2姉と弟に
それから約一年後、3人は拾った二人の少年少女の服や装備、その他の必需品を買い与えるために店をまわっていた。
武器の類いは、3人ともよく分かっているから問題はないし、カークも相場が大体分かっている。
それ以外になると、一番頼りにならないのは元来魔族のテンシアだ。人間とはいえ、ケイカも大して変わらない。いや、やや身分の低い家臣の子供達や庶民への多少の知識があるだけましだった。カークも、それに毛が生えた程度の知識だった。
王妃は、ケイカ・カデュート、魔王妃は、テンシア・カデュートと、カークは名乗らせることにした。彼の姉達ということにしたからでもある。
「ネーミングセンスがおかしい!」
二人は、仲良く文句を言ったが、渋々従い、そのうち庶民のビールやワインに馴れたのと同様に、それでも高級な部類に入るやつだったが、その名前にもすっかり馴れてしまった。
互いに愛(?)を確認しあった、互いの体液と汗の臭いがたちこめる中で、これからのことを相談したものの大した知恵は、考えも、計画等は出てこなかった。ただ、ケイカもテンシアも、既に超一流の戦士になっているから、傭兵として、情報収集も兼ねて旅をする。仕事、盗賊退治から魔獣退治まで請け負って金を貯める。一国を建設する資金等は不可能なのは、確実ではあるが、この3人ならば大きな仕事を請負い、こなしてかなりの金をかせぐことができるはずだから、何かを始める資金にはなる。と言いつつ、カークは田舎の小領主になり、スローライフをする夢を棄て切れていなかった。ケイカとテンシアも、それもいいかなとは多少は思っていた。その一方で、カークがすぐに素性がばれて、そんな平穏な隠遁暮らし、スローライフ等は不可能だとも分かっていた。女達は、宮廷、王侯貴族の誇り、思いを忘れることができずにいた。
それもあって、カークは、二人の直轄地、それも彼女らとの関係が深いところが比較的近くに位置することから、取りあえずそこに行くことにしたのである。新しい支配者の元で、不満をつのらせているかもしれない。そうであれば、彼女らと古くから関係の深い連中を糾合して、そこを拠点にして勢力を、拡大していくことも可能かもしれない。可能性は高いとは言えないが、かけてみてそんなものではない。それで、彼は隠れ家を魔法で封印し、出てきたのである。
「お前達。読み書き、計算はどうなのだ?」
二人は、申し訳ありませんという顔で、首を横に振った。
「魔法は?剣とかは?」
首を横に振るばかりだった。“使い捨ての荷物運び、盾だからというわけか。”
「分かった。」
いつの間にか、自分達の装身具等を探し始めたケイカとテンシアに向かって、
「これから教えてやる。ケイカ、テンシアも手伝ってくれ。」
二人は、その声に物色するのをやめて、競うように駆けつけた来た。
「全く、人使いが荒い奴だ。だが、吾に任せてくれ。立派に教えてやるぞ。」
「あらまあ、人間や亜人の常識に疎い方が何を言ってるのかしら?ここは、私が最適ですよ。」
「何~!」
また、睨み合う二人の間に割り込み、
「今すぐではない。こいつらには、そのうち、荷物運びだけでなく、戦力にも、交渉ごとやら色々に役に立ってもらわないといけないからな。そのためには、読み書き、計算、魔法に武芸と色々ある。分担して、教えるんだ。それより、身につけて飾りにもなる魔法具はなにがいい?」
これも競うように探し始めたが、意外に感覚は同じなのか、意見が一致した。二つ、二人で一つづつ手に持ってきた。
「しかし、お前は先々のことをよく考えるな。少し心配性のようにも思えるほどだが。」
「少し同感ですわ。まあ、先のことを考えるのはいいことですが。」
“実は、今思いついたということが多いのだが。このことも…。”と思い、“まあ、確かに心配為すぎていること多いな。特にこの二人だ。”と心の中で認めた。
いうならば、この世界の元ファーストレディであり、生まれながら高貴な階級の二人が自分との旅に耐えられるだろうかと心配だった。それが、不満顔をしていたものの、しきりに表情を歪めたものの、あまり文句は言わなかった。
二人とも、
「何じゃ、このワインの味は?古いのではないか?」
「このパンの固さは何ですの?スープが薄すぎですよ?」
「ベッドのシーツ…何人使ったのですか?」
「毎日、体が洗いたいのだが?」
等々日々刻々文句や苦情を言い連ねたかったが、言っても無駄だと初めから諦めていた。
3人は、力が、肌を会わせる度に増すという実感は、多少日が過ぎると、あまり感じなくなったが、気がつくと、より強くなっているのを感じた。そして、この1年ほどの間、魔界と人間界を通り抜けながら、盗賊退治、魔獣退治、賞金首などから、小さな仕事まで受けて金を稼いできた。魔獣の牙や皮等を売ったり、盗賊等の身につけていた金や金目のものも根こそぎ奪った。
特に、魔王亡き後の魔界は、無法状態なっているところが多く、さらに人間界に略奪に行く輩も増えた。ある意味、いい仕事を提供してけれていた。
人間・亜人界はというと、魔族の脅威、襲撃・略奪が多くなったとはいえ、統制のとれない、少数の、非正規兵のであり、以前とは規模が違った、か大幅になくなり、弛緩して、かえって治安が悪化したところもあるが、概ね平穏だった。ただ、共通の脅威がなくなり、各国、各部族の対立が静かに高まっている感じた。
“チャンスはあると言えるが…。いくらこの二人が一騎当千になっても、3人では足りない。仲間が…子飼いの家臣みたいなのが、それなりにいないと…。それが核となって家臣団を…、そううまくいくかどうかは分からないが…。”と思っていると、二人の少年少女が、買い与えた衣服、装備を身に付けて彼らの前に立った。
「うん。馬子にも衣装。頼もしく見えるぞ!」
カークに言われて、二人は嬉しそうに微笑んだ。“まずは、この二人だな。1だろうが、1,000を掛ければ1,000、使いようによっては、2,000にも、3,000にもなる。”
そして、コクとショク、昨日名前を付けた、本来の名前を二人とも持っていたし、記憶していたが、敢えて新しい名を付けたのだ、彼らも、あのグループに捕まえられて名前をよばれなかったことから納得した、を見ながら、“まず、こいつらからだな。家の子郎党の、第一号、二号だ。先は長いがな。”