一石二鳥かな?
「一石二鳥かな?」
カークは、宿の自分達が泊まっている一室で、少女ババアエルフを睨みながら言った。その目に、また、彼女は失禁したが、でるものがもうなかった。度々、失禁してしまっていたからだ。彼女は、この辺の顔、多少なりとも有力者の一人である。天幕を幾つも建てる土地の確保の方法とか色々なことに、知識も経験も豊富だった。この辺の裏情報にも、色々通じているはずだった。
そして、彼を監視しているらしい連中に頼まれたらしい、彼女はあまり実感していなかったが。
「俺が娼婦達になびかない、美人の姉さん達が邪魔をする、姉さんに彼女達の用心棒、色達がネジ伏せられたので、お前のところに泣きついた、ということだな、きっかけは。」
彼女は、娼婦達の元締めの一人だったから、そういう苦情が持ち込まれたのだ。それに、用心棒達が捻じ伏せられては、彼女の権威にもかかわることだし、この界隈の秩序にもかかわることだった。
「は、はい。それで腕自慢の連中を集めていたのです。」
彼女は、助けを求めるような表情で答えた。彼が黙って、続きを促しているのを察して、
「ダークエルフの女が、声をかけてきたんです。」
“ダークエルフ?”カークには思い当たるものがあった。
「まだ若い、褐色の肌の、背丈は平均的な黒髪を短く切りそろえた、見た目は穏やかな美人の傭兵風で、大弓と大剣を背負ったダークエルフの女でした。」
“あいつか?しかし、こんな馬鹿な手段は取る奴ではなかったはずだが…。試したか?”
「まあ、いい。これから私のいうことをやってもらう、いいな?」
「はい。」
必死に彼女は頷いた。
「これで、彼女達を買い戻せますわね。でも、そのダークエルフ、大丈夫ですか?あなたのチームの一員かもしれませんわよ?」
「そうだな…それに、失敗した、あの少女ババアエルフが危ないのではないか?普通、口封じに殺すのではないか?」
二人の心配顔を、なかば無視するように、カークは、目を閉じていた。そして、目を開けると、
「ああ、その通りだ。現れた、あいつだ、私を知っている。」
と言った。
「え、ああ、天眼の魔法ね。」
「で、どうするのだ?せっかくの駒を失いたくない。」
彼は立ち上がったが、直ぐに二人が腕をとった。
「私達も行きますわ。」
「吾もついて行くぞ!」
「私だけで十分だよ。」
カークが呆れると、
「昔のチームの女と二人っきりになんてさせてあげません!」
「その通りだ。昔の女の誘惑に負けないように、我らがついて行くぞ!」
「はあ~、分かったよ。」
3人は手をつなぐとその場から姿を消した。
少女ババアエルフのビエニャが、悪態とも命乞いにも聞こえる叫び声をあげながら、うずくまっている周囲を、十数人の男女が取り囲んでいた。
「私の妹分に何か用かな?求婚なら、私が相談にのってやるが、どうだ?」
カークが呼びかけると、彼らは殺気を発散させながら、彼の方を一斉に見た。彼らから少し離れて、建物に寄り掛かっている女が一人いた。彼女は、カークを見ると、そそくさにそこを離れた。
「あいつを追ってくれ。すぐに後を追うが、十分気をつけてな。」
“やはりあいつか。”
「わかっていますとも。」
「ああ、もちろんだ。」
二人の連携ぶりは、安心できる水準に達していたし、周囲に伏兵らしき者は感知できなかったとはいえ、注意しなければならない。まずは、目の前の連中を、手早く片付けて後を追うことだと、彼を囲むように動き始めた連中の値踏みをした。“あの7人のレベルといったところか…。あいつは、何を考えているんだ?考えなしの馬鹿ではない、どちらからというと、その逆のはずだが…。それに、こいつら、あの7が瞬殺されたのを見ていて、自分らと同レベルの奴らが瞬殺されるのを見て、どうして自信満々な風なんだ?自分らの実力がわからないのか?あいつが、私の相手に選ぶとは思えないが…。”と首をひねったが、自分から積極的に打って出ることにした。
彼らも剣、槍、矛鉞、大剣を手にし、魔法詠唱を始め、半弓、石弓に矢をつがえていた。その彼らの目の前に光弾が迫っていた。その炸裂で、熱線、冷凍線、衝撃波、その他が彼らを見舞った。それに何とか耐えて、得物を構え直そうとしたとき、それが半分以下になっているのに気がついた。
「お、俺の聖剣が!」
て叫んだ時には、なま温かいものが噴き出してくるのを感じた。そして、何が何だかわからない内に彼らは、全員倒れていた。回復、治癒魔法と思ったが、二人を追うことが先だと思ったので、止めた。
「すまんな、帰ってきたら、手当してやるから、それまで頑張って生きていてくれよ。」
再生力の強いタイプの獣人もいたし、再生力を高める身体強化魔法をかけている者もいるかもしれないと、その場合の再生を困難にしておきながら、カークは倒れている男女に呼びかけて、そこを離れた。まだ、うずくまって震えているビエニャに、
「そいつらの応急手当を頼んだぞ。私が戻るまで、何とか持たせてくれ、可能な限りな。」
と一応命じたが。
しかし、さほどいく必要はなかった。
「捕まえましたわよ。逃げるのを、直ぐに諦めてくれて助かりましたわ。」
「我ら二人に、向かってくるのが無謀だと、しっかりわからせておいたぞ。」
“まあ、仲の良いことはいいことですよ。でも、やり過ぎてないですよね?”カークは、二人が押さえつけて、引きずってきているダークエルフに視線を向けたが、ボロボロ、ボコボコにはされていないようだったし、
「王妃様、魔王妃様だよね、本当に化け物だよ。こんなに強かったのかい?」
と懐かしい悪態が聞こえてきたので、ひとまず安心した。
「愛の力が、そうさせたのです。」
「うぬ。その通りじゃ、我ら二人は。」
恥ずかしくもなさそうに、二人は言った。“まあ、下手に躊躇して話すと、かえって恥ずかしいから、いいか。”
「カクタ…。生きていたんだね?」
「勇者カクタは、死んだよ、とっくの昔に。仲間たちに殺されてな、ピエラ?お前だって知ってるだろう?」
彼女の顔を覗き込みながら言った。
「わ、私は…あんたが死んだって聞いて泣いたよ…。」
「ああ、泣いてくれたよな。本当の恋人の男の胸に顔を埋めてな、葬式の時。あいつはどうした?とってもイケメンだったよな、確か?」
あの時と同様、彼女は泣いていた。“後は、ゆっくり話させるか。”切り上げることにした。彼を、“昔の女に!”と見当違いの非難の目で睨む二人に呆れて。




