないな。思い切って決めるか。魔族的な顔立ちの奴らは…それと魔族の奴隷、経緯が不明だが、と彼女が慕う賢者は魔界の側ということで…。あまり目立たなかった、戦う聖女様は人間界にと…。”それで、一気に人選は進んでいった。
“二人には、今後のことを心するように説かないとな。ん?なんで、こいつら服を脱ぎ始めた?”
「だから、…な、もう一回だな…あの副魔王クラスと互角になるかと思うのだ。」
「私達で、魔王の親衛隊くらいは相手に出来たい法学部助かるでしょう?あなたが、魔王を倒しながら、他にもいろいろできるでしょうから…。」
「これからの戦いは、だんだん大きくなっていく。お前の負担を少なくしてだな…してやりたいのだ。」
「そうですわ!だから、別に、その…なにというわけではなく…。」
「そうだ。われら3人の覇業のためにだな…。」
この二人が、さらに強くなってくれるのは、確かにありがたいことだし、これからは二人の強さが不可欠になってくる、いや切実なものとなっていくとカークは感じていた。彼も強くなる。魔王とその親衛隊を、一人で蹴散らすことも、もうすぐ可能になるかもしれない。しかし、彼らも馬鹿ではない。とりあえず、当面の敵を倒すため、二者、三者、いや魔王連合を編成するかもしれない。それに、兵力は、そうそう増える訳ではない。個々で、自分が1,000人の精鋭を蹴散らし、二人がそれぞれ100人の兵に勝てるなら、3人集まれば、数万人精鋭に対抗できなくもない。“だからと言って…。”と文句を言いたかった。案の定、
「5日間、歳をとったからのを…。」
「5日間、御無沙汰でしたし…。」
“お前ら…。”と歯ぎしりしつつも、彼女らの裸体を見て反応している自分がよくわかった。
“29歳と5日か。”その裸体をじっと、嘗め回すように、カークは見た。“俺は、24歳と5日歳か。4歳年上の姉さん女房。この2年近く全く変わらない。これからもずっと変わらない。”まだ、瑞瑞しさを、若さを失っていないが、成熟した妖艶さ、色気を兼ね備えた、その均衡がぎりぎり保たれている肉体だった。“ピチピチではないんだよな。今までの記憶、そして最近では、バーニァや女勇者や聖女達とを見比べてしまう。”ため息がつい出てしまうが、かといって2人に飽きを感じているわけではない。いつも新鮮な魅力を、性欲を感じている。“アラフォーだけどな。”その彼の執拗な視線にさらされ、自ら裸になりながら、真っ赤になって恥ずかしがっている二人は、年上であっても、思わず可愛くなってくる。そんなカークに対して、ケイカとテンシアも、彼に愛されることに、ひたすら喜びと幸福を感じるようになって久しかった。
やおら立ち上がった彼に、反応できないうちに、あっという間に両脇に抱えられ、恥ずかしい格好に抗議するものの、彼はそのまま寝室のベッドに二人を運んでしまった。
自分も素早く裸になったものの、カークはしばらく二人を見下ろして立っていた。
「私は、これから本当に屑勇者になる。」
呟くようなだが、二人にはっきり聞かせようとしていた。
「昔の仲間と戦うことに、悩んでいるのですか?まあ、確かに、かつての仲間を殺すのは辛いでしょうけど…。」
「ふん。おまえを、勇者カクタを殺した、殺しの共犯者達ではないか?気に病むことはない。それに、戦う前に許しを請うもがかなりいるだろう?」
「そうですよ。あの後、失脚したり、失意の日々という連中もいるようですから、彼らを助ける意味もありますわ。」
「そうじゃ。赦して、使えばいいのだ、用は。」
二人は、陽気に考えていた。
「私は、これから、かつてとは比べようもないほどの人、亜人、魔族を殺すことになる。お前達は、その俺と共犯者でいいのか?」
「?」
という顔だった。
「魔界では。あなたなしに、多分あなたが殺すだろう以上の魔族が、魔王の座を巡る争奪戦で死ぬでしょう?」
「人間、亜人も覇権を目指して、戦い合い始めているではないか?」
二人の顔は、“私達が、より少ない犠牲で統一を実現するから良いじゃない?”という顔だった。
だが、すぐに表情を変えた。
「吾らが死んでもいいのか、お前は?」
「私達は、このままでは死ぬしかないのよ?」
“その通りだな。”二人を死なせたくない、それはどうしようもない衝動になっているのを感じた。“ならば、理想をそれに掲げて、偽善だろうが、やる方がいいな。”
「俺達3人は、共犯者なんだな。」
とにかく頷く二人を、カークは強く抱きしめた。
「俺達3人は、共犯者なんだ。もう、戻れない。どんなに死体の山を積み上げても、理想を言い訳にして進むしかない。この関係を維持するために…お前達を俺が楽しむために。」
カークは、彼女らに交互に下半身をぶつけて一体になりながら、訂正するように言った。
さらに、
「お前達とこうしているために、何だってやる、俺は。」
二人は喘ぎ声をあげながら、
「そうじゃ…吾も、お前と離れたくない!」
「そうよ、私達の愛のために世界を犠牲にしちゃいましょう?」
「おお、賛成じゃ!」
二人のその言葉を聞きながら、彼は自分の何かが、外れるのを感じた。




