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異世界姉さん美人妻二人、両手に花…勇者の本音は  作者: 安藤昌益


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22/53

噂が流れていた。

「殿下に、目通りをしたいというエルフの男が。何でも、殿下とパーティーを、チームを組んで旅をしていたと申して…。」

 窺うように、頭が禿げかかった執事の男が言ったのを聞きながら、見事な金髪で、いかにも高貴な身だが、それでいて穏やかな、人好きのするヘブロ王子は、考える風に首を捻ってから、

「分かった。通してくれ。思い当たることがある。」

「分かりました。」

 少し心配そうだった。ある理由から、比較的自由に、気軽に一般人と会うことにはばかりがないというものの、やはり卑しい身分の者が主人に、気軽に尋ねても来るのは、歓迎すべきことではない。それが、かつての知り合いとはいってもだ。

 それでも、頭を下げてから、部屋をでた。

「ハイエルフの男というと…一人しかいないわね。」

 やはり金髪で、優しい顔立ちながら、どこか芯の通った、そして利発そうな小柄の美しいアリア王女は、記憶の糸を手繰りながら言った。

「ハイエルフとは言ってなかったと思いますが?エルフの男は、二人いたろう?」

「私達のパーティーにいたエルフの男というと、確かに二人いましたわね、生き残っていたのは。でも、ここに訪ねて来るなどは、一人だけ、私が思うには。」

「確かにね。あなたに同感ですよ。」

 そうこうするうちに、ドアが開いた。そこには、エルフの平均よりは背の高い、逞しいエルフの男が立っていた。

「お久しぶりです。ヘブル殿下、アリア姫様、え…?何で?…。」

 懐かしさの表情を目いっぱい現して、入ってきたエルフ、ハイエルフの高位の貴族、すなわち属する部族の有力者である、の顔が嫌悪感に歪んだ。彼が、ヘブル殿下、アリア姫と呼んだ男女の他にテーブルの席にいた、女性にしては長身の金髪に近い明るい赤髪の、若い女が目に入ったからだ。女は、アリアと同様高貴な女性の着る上質なドレスを身に纏っていた。どちらも、地味な色合いだが、アリアは優しい感じ、彼女はくっきりした感じだった。

「まるで、魔王を見るような目ではありまんか?かつての仲間に対して、あまりにもひどいのではありませんか?」

 女がじろりと睨んだ。ハイエルフの男は、ハイエルフの高慢とも言われることの多い、気品、彼らが云うにはだが、を崩さなかったが、身を震わせた。

「まあ、マルサ王女には…世話になったじゃないか?彼女があんなだからこそ、私達はやっていけたわけだし。」

「まあ、それではひどすぎません?」

「事実でしょ?そういうあなただからこそ、頼りにしたのです。勇者カクタもね…。」

「あの糞勇者が…。」

 4人の呟きがハーモニーした。アブ王国王子ヘブル王子、リイ神聖王国アリア王女、ルウ連合国マルサ王女、ハイエルフのアブリルは、勇者カクタのチームで旅を、魔王討伐の旅をした仲だった。

「まあ、君も座りたまえ。話しがあるんだろう?ゆっくり話してくれないか?」

「ああ、分かりましたよ。」

 ヘブル王子の言葉に、アブリルは従って椅子に座った。ハイエルフであるが、いわゆる高慢さがほとんどなく、戦力も十分以上あるだけでなく、その知識が大いに役にたってくれたものである。この世界に無知なカクタが、よく彼の話しを聞きたがったものである。

「まあ、カクタは、死んだんだ。」

 しみじみとヘブルが言うと、

「あの糞との旅は、本当に楽しかったわね。」

とマルサが言うと、

「あなたは旅にはあまりいなかったでは、ありませんか?それに…。」

 アリアが、揶揄うように言った。

「わ、た、し、だって行きたかったの!私が行かなかったから、あなた方は楽しくやれたのよ。」

 彼女にしては珍しくふくれっ面をした。“あれ?”“あらあら?”“え?”とそして、“意外に可愛い?”と3人の心の声は一致していた。

「それでも、あんたは、あの糞勇者を殺すことに、真っ先に賛成した。」

 アブリルは、ぼそりと言った。どうしても言いたかったのだ。

「何よ!」

 怒りで立ち上がりかけた。アブリルは、微動だにしなかったが、身構えていた。他の二人は止める、或いは間に入るタイミングを図っていた。しかし、彼女は怒りを収めて、座り直した。そして、

「その通りよ。保身のために、消極的ながら賛成したわ。そして、実行犯の片棒を担いだわ。その挙げ句、失脚したけどね。でも、あなた方は如何なの?私を非難できるの?」

 力なく、彼女らしくなく、問うた。

「知っていて、それでいて積極的に反対はしなかったよ、僕は。」

「私もですわ。」

 3人の視線が集中した、アブリルに。

「私もしかたがないと思ったよ。」

 しばらく言葉が途絶えた。

「ところで、君は、どうしてここに来たのかね?昔話や反省会をするためではないだろう?」

「それに、重要な内容でしょう?」

「自分では背負い込めないから、それを二人が、軽くしてくれると期待してでしょう?」

 畳みかけるような問い詰めに、不機嫌そうな表情を見せたが、大きくため息をついて、意を決したいような顔になって、

「ああ、もちろんだ。」

と言ったものの、それ以上言葉が出てこなかった。間が空いた。マルサが、口を開いた。

「勇者カクタ様が生きているとか?」

「何故知ってる?」

「はい?」

「え?」

「なんて…。」

 3人の目が点になった。それが、回復力するのには、時間がしばらくかかった。



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